Hoffmann — Epilogue and Notes

今週でHoffmann & Schimidt “Old Wine New Flasks - Reflections on Science and Jewish Tradition” は終わりです。あとがきには、この本ができた経緯が書いてありました。 Hoffmann教授がイスラエルのBenGrion University の名誉博士号を授与されて記念講演をしたときに世話をした学長の秘書がもう一人の著者(Schimidt女史)で、第1章(Is nature natural?) の骨子(記念講演の内容紹介と考察)を新聞に書いたのがきっかけだそうです。ユダヤ人の歴史、…

Hoffmann ラクダの隊商とタンニン

今週のHoffmannは、第8章 Camel Caravans in Pentagonの続きです。本筋は、米軍兵士の中のユダヤ教徒が戦場で礼拝するときに、羊皮紙に書いた巻物の代わりに写真にとったものを使ってよいか、という問題の解決策で、ラクダの隊商において例外的に使われた規定(通常の儀式には紙に写したものを使ってよい)を準用する、という国防総省の見解があった、というものです。羊皮紙の化学についていろいろ説明があり、面白かったのは、皮をなめすのに使われたtannin (ポリフェノールの一種)の化学的作用で、皮の成分であるコラーゲンをでたらめに架橋して繊維を絡み合わせること、銀塩写真フィルムの工場…

Hoffmann 羊皮紙

今週のHoffmannは、第8章Camel Caravan to Pentagonからです。Hoffman教授はポーランドとウクライナの間の地帯で生まれ、5歳の時に収容所に送られましたが、うまく脱出できてかくまわれたそうです。町の8000人のユダヤ人のうち生き残ったのは150人で、父親も収容所で亡くしています。話は、米軍の戦地でのユダヤ教の礼拝で羊皮紙に書いたものが使えないが写真でよいか、という話からいろいろ脱線しています。 pogrom 「ポウ」グロム 組織的な虐殺(レベル22) smuggle 密輸入する、秘密に持ち込む、隠す スマグル(レベル9) smuggler 密輸人 pious パ…

Hoffmann 純粋と不純、説教と予算

今週のHoffmannは、第7章Pure/Impureからです(次が第8章で最後です)。旧約聖書のエレミヤ書に、金属精錬を例えとして純粋さについての記述があるところから始めて、著者2人の対談(一人の記述が長いのでメールか書簡による対談)が進んでいきます。信仰は純粋なほうがよいと昔から言われてきたが、自然界は純粋なものが良いばかりではない。合金のほうが力学的性質に優れる、フェロモンは多くが多成分、高温超電導体のように格子欠陥(酸素欠損)が必要な場合もある。それに、人間で純粋さを追究すると民族純化という怖い歴史があった、自然界はエントロピー増大則により純粋なものが減っていくが、相分離によって同じも…

Hoffmann 交通標識の裁判

今週のHoffmannは、第6章”Signs and Portents: No Parking in the Courtroom”、交通標識が間違って取り付けられていたたため駐停車禁止の箇所で駐車して違反切符をもらった学者の裁判の話です。実在かどうかわかりませんが、裁判記録をドラマ仕立てで紹介しています。丸に斜め線の駐停車禁止の標識が横棒になっていた場合に違反切符は有効かどうか、という裁判が最高裁(!)で裁かれます。標識とは何か、化学における分子式や、記号論などを使って議論しています。面白いですが、詳細は書ききれません。一例をあげると、「Scotland では男性も s…

Hoffmann 藍の染め方

金曜日は「今週のHoffmann」と称して、Woodward-Hoffmann則の理論家 Roald Hoffmannが著者の一人である Old Wine New Flaskから面白そうなところを引用しています。この本は、ユダヤの伝統と化学のエピソードを混ぜて解説した独特の本で、何か役に立つ文化的側面がないかと思って読んでいます(ここで取り上げるのは、単語が難しいので自分では面倒で読まないからです)。2000年以上の間、時代に合わせて議論を尽くしそれを記録する民族性について私の認識は深まりました。最近の「サピエンス全史」(Y.N. Harari著)の著者はイスラエルの人ですが、訳者による下記の…

Hoffmann  キラリティが炭素四面体由来であることはファントホフが22才で指摘した

今週のHoffmanは第3章”You must not deviate to the right or the left”からです。分子のキラリティから始まって、権威と意見が対立した場合の振る舞いについて、Talmudとキラリティの研究史を使って説明しています。面白かったエピソードは、分子のキラリティが炭素の四面体からできているという論文をかいた若者たちを(van’t Hoffと Le Belが独立に提出)、権威(H.Kolbe、無機物から有機物を合成した業績および有機電解反応で有名)がけちょんけちょんに批判したことです。van’t Hoffは熱…

Hoffmann  奇跡について

今週のHoffmanは先週のLake Marahの奇跡(苦い水が謎の植物を入れたら甘くなった)に関連して、著者たちが奇跡をどう考えているかの手がかりを探ってみましょう。 個人的には、超伝導や磁性は奇跡的な現象だと思います。また、しばらく前のsuper volunteer の話は一種の奇跡だと思います。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%BE%E7%95%A0%E6%98%A5%E5%A4%AB 1.The authority convinced by the miracle that repeats itself so many times - the …

Hoffmann  Lake Marah の奇跡

今週のHoffmannは第4章に飛びます。Bitter Water Runs Sweet という題で、Lake Marah の奇跡に科学的な説明が可能かどうかを議論する43通のe-mail(mailing list)から構成されています。 https://en.wikipedia.org/wiki/Marah_(Bible) 1章もそうですが、演劇のような手法で書かれており、冗談やe-mail上の喧嘩もあって読ませます。 Lake Marahの話は、苦い水にモーゼ(Moses)が神様に教えられた植物を入れたら甘くなって飲めるようになった、という聖書の記述です。アルカリをクエン酸で中和した、鉄塩…

Hoffmann  枯山水

今週のHoffmannは京都の枯山水(かれさんすい、かれせんずい)を例にとっている一説です。この章では、学生、その親戚、Hoffman先生の往復書簡の形で自然と人工の違いについて議論してきました。音楽、絵画における「自然」の取り扱いの変遷を議論し、自然と人工の間に橋をかけようとする化学や生命科学の話になって、中世のユダヤ詩との関連で枯山水がちょっと出てきます。枯山水は室町時代に日本の禅寺で発明されたと考えていいと思います。枯山水は日本のethos(下記)を示す代表的な例だと思いますが、応仁の乱で水を流す工事をする経済的余裕がなくなったから、といううがった説があるようです。不利な環境で「もがく」…