Why Nations Fail (10):第13章~第15章(完) ジンバブエとボツワナの違いは

金曜日の読書 Why Nations Fail 今週は最後まで行ってしまいましょう。 第12章は、最近も続く収奪的制度のエピソードです。ジンバブエ、シエラレオネ、コロンビア、アルゼンチン、北朝鮮、ウズベキスタン、エジプトが取り上げられています。ジンバブエは2000年ころに経済破綻したことで有名ですが、大統領に逆らった中央銀行総裁が暗殺されたりした挙句、対策を怠ったためエイズがまん延し人口の1/4がり患して経済が回らなくなってしまいます。そのさなかに大統領が宝くじの一等に当選した(結果をいじったため)というエピソードが取り上げられています。他の国も似たようなもので独裁です。コロンビアには私は行っ…

Why Nations Fail (9):第9章~第12章+チャーチル+ヨーゼフ2世

金曜日の読書 Why Nations Fail は飽きてきたのと、次に読みたい本が見つかったので飛ばしながら行きましょう。歴史を顧みると為政者が善人とは限らないという「性悪説」に立つほうがよく、何もしないでいると「寡頭制の鉄則」で発展しない停滞した制度に落ち込み維持される確率が高いです。そのために民主主義が「最も悪が少ない」制度として存在している、というのがチャーチル(W. Churchill)の警句でした。 さて、9章~12章です。9章はヨーロッパの植民地主義がもたらした貧困、10章はイギリス以外で発展した地域がどういうしくみで発展したのか、11章は民主制度がもたらす好循環を説明しています。…

Why Nations Fail (8):第8章 産業革命を拒否した地域

金曜日の読書 Why Nations Fail 今週は8章、イギリスで産業革命がおこった時期(1700年代, James Wattの発明は1769年です)、他の地域では何が起こっていたかの解説です。 スペインは南米からの金銀により王権が強化され、収奪的制度が続きました。オスマン帝国では、支配層のイスラム法解釈の独占権が失われることを恐れ、グーテンベルグ発明(1445)の印刷術の使用を禁止しました。神聖ローマ帝国では、マリア・テレジアとその子ヨーゼフ2世(在位1765-90)が貴族の特権を廃止し商工業を発展させようとしますが抵抗勢力(=貴族)に阻まれます(このあたりは本文の記述=貴族による諮問会…

Why Nations Fail (7):第7章 なぜ産業革命はイギリスで起こったか?

金曜日の読書 Why Nations Fail 今週は7章、なぜイギリスで産業革命が起こったかについての考察です。マグナカルタ(1215)、ばら戦争(1455-1485)、清教徒革命(1642-49)、名誉革命(1688)など高校の世界史で習った話が述べられています。マグナカルタは、王の専横を抑制するために貴族25人が王権を制限できる約束の文書(=大憲章)を作った、というもので、エリート層を王室から拡大する動きを表しています。その後ばら戦争による封建領主の没落がおこり、有力者の多様化と拡大が進みます。1500年代には「靴下編み機」など発明が起りますがエリザベス1世に禁止された記録が残っています…

Why Nations Fail (6):第6章 包括的制度の喪失による没落:ベネチアとローマ帝国

金曜日の読書 Why Nations Fail 今週は6章、目からうろこの考察が続く章です。例として取り上げられているのが中世の都市国家ベネチアとローマ帝国本体です。 ベネチアはイタリアを長靴に見立てると、付け根の後ろ側(東側)に位置する港町です。AD810年に東ローマ帝国から独立を果たしました(このあたりは複雑です)。1310年に一種の貴族政治が確立するまでは繁栄を保ちました。ローマ帝国崩壊後途絶えていた地中海の公益を、独立の立場を生かして一手に担うことができたため経済的繁栄がもたらされました。特に、都市にとどまる資本家と船にのる無名・無産の商人がペアを組む制度が制度的イノベーションを誘発し…

Why Nations Fail (5):第5章 専制下での限界による経済成長の停止はしばしば悲劇を生む

金曜日の読書 Why Nations Fail 今週は5章です。収奪的な政治経済制度の下での成長の限界と、成長が終わる時に発生する悲劇について説明されています。最初の例はソ連です。本の説明を単純化すると下記です。 帝政ロシアの独裁→1917年ボリシェビキ革命による独裁の成立→経済を科学的に再整理し発展を計画(米国からの使節が「私は未来を見た、上手くいっている未来を I’ve seen the future. It works」とコメント)→1928年から1960年まで年6%のGDP成長→1970年代に停滞に陥る→1988年に崩壊→ロシア→・・・ です。 停滞の理由は、労働者に発想を…

Why Nations Fail (4):第4章 1346年からのペストの流行が産業革命の遠因だった

金曜日の読書 Why Nations Fail 今週は4章です。偶然の出来事が大きな進路の違いを生み、繁栄した国と貧困にあえぐ国が生じるという主張を展開しています。偶然の出来事の積み重ねが歴史である、と言っていますが納得できます。まず、ヨーロッパで包括的(inclusive)な社会ができた理由を1346年から繰り返し猖獗を極めたペストに結び付けています。全人口の1/3が亡くなったため、当時の封建社会で下層階級であった農民の数が減り、労働力の価値が上がったため、条件の良い領地に移動できるようになります。これがイングランドで何度か起こる革命の遠因であり、それによって国王や領主の力が制限されて包括的…

Why Nations Fail (3):第2,3章 多数を占める労働者階級が自由に利益を追求すると経済発展につながる

金曜日の読書 Why Nations Fail は、実例が面白いです。今週は2章と3章を見ていきましょう。2章は、貧困国がある理由を、地理的条件、文化、指導者の無知などで説明しようとする説が間違っていることを実例を挙げて説明しています。地理的条件はメキシコと米国の国境の町で経済格差が3倍あることにより否定、文化(宗教や国民性)については、急速に経済発展する国があることが説明できないことにより否定、指導者の無知についてはガーナの例が挙げられています。初代大統領エンクルマは独裁傾向、その次のブシアは民主化を志向していましたが、経済は非効率のまま推移しました。ブシアは通貨価値を高く維持しようとしたた…

Why Nations Fail (2):第1章 国家間の経済格差の原因:仮説の提示

金曜日の読書 Why Nations Fail は、まさに天下国家を語る本です。年代も場所もバラバラに出てきますが、歴史書としても面白く読めます。中央集権が確立した国の政治・経済の制度には「包括的」と「収奪的」の両極があって、これまでのいろいろな国や地域社会はその間のどこかに位置づけられます。この本では、inclusive (訳本では「包括的」)な社会はイノベーションが頻繁に起こり構成員が豊かになりますが、extractive (同「収奪的」)社会は貧しいままである、という主張を論証し、ではどうすればいいのかを提言しています。 第1章は、現在の米国とメキシコの国境にある米国アリゾナ州ノガレス(…

Why Nations Fail (1):序章 国家の制度と経済発展の関係

金曜日の読書について、アップル社の元重役の start up (ベンチャー企業)に関する本を考えていたのですが、Hillbilly Elegyと同じくらい現代アメリカにかかわる濃い内容なので、少し変えて気楽なものにしたくなりました。今年のノーベル経済学賞受賞者3人のうちの2人(D. Acemoglu & J.A. Robinson)による”Why Nations Fail - The Origin of Power, Prosperity, and poverty”(国家はなぜ衰退するのか)を読みましょう。これも実は重い話ですが、共感すると心が苦しくなるような著…