断熱消磁による冷却

ヘリウムの同位体を使った希釈冷凍機は「ヘリウムは常圧以下では固化しない」「ヘリウム4は2.17K以下で超流動になり熱を良く伝える」などの性質をうまく使っています。ちなみに、ヘリウム3も極低温(2.7mK)で超流動になります。発見者(大学院生と先生)はノーベル賞をもらっています。 しかし、1mKより低くなると冷却効率が悪くなり、流体の移動経路を伝わってくる熱流入の影響が無視できなくなるため、非接触で冷却する方法が必要となります。ここで登場するのが断熱消磁です。これは金属イオンに局在した電子スピンを用いるものと核スピンを用いるものがあります。冷却がエントロピーの輸送に関連し、エントロピーは乱雑さに…

SiCとGaNの比較

SiCはGaNとよく比べられます。バンドギャップはSiCが3.26eV, GaNが3.5eVとシリコンの1.1eVに比べて約3倍です。そのため、ワイドギャップ半導体と呼ばれます。高温で半導体として使えるかどうかは、バンドギャップを超えて熱励起される電子や正孔の数がドーピングで制御される電子や正孔の数よりもずっと少ないという条件で決まります。熱励起の確率はf(ΔE,T)=exp(-ΔE/kT)で、ΔEがバンドギャップに相当します。例えば、T=300℃=573Kとすると、f(1.1eV,573K)=2×10^-10に対し、f(3.26eV,473K)=2x10^-29です。シリコン半導体デバイスは…

SiCという物質

SiC(炭化ケイ素)は、半導体材料のSiと炭素の1:1化合物です。粉の場合はカーボランダムという研磨剤ですが、単結晶は写真にあるように、透明な物質です。硬く、化学薬品に非常に強いです。 https://walthy.com/silicon-carbidesic-customization-and-processing/?gad_source=1&gad_campaignid=8289348879&gbraid=0AAAAACk-RAQVxZj3oXb4YYLdLNvzl27uU&gclid=Cj0KCQjw64jDBhDXARIsABkk8J63DGHUc6-clk4t…

世界の研究所: Wolfspeed 社(旧 Cree)の破綻

今週は希釈冷凍機の解説をしようと思っていたのですが、最近危ないと言われていた米国のWolfspeed社がとうとう破綻したというニュースが先週あったので、予定を変えて、ここから教訓を引き出せないか調べてみようと思います。 WolfSpeed社はワイドギャップ半導体のSiCウェファを作っている会社で、2021年9月まではCree社という名前でした。1987年創業のNorth Calorina State Univ.発ベンチャーです。ゲン担ぎ的には改名が凶と出たということでしょうか。。。 https://en.wikipedia.org/wiki/Wolfspeed SiCはワイドギャップ半導体とし…

ゴリラガラス

シリコン+アルカリ(+ホウ素)の酸化物ガラスの破壊は日常体験するところですが、原子レベルの過程についてはあまり報告例がなく、研究は現在進行中のようです。下記2022年の論文のほか2025年のフランスの博士論文がある程度です。 https://arxiv.org/abs/2205.02461 試料づくりが難しい、絶縁物なのでチャージアップ(帯電)して電子顕微鏡が使いにくい、アモルファスなので原子配列の観察が難しいなど、実験には困難がいろいろ考えられます。X線顕微鏡の分解能がもうすこし上がれば研究対象になると思います。X線でも収束ビームをあてるとチャージアップは起こると思いますが電子線よりは影響は…

ナノ・インデンター

試料が大きくても小さくても、応力が小さいときは応力とひずみは比例関係にあり、これは弾性領域(elastic region)です。それを超えると応力がそれほど増えていないのにずるずる変位する領域があり、塑性領域(plastic region)です。その先に降伏(yield)、破壊(breaking)が起ります。下記の動画ではグラフが2段階に波打っている現象を説明しています。実際に使うときは弾性領域ですが、絞り加工などは塑性領域なので、その後の機械特性が悪くならないようにいろいろ研究しなければならないのでしょう。 https://www.youtube.com/watch?v=zAbxJ33qT-…

世界の研究所:Max Plank Institute of Sustainable Materials, renamed from “Iron Research”

いま二次元物質の劈開のシミュレーションをやっています。物質の破断の原子レベルの過程の一種なので、関連してどのような研究が行われているか調べてみました。 ChatGPTに聞くと、一番有名な研究機関は デュッセルドルフのMax Plank Institute of Iron Researchとのことでしたが、この研究所は2024年の8月27日からMax Plank Institute for Sustainable Materials と改名されました(日本なら新年度に変えると思いますが、奇妙な日付ですね)。計算、界面化学、合金設計、微細構造力学の4部門があります。 https://www.mpi…

有限要素法、発散定理(ガウスの定理)、グリーンの定理、ストークスの定理、プラニメータ

有限要素法の具体的な計算方法を見てみましょう。物理法則は通常、短く記述できるため微分方程式で与えられています。流体に関するものはエネルギーの保存則と物質の保存則になります。まとめたのがナビエ・ストークス方程式ですが、ややこしくなるので、保存則から出てくる熱や物質の拡散を表す拡散方程式(熱伝導方程式)を例にとります。これはフィックの法則の3次元版で、 k△T=-∂q/∂t (熱伝導の場合)、∂c/∂t=DΔc のような形をしています。ただし、Tは温度、cは濃度、kやDは係数。また、ラプラシアン Δ=(勾配∇の二乗)で、1次元の場合は ∂2/∂x2 です。 導出は https://ja.wikip…

ゼータ電位

CMP用のスラリー(研磨液)では砥粒や研磨パッドのゼータ電位が重要であると聞いて、なるほど、と思いました。ただ、研磨中にゼータ電位を制御しないといけないというのはたいへんそうです。 ゼータ電位のゼータはギリシャ文字の「ζ」です。コロイド化学の用語で、電気泳動がプラスとマイナスのどっち向きに起こるかを決める、微粒子表面の電荷を電位であらわしたものと考えればいいと思います。 コロイド粒子が凝集しないのは粒子が電荷を帯びていてそれが反発するためなので、ゼータ電位がなくなると凝集してしまいます。したがって、CMPのスラリーは使う前はゼータ電位はゼロであってはいけません。 研磨中は研磨パッドの先端部にま…

CMPのあとのウェハ洗浄にはPVAスポンジを使う

CMPによる平坦化は何層にもなっているナノスケールの電子回路の要所要所で繰り返し行わなければなりません。例えば下記の電子顕微鏡像のFig.2(c)の平坦な界面はCMPで作られていると思います。 https://www.jeol.co.jp/solutions/applications/details/EM2022-01.html 砥粒やさまざまな化学物質を含むスラリーで擦ったあと、完全に除去して次の製膜プロセス、リソグラフィプロセスを行わなければなりません。どうやってスラリーを除去するのでしょうか。これは日本企業が得意としている部分で、現在ではクリーンルーム内に置いたCMP装置にウェファを入れ…