世界の研究所:上海交通大学・李政道研究所

企業の競争の話が続いたので、今週は浮世離れした明るい話題ということでレーザーを使った加速器の話をしましょう。いくつか研究所がありますが、大規模な装置を持っている上海交通大学の李政道研究所(Tsung-Dao Lee Institute, TDLI)を見てみましょう。 https://tdli.sjtu.edu.cn/EN/about/overview 李政道博士は今年の8月に97才でなくなりましたが、E.Fermiの弟子、同門の楊振寧博士(101才で存命)とともに素粒子反応における弱い相互作用のパリティ対称性の破れを発見してノーベル物理学賞を若くしてもらっています(1957)。 TDLIは上海…

Hillbilly Elegy(7):海兵隊の4年間

金曜日の読書”Hillbilly Elegy”は第10章、高校を卒業して海兵隊に入り4年間を過ごすところです。筆者は大学に行こうとしていましたが、高額の授業料をローンで賄うことに悩んでいました。海兵隊OGであるいとこの女性に薦められて海兵隊に行くことになります。すぐ13週間のブートキャンプが始まり、社会について何も知らないことを前提とした丁寧な授業と、厳しい肉体訓練、そして自制心を鍛錬するための上官のいじめ(食堂で食べようとしたケーキを叩き落されて掃除させられた)があります。朝5時に起床し起きている間はずっと監視され規律を保たねばならない生活です。現代の日本ではそういう…

「後工程」で使う3次元微細配線をもつシリコン

半導体でいま一番伸びているのが生成AIのための大規模並列計算チップです。米NVIDIA社(エヌヴィディア)が画像処理用の桁数の小さい超並列計算チップ(graphic processing unit; GPU)を作っていましたが、NVIDIAはそれを科学技術計算に使うためのCuda(クーダ)という言語を開発し、爆発的に人気が出ました。 https://ja.wikipedia.org/wiki/CUDA 私もCudaの使い方は勉強したことがあります。並列計算はメモリの共有、同期の取り方など普通のプログラミングからもう一段複雑な(より電子回路に近いレベルの)ことを考えないといけません。GPUを一般…

インテルとコンパイラ

なぜかわかりませんが、私は追いかけられて負けそうな先駆者を応援したくなります。インテルはその条件にピッタリ当てはまります。インテルは、FortranやCなど高級言語のコンパイラも社内で作っていて、私も世代が変わるたびに何セットも購入しました(1つ10万円以上)。いかにオープンソースが充実していてもハードウェアに一番近いところはメーカーが作る必要があるでしょう。AMDは設計をインテルに寄せた(?)2017年のZen Architectureで、ほぼ同等の性能をインテルの半額で実現したため、シェアを大きく伸ばしました。そのためかどうかわかりませんが、インテルのコンパイラは無料になりました。インテル…

AMDの96コアCPU

1個の価格が173万円のCPUチップ AMD threadripper 7995WX はトランジスタ数 79億個で、「5nmプロセス」で作られています。この「XXnmプロセス」というのは、トランジスタの集積度を2次元的に見たときに何nmの配線に対応するか、という値で、実際のEUV(extreme ultraviolet, 極端紫外線, 波長13.5nm)での加工寸法は約13nm以上で、それを3次元方向に積んで作った回路を2次元として見たときの値です。 https://www.techpowerup.com/cpu-specs/ryzen-threadripper-pro-7995wx.c330…

世界の研究所 Intel vs AMD

先週は航空機の2大メーカーについて調べて自分では楽しかったので、今週はコンピュータのCPUのメーカーを見てみましょう。2大メーカーはIntelとAMDです。一部Arm関連やNVIDIAに言及することもあると思います。 Intelの株価は最近すごく下がっています(泣)。長期的にみると70ドル~20ドルの上下があり、最近は底値か、これからまだ下がるのか、といったところですね。 https://www.macrotrends.net/stocks/charts/INTC/intel/stock-price-history CPUのシェアはAMDに猛追されましたが、下げ止まっています。Intel:AM…

Hillbilly Elegy(6):高校生になり生活が安定し視野を広げる

金曜日の読書”Hillbilly Elegy”は第8~9章、高校2~4年生(日本の高校1~3年に対応)に母と別れ祖母と暮らすようになって生活が立て直されるところです。一人暮らしの年老いた祖母の邪魔をするのを恐れて母のパートナーが変わるたびに一緒に転居を繰り返していましたが、高校の近くの祖母の家に短期滞在中、母が看護師協会の抜き打ちドラッグ検査で尿を提出する必要があるので代わりになって欲しいと頼みに来て危機的状況が祖母に発覚しました。そこから祖母と一緒に暮らすようになり成績も向上し、祖母の勧めで近所のスーパーでレジ打ちのアルバイトをするようになって、経済的階層の存在や福祉…

BoeingとAirbusの最近の実績、超音速旅客機

Boeing 737MAX(MAXの文字は使わず、サイズにより-8,9,10がつく)に対応するのはAirbus A320neoシリーズ(A319neo,320neo,321neo)です。事故の影響で受注実績には大きな差が出ました。事故後の改善の結果、737MAXは安全であるとされていてこれから増えてくると思われます。 https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Boeing_737_MAX_orders_and_deliveries https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Airbus_A320neo_family_order…

Airbusの侵食によるBoeingの焦り、江戸の貨幣発行者「金座」の不正

https://www.amazon.co.jp/dp/1737640503 をざっと読みました。”Air wars: the global competition between Airbus and Boeing”という題名どおり、新興のAirbusがBoeingの牙城を侵食し優勢になる企業戦争の歴史を説明しています。結局、利益の大きい軍用機のビジネスを増やそうとしてMcDonnel-Douglas(MD)社を合併したところが一つの要因になっているように思います。有名な超高度爆撃機 B-29はBoeing社の製品で、軍用機は昔から作っていましたが、B-747の大ヒッ…

Boeingの最近の事故

Boeing社の不調の要因はコロナもありますが、立て続けに起きた2件の墜落事故、および今年起きた上空での非常扉の脱落事故の影響が大きいです。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0737_MAX%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E9%A3%9B%E8%A1%8C%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%96%E3%83%AB https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%82%B…