世界の研究所 米国MIT CSAIL

医学系の話が続いたので、今週は目先を変えて、米国MITのCSAIL (Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory)を取り上げます。兼任も含めて約100の研究室、構成員は学生を含めて900人越、年間$65M(150円換算で100億円?計算間違いではないですね?)の予算があるそうです。 https://www.csail.mit.edu/about/mission-history ここのスピンオフに、四足ロボットで有名なBoston Dynamicsがあります。 英語は https://www.csail.mit.edu/news…

百人一首(8) 時には月を見上げて昔を思いましょう 7 21 23 31 36 57 59 68 79 81 86

ときどき空を見上げていますか?上空に氷粒ができてきたためか、月が橙色っぽく見えるようになりましたね。今週金曜日の百人一首は、月に関するものを探してみたら、たくさんあり、傑作が多いです。日本人は月が好きなのかもしれません。他の言語の詩で月はどう扱われているか、調べてみたいです。(英訳はPeter Mcmillan, 文春文庫) 7 あまの原ふりさけ見ればかすがなるみ笠の山にいでし月かも 安倍仲麻呂 I gaze up at the sky and wonder / is that the same moon / that shone over Mount Mikasa / at Kasuga /…

プリオン研究における事故

タンパク質の折り畳みが異常になってそれが感染するというプリオン病は不思議なことが多く、盛んに研究されています。例えば、多次元NMRでタンパク質の各部分の距離を測定することができるので形状が分かります。その実験とコンピュータシミュレーションを組み合わせた昨年発表の研究などは面白いです。まれな過程の効率的なシミュレーションの例(metadynamics、いずれ解説しましょう)として勉強になります。 https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2019631118 この論文ではプリオンの断片を扱っていますが、断片ならば病原性はないのでしょうか。黄熱病の研究などでも野口…

スーパーおたくと今後の創薬の方向性

近代創薬の祖は、Paul Ehrlich と言われています。病原体のみを狙い撃つ「魔法の弾丸 magic bullet」を有機化学で絨毯爆撃で見つけようという、狂人と言われても仕方がない目論見に606番目の化合物で成功してノーベル賞をもらっています。私の宗教観では、正しいことは天が味方することもあるという例の一つです。スーパーおたくを許容するドイツの国民性恐るべしです。日本の文化も歴史的に自分の道を突き進む人に優しいです。頑張りましょう!(一緒にされると怒る人もいるかもしれません。失礼しました) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%82%A6%…

アルツハイマーの免疫療法

アルツハイマー、レビー小体型認知症、ALS(筋無力性側索硬化症)等のいわゆる神経難病のうち少なくともいくつかはタンパク質の異常な折り畳み(folding)の変化とそれに伴う異常な集合体形成が神経細胞を壊すためではないかという説があり(先週と今週紹介した研究所)、アルツハイマーについては、関与するタンパク質は説が分かれていますが、定説となっているように見えます。神経細胞は壊れると再生が困難なため(最近、不可能ではないことが発見されています)、重大な機能障害を招いてしまいます。 それなら問題となっているタンパク質の異常な集合体を除去するように免疫を使えばいいのではないか、という発想で、ワクチンそし…

世界の研究所 東京都医学総合研究所

今週の世界の研究所は、東京都医学総合研究所(Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science)を取り上げます。ここは、東京都が所管する公益財団法人という形式で運営されています。東京都の保健医療、都立病院等との連携の他、先週から続きのタンパク質凝集に伴う疾病や、免疫等についての基礎研究が行われています。 https://www.igakuken.or.jp/labo/laboratory.html 下記インタビューはこの分野を概観するのに参考になります。 https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/s2_05/…

百人一首(7) ヨモギがなぜたくさん詠まれているか? 9,54,59,74,75

今週金曜日の百人一首は、薬を扱ったものを探しましたが、薬の効かない恋わずらいや老いに関する歌しかありませんでした。恋わずらいだけでなく、目についたものを写してみました。英語と比較すると、日本語は感情の機微を詩にしやすいように思いますが、英語の詩をちゃんと読まないと判断できませんね。 ※「さしもぐさ」=ヨモギ が古い和歌にはたくさん出てきます(例:百人一首 51,75など)。地味な植物なのに不思議ですね。ヨモギはお灸につかう「もぐさ」の原料なので、医薬品としてなじみがあったためでは?というのはいま私が思いついた説です。 お灸は6世紀に伝来し、平安時代には使われていて、百人一首の編纂者の藤原定家も…

製薬会社はロードマップを公開している

タンパク質の異常凝集がかかわっている(原因か結果かは別として)疾病(しっぺい)の話は来週も続けるとして、最近の会議で聞いた情報として「製薬会社は創薬のロードマップを公開しているが、他の製造業は公開していない」というのがあり興味をもちました。ロードマップ(road map)というのは、課題を複数設定して「いついつまでにこれをやる。そのために必要なこの課題をいついつまでにやる」という工程表のことで、いろいろな学会でも作りますが、学会のものは面白そうな思いつきをいろいろ取り込むので、ぐちゃぐちゃに枝分かれすることが多いです。創薬の場合は、病気を治すという目標があって、その病態の分子レベルの理解、問題…

アルツハイマー型認知症とアミロイドβ

アルツハイマー型認知症の原因については「アミロイドカスケード仮説」というのが定説になっているようです。 https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%84%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%BC%E7%97%85 これは、アミノ酸40~43個からなる「アミロイドβ」というペプチドが凝集(繊維状のゆるい結晶秩序をもつ)・不溶化し、それと平衡にあるアミロイドβオリゴマー(分子数個の可溶な凝集体)がシナプスに対して毒性を持ち神経細胞を破壊していくようです。健康な神経細胞も未知の物質を作るときの副産物としてア…

ローヤルゼリーが女王バチを作る仕組みには論争がある

昨日のミツバチの巣で女王バチの部屋をほかの巣から持ってきて女王バチを再生する話が興味深いです。働きバチから分泌されるローヤルゼリーは3日目まで全幼虫に共通に与えられていますが、それ以降にも与えた幼虫が女王バチになるそうです。女王の部屋(王台というそうです)にいる幼虫にはローヤルゼリーを与える習性があって(未確認)、王台を移植したのでしょう。 https://www.akitayahonten.co.jp/aki0303-09.shtml https://en.wikipedia.org/wiki/Royal_jelly 女王バチにする因子はローヤルゼリーの中のMRJP1というタンパク質であると…