Hillbilly Elegy(12):最終章 人生は自分でコントロールできる

金曜日の読書”Hillbilly Elegy”の著者Vance氏は39才か40才の若さで副大統領に就任することになります。そうなるかな、と思ってこの本の紹介を始めましたが、32才で本書を出版してからたいへん速い出世で、幼少期の苦労を考えるとAmerican Dreamと言えるでしょう。大統領に何かあった場合は規定により副大統領が昇格することになっていますので(次が47代ですが、これまでに9人昇格したそうです)、世界にとって無視できない人物となりました。ちなみに、歴代で最も若い副大統領は1857年のBreckinridge氏(36才)だとMicrosoft CoPilot…

Hillbilly Elegy(11):逆境的児童期体験とヒルビリーの再生産メカニズム

週末が米国大統領選挙です。どっちになるのでしょうね。金曜日の読書”Hillbilly Elegy”の著者Vance氏は選挙戦中おかしなこと(移民が猫を食べる等)も言っていましたが、切れ味のよい演説も報道で見ました。今日は第14章です。大学院で幸せと達成感を感じながら、恋人との関係で精神が不安定になり、幼少期に自分が見た諍い(いさかい)や家庭内不和を再現しそうになって自分を分析します。心理学的には「逆境的児童期体験 ACE」と呼ばれる経験であり、成人してから深刻な影響をもたらすものであることを知ります。また、大卒以上の学歴を持つ人のうち、ACEを経験した人は全体の半分以下…

Hillbilly Elegy(10):社会資本(コネのネットワーク)を得て就職する

金曜日の読書”Hillbilly Elegy”は第13章、イェール大学法科大学院でガールフレンド(インド系、のちの伴侶)を見つける話と、ガールフレンドや教授のアドバイスによって社会的資産(簡単に言うとコネ)を作るところです。この、社会的資産を作る舞台としての名門大学(院)の役割は確かに得難いものです。1年目が終わると有名な法律事務所からリクルーターが訪問し、繰り返し面接をしながら候補者を絞り込んでいきます。二次面接の一部であるグループでの会食でsparkling waterが炭酸水であることを知らず「輝く水って何だろう」と飲んで吹きだしたり、ナイフやフォークがたくさんあ…

Hillbilly Elegy(9):イェール大学法科大学院に進学し、エリートの仲間入りをする

アメリカ大統領選は大接戦で蓋を開けてみるまでわからないようです。金曜日の読書”Hillbilly Elegy”の著者J.D.Vance氏は共和党の副大統領候補ですが、話がうまく、機を見るに敏で、どっちに転んでも将来の注目株だと思います。さて、本は第12章、オハイオ州立大学を卒業してからYale UniversityのLaw Schoolに進学します。イェール大学はivy leagueアイビーリーグに属する有名大学です。 https://en.wikipedia.org/wiki/Ivy_League Law Schoolは今では日本でも存在する「法科大学院」で、弁護士を…

Hillbilly Elegy(8):大学を2年弱で卒業

金曜日の読書”Hillbilly Elegy”は第11章、海兵隊を満期除隊してオハイオ州立大学を1年11か月で卒業します。海兵隊では、最終的には駐屯地の広報担当を任されました。これは著者の「コミュ力」が高いことを意味していると思います。少年期の苦労で空気を読み適切な応対をする能力が身についていたのでしょう。 本章を読むと米国の公立大学の制度の理解が進みました。 ・夏休みに講義を入れることで4年制の過程を2年未満で修了し、しかも「成績優秀」のお墨付きで卒業証書をもらっています。おそらく「優」や「秀」の数の基準をクリアしたのでしょう。日本では年間単位数の上限が決まっているた…

Hillbilly Elegy(7):海兵隊の4年間

金曜日の読書”Hillbilly Elegy”は第10章、高校を卒業して海兵隊に入り4年間を過ごすところです。筆者は大学に行こうとしていましたが、高額の授業料をローンで賄うことに悩んでいました。海兵隊OGであるいとこの女性に薦められて海兵隊に行くことになります。すぐ13週間のブートキャンプが始まり、社会について何も知らないことを前提とした丁寧な授業と、厳しい肉体訓練、そして自制心を鍛錬するための上官のいじめ(食堂で食べようとしたケーキを叩き落されて掃除させられた)があります。朝5時に起床し起きている間はずっと監視され規律を保たねばならない生活です。現代の日本ではそういう…

Hillbilly Elegy(6):高校生になり生活が安定し視野を広げる

金曜日の読書”Hillbilly Elegy”は第8~9章、高校2~4年生(日本の高校1~3年に対応)に母と別れ祖母と暮らすようになって生活が立て直されるところです。一人暮らしの年老いた祖母の邪魔をするのを恐れて母のパートナーが変わるたびに一緒に転居を繰り返していましたが、高校の近くの祖母の家に短期滞在中、母が看護師協会の抜き打ちドラッグ検査で尿を提出する必要があるので代わりになって欲しいと頼みに来て危機的状況が祖母に発覚しました。そこから祖母と一緒に暮らすようになり成績も向上し、祖母の勧めで近所のスーパーでレジ打ちのアルバイトをするようになって、経済的階層の存在や福祉…

Hillbilly Elegy(5):苦難の少年時代

金曜日の読書 “Hillbilly Elegy”は5~7章、著者が苦難の少年時代を送るところです。著者は母親の二番目の結婚でできた子供で、一番目の結婚でできた姉(half sister)と母と一緒に暮らしたり、一時期は実の父親のところに長期滞在したりしています。周囲の大人は気性が激しくすぐに夫婦間のけんかがエスカレートして離婚になるようです。算数を教えてくれた祖父が無くなると母親は薬物依存になってしまいます。 母親は、高校卒業時には成績優秀者に選ばれましたが、卒業後すぐ結婚→離婚からパートナーが長続きせず、看護師資格を取って暮らしていました。著者は母親の激怒から逃げ出し…

Hillbilly Elegy(4):掛け算と割り算

金曜日の読書 “Hillbilly Elegy”はアパラチア山脈の石炭や農業で暮らしていた人たちが町の工業地帯に降りてきて工場がダメになったら白人貧困層になってしまった、という話が著者の家族の物語と一緒に語られます。今日は第3章と第4章を見ていきます。第3章は祖父母、叔母と母親の話ですが、共通するのは家庭内暴力と夫婦のいがみ合いです。 読んでいる印象では、一番の理由は彼らの気性が激しいことで、これは子供の時に大人の家族の言動を学んでいるからでしょう。二番目の理由は法定年齢ギリギリの若さで結婚していることだと思いました。精神的に未熟な状態で給料も安い段階で、子育ての負荷が…

Hillbilly Elegy(3):祖父母の移住にまつわる物語

金曜日の読書 “Hillbilly Elegy”の著者の母親はかなり問題がある人物で、父親役の人はしょっちゅう替わっていました。支えになったのは祖母です。祖母は14才で妊娠したため17才の祖父と駆け落ち同様にケンタッキー州のアパラチアの山を降りてオハイオ州の新設工業地帯に移住します。移住後生まれた子供はすぐなくなってしまいますが、著者はこの子の存在が移住に決定的に重要だったと解析しています。2章は祖父母の話を中心に語られます。 英語で面白い表現を見ていきましょう。 “Harlan County, for example, which was brought …