マキャベリ (10) 運命の変転に自力で備えよ

今週のマキャベリ「君主論」は24章~26章です。最終章26章は、フィレンツェの新領主ロレンツォ・デ・メディチへの提言です。外国勢力の介入で混乱しているイタリアを取り戻してほしい、そのためにはこれまで述べてきたように軍備を鍛え、人心を引き付けるべきである、と言っています。結局メディチ家の顧問として1516年から10年間雇われたのですが、1527年5月にスペイン=神聖ローマ帝国(カール5世)のローマ侵攻に伴う政変でメディチ家がフィレンツェから追放されるとき一緒に追放されてしまい、失意のうちに病気になり1か月後に死去しました(58才)。それを知って下記を読むと感じるものがあります。 ・人間というもの…

マキャベリ (9) 側近を見ればリーダーの能力はわかる

今週のマキャベリは、第23章まで。君主が側近・大臣などを選ぶときの心得です。現代でもある程度の集団を率いるリーダーに有効な心得だと思います。君主をリーダーに読み替えます。 1.リーダーの能力は側近の力量を見ればわかる。側近が優秀な場合は、その力量を見抜いて抜擢している上に、従わせる力を備えているからである。 2.部下に悪だくみをさせないためには、名誉と金銭で報いるとともに自分も苦楽を共にすることにより、リーダーに仕える方が得であると理解させる。また、力に余る大役を与えて頑張らせると信頼関係が深まる。 ※ 一代で大きくなった会社の後継者選びの問題が複数の会社でニュースになっていますね。会社は技術…

マキャベリ (8) 旗幟を鮮明にすべし

今週のマキャベリは、第21章まで。有名な言葉がいくつかあります。 1.君主は獅子と狐の両方の性質を持たねばならない。世の中が腐りきっているときには善い行いが身を亡ぼすことがある。 2.君主が尊敬を受けたいならば、敵か味方かを明言することである。こういう態度に出る方がどっちつかずでいるよりもはるかに役に立つ。勝った方は逆境に対して手助けをしてくれなかったものを味方にしたいとは思わないし、負けたほうは剣をとって運命を共にしてくれなかったことから次に味方しようとは思わないからである。 1.についてはローマ帝国のネルウァ=アントニウス朝~軍人皇帝時代の例を挙げています。ほとんどの場合、クーデターで数年…

ギアナ高地:1000mの絶壁を持つテーブル型の山 テプイ

ギアナ高地は世界遺産(自然遺産)なのでテレビなどで知っている人が多いと思いますが、高さ1000-2800m、平らな部分の広さが東京23区よりも大きいテーブル型の山がたくさんあります。テーブル型の山は、南アフリカ等いろいろなところにありますが、ここではtepui (テ「プ」イ)と呼ばれます。テーブルの上下を小動物や植物が行き来出来ないため、生物進化の研究対象として魅力的だそうです。 https://www.youtube.com/watch?v=S9K8QcjwjYs https://www.youtube.com/watch?v=vmPredMTXpg 非常に古い時代に海底が隆起し、弱い部分が…

マキャベリ (7) 慕われるより恐れられる方がいいが、筋を通し、憎しみは受けるな

今週はちょっと山場でしたが、おかげさまで無事乗り切りました。今週のマキャベリは16章17章で、彼らしい皮肉の利いたことを言っています。多少翻案してまとめます。 ・君主は気前がよいよりもケチといわれる方がよい。いざというときに資金不足で仕事ができなかったり、重税を課さなければならないよりは、不人気を我慢して、支出を切り詰めて余裕を持つべきである。 ・慕われるのと恐れられるののどちらがよいか。両方が不可能ならば、恐れられる方が良い。統制が効かなくなって皆を不幸にするよりは、一罰百戒のほうがよい。それというのも、人間は恩知らずで移り気で、危険にあうと逃げるが転んでもただは起きないもの。利益があると味…

マキャベリ 人に頼るな

今週来週の集中講義でバタバタしていたら、もう金曜日です。今週のマキャベリは13~15章から抜粋します。 ・(戦争で加勢を受けることを戒めて)他人の武具は背中からずり落ちるか、重荷になるか、体を締め付けらえるか、そのいずれかになる。 ・君主が自分の都市国家の地形を熟知するように努力すると、より防備に工夫を凝らすことができ、さらに新しい土地を調べるときにもコツをつかんでいるので手軽に応用が利くようになる。 ・心の鍛錬については、歴史書に親しみ、偉人の所業に思いを致し、その勝敗の理を究明して勝つ方法に従うようにするべきである。さらに、優れた人が模範とした事柄を自ら実行しなければならない。 ・鍛錬を積…

マキャベリ イタリアの分裂と傭兵

今週のマキャベリ「君主論」は、第8章~12章です。いくつか抜粋します。 (8章) 一つの国をかすめ取るにあたって、その征服者は一気呵成にぜひとも必要な荒療治をことごとくやってのける、つまりひと思いにすべてを断行し日ごとにそれを蒸し返したりしないように、また蒸し返しをやらずに人心を収攬し、恩恵を施してこれをつなぎとめておけるようにすることである。 (9章)人間は今まで悪人と思い込んでいた人にも良いところがあるとわかると、余計にその慈悲がありがたくなるもの。 (10章)人間の性質として、自分が恩恵を施しても、またそれを施されても、同じように義理を感じるものなのである。…賢明な君主にとって、籠城にあ…

マキャベリ(4) チェザーレ・ボルジア

今週の「君主論」は、第7章と8章をとりあげます。他人の力と幸運でで権力を得たケースと、犯罪的所業で権力を得たケースです。他人の力の方は、チェーザレ・ボルジア(Cesare Borgia, 1475-1597)が登場します。この人は「君主論」で繰り返し出てきて、マキャベリズムを体現した人物とされています。法王の息子で、政敵をつぎつぎに謀殺したりして強引にイタリア諸都市(教会領)を支配下に置きましたが、マラリアがローマに蔓延したとき父・法王の死と同時に自分も発病したため政敵が法王に選出されてしまいました。賛成の条件として協力関係の協定を結んでいましたが法王に破棄され、逮捕→虜囚→脱出→戦死という経…

マキャベリ(3) サヴォナローラとヒエローン2世

今週の「君主論」は、第6章「自分の手勢で勇敢に獲得した支配権」です。いろいろな例が出てきます。歴史上の例を挙げて「自力がないと国の支配権を新しく得たり維持したりすることはできない」ことを論証していますが、名前だけあがっている例がどれも「濃い」のでこの本が「難解」との評はわかります。また、例をつなぐ一つ一つの文がそのまま警句としても成立します。おもしろかったのは 「賢人は過去の優れた人たちを見習うべきである。その理由は、弓の達人が、遠くて届かない的を射るときに的の高さよりもはるかに上を狙うのと同じである」 「人間はなにか的確な実験によって納得しないと新しい制度を信用しない」 武力を持たなかったた…

マキャベリ(2) メディチへの献呈の辞

マキャベリ「君主論」は、ロレンツォ・デ・メディチへの献呈の辞と26章からなっています。1章ずつ読むのは歴史背景が難しいので、私なりに面白い言葉を背景付きで抜き出していきましょう。その方向で書かれた本は既にあり、塩野七生の「マキアヴェッリ語録」で、いろいろな本から文章の一部だけを抜粋しているものですが、面白いです。 メディチ家はフィレンツェの銀行家として成功したのち政治家となり、フィレンツェを支配していましたが、フランスとの紛争に敗れてフィレンツェを追放されました。その後マキャベリが共和国の官僚・外交官として活躍しましたが、近くの港湾都市ピサの併合に失敗してスペインの介入によりメディチ家が復帰し…