世界の研究所: Inst. of Volcanology & Geodynamic ANSRF, Russian Academy of Science

先週はダイヤモンドアンビルセル(diamond anvil cell)を使った放射光実験で、ガスケットとして使用する元素レニウム(rhenium, Re)の板をいじっていました。今週の世界の研究所は、レニウムの鉱物であるReS2を1994年に発見した樺太のユジノサハリンスク(豊原)にある Inst. of Volcanology & Geodynamic ANSRF, Russian Academy of Science をとりあげます。wikipediaにも載っていない小さな研究所だと思います。研究所のwebも見つかりません。が、ここの研究者(とInstitute of Experi…

The Door into Summer(9) サスペンスとヘタウマ

金曜日は「夏への扉」を読みながら「時間」について考えていますが、今週は余力がないので第8章の解説にとどめます。第8章は3つの動きがあり、一つは冬眠前に猫好きの少女リッキーに郵送した、乗っ取られた自社の株券の行方、もう一つは現代で使われている自動ロボットや自動製図機の特許を取り寄せたところ、全く覚えていないのに自分の名前で特許が成立していたこと、一つはタイムマシンの登場です。この話のタイムマシンはエジンバラ大学(コロラド山中の米軍の研究所に招聘)の偏屈なトゥイッチェル(Twitchell)教授により発明されました。このタイムマシンの面白いところは、2つのほぼ同じ質量の物体(生物でもよい)を一つは…

シロアリの女王と王ではテロメラーゼが働いている

女王アリが最長の長寿が確認された昆虫であるという話を先週しました。テロメアがどうなっているか気になります。 下記論文が2年前に出ています。これはシロアリです。 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8059557/ telomerase (昨日はテロメア―ゼと書きましたが日本語はテロメラーゼのようです)が活性化しているとのことです。 シロアリは、雌だけでなく雄も「王アリ」として参加します。これは、アリに比べて病原体が多い劣悪な環境にいるので、働きアリが生まれるまでに1匹ではなく2匹でお互いのサポート(きれいにする?)が必要だから、という説があ…

テロメアと細胞老化

細胞分裂の回数を制限するHayflick limit(人間の体細胞は約50回)の仕組みは、テロメアが短くなることであるとされています。テロメアは哺乳類では(TTAGGG)が多数繰り返された配列がDNAの端にくっついているもので、染色体としてまとまる時の末端の保護に役立っていると考えられています。下記wikipediaにわかりやすい写真がでています。 https://en.wikipedia.org/wiki/Telomere 細胞分裂のたびに、DNAをほどいて全コピーするときに端がどうしてもコピーできないため短くなっているということです。生殖細胞と血液幹細胞は例外で、テロメアを長い状態に戻すテ…

Hayflick limit と 老化

動物細胞を培養して細胞分裂を繰り返させたとき、種によって有限の分裂回数があり、それを超えると分裂しなくなる、ということはWistar InstitureのHayflickが見つけました(1962)。人間ではこのHayflick limitは50回程度とされています。これは老化の研究にとって非常に重要です。細胞分裂回数が上限に達するとそれで細胞の更新が終わり、その細胞がダメージを受けると修復できないことになります。これが老化の根本的な原因だと考えられています。 Leonard Hayflickは細胞用倒立顕微鏡の発明、動物細胞の培養法の開発、肺炎を起こすマイコプラズマ(ウィルスより大きく、細菌よ…

世界の研究所 Wistar Institute (米国)

暑いですが元気出していきましょう!さて、今週は先週予告したように細胞寿命の話を調べたいと思います。世界の研究所は、細胞の分裂回数が有限であること(Hayflick Limit ヘイフリック限界)が1961年に発見された米国フィラデルフィアのWistar Institute ウィスター研究所 をとりあげます。 https://wistar.org/ ここは1892年に医療訓練所として設立され、現在は国立がん研究センターの一つです。民間の機関が国家レベルの研究所に発展している例は米国ではしばしばありますね。 三種混合ワクチン(麻疹、風疹、おたふくかぜ)の開発、現在広く使われている狂犬病ワクチンの開…

The Door into Summer(8) 女王アリは数十年生きる

金曜日は「夏への扉」を読みながら「時間」について考えています。 生物にとって老化や寿命というのは容赦なく時間の流れを感じさせるものです。今週はセミの話をしていましたが、幼虫で17年を過ごす北米のセミは昆虫の中でも長生きではないかと思いました。cicadamania web siteによると22年超えのものもいるようです。しかし、昆虫の中で最も長寿なのはある種の女王アリと言われていて、飼育下で28年の記録があるそうです。 https://entnemdept.ufl.edu/walker/ufbir/chapters/chapter_34.shtml 写真は下記です。アリの情報を集めたweb s…

17年ゼミの一斉羽化

17年に1回集団羽化するセミの番組(youtube)がありました。ゾンビに例えられていますが、恐ろしい数ですね。 確かに捕食者を飽和攻撃して生き延びている感じです。 https://www.youtube.com/watch?v=EWr8fzUz-Yw 北米のセミは色が面白いです。目が赤くて黒いののほかに、緑色のものもいます。 https://www.inaturalist.org/projects/2023-north-american-annual-cicadas オーストラリアには黄色のがいます。どうして色がちがうのでしょう。 https://www.cicadamania.com/ci…

素数ゼミと大きい素数を重ねて使う「セミ原理」

北米(東側)のセミは何年に一度しか現れない、ということが知られていて、その間隔が7,13,17年という素数であることから、素数ゼミ(prime number cicada)という言葉があります。解説は下記です。 https://www.abc.net.au/science/articles/2001/11/27/421251.htm 上記はオーストラリアの記事ですが、オーストラリアでの素数ゼミ(Magicicada属)の分布図は見つかりません。オーストラリアには700種のセミがいて、多くがまだきちんと調べられていないそうです。Blue Mountain 地域で2010,2013,2017年の集…

北米ではある種のセミは毎年現れない

日本ではセミは毎年同じように鳴きますが、北米大陸ではそうではないようです。下記に次回の出現予想地図というのが出ています。どの地域では何年に出現する、というのがわかっているようです。また、トップの画像のセミも日本のセミとはだいぶちがいます(目が赤くて胴が黒い!大きさもやや小さいようです) https://www.vox.com/science-and-health/22362042/cicada-brood-x-map-2021 素数ゼミ(prime number cicada)、というのが論文にあって何だろうと思っていましたが、地域によっては13年や17年ごとにしかセミが出現しないということの…