Hillbilly Elegy(3):祖父母の移住にまつわる物語

金曜日の読書 “Hillbilly Elegy”の著者の母親はかなり問題がある人物で、父親役の人はしょっちゅう替わっていました。支えになったのは祖母です。祖母は14才で妊娠したため17才の祖父と駆け落ち同様にケンタッキー州のアパラチアの山を降りてオハイオ州の新設工業地帯に移住します。移住後生まれた子供はすぐなくなってしまいますが、著者はこの子の存在が移住に決定的に重要だったと解析しています。2章は祖父母の話を中心に語られます。 英語で面白い表現を見ていきましょう。 “Harlan County, for example, which was brought …

レーザー冷却、およびそれを利用した反陽子の冷却

文献を見つけました。反水素を作る時の冷却の時は、レーザー冷却したBe+イオンをぺニングトラップに入れ、温度(運動エネルギー)の高い反陽子が入ったぺニングトラップと電気的に結合することにより温度を下げるそうです。 実に賢いやり方ですね。 https://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2022_03/jspf2022_03-126.pdf https://www.riken.jp/press/2021/20210826_1/index.html レーザー冷却は、イオンの吸収波長に合わせたレーザーを使います。レーザー光を吸収波長よりも少しだけ低いエネルギー(…

反陽子+陽電子→反水素原子

CERNのbase collaborationを見ていますが、反陽子を供給しているのはalpha collaborationです。 https://www.youtube.com/watch?v=uEL7-kDvwBM これは反水素(陽電子+反陽子)を作って精密な分光をして、通常の水素と比べるのが目的です。反水素を作る実験について、ゲーム形式で体験できるサイトがあります。 https://massen.web.cern.ch/hoat/ 実験の流れが下記に説明されています。 https://alpha.web.cern.ch/experimental-cycle 反陽子のような通常存在しない素…

ぺニングトラップ

昨日紹介した論文は凝った実験で説明が難しいです。 荷電粒子を磁場中に高周波電場でサイクロトロン運動(ローレンツ力による円運動を止めないように電場を与える)させて真空中に保存する「ぺニングトラップ」というのを駆使しています。 異なる構造のぺニングトラップを連結させて、熱運動による円運動の揺らぎを減らすように行ったり来たりさせます。不均一磁場を使って円運動の熱揺らぎを軸方向の振動と混合させ、もう一つのトラップに輸送してから軸方向の振動にちょうどよい時間だけブレーキをかける、という過程を繰りかえすというイメージでしょうか。右向きに動いているものだけを取り出してその向きの成分を減速させる、というのがM…

世界の研究所:CERN BASE collaborationによるMaxwell’s daemon

涼しくなるように、今週は物質を冷却する話をしましょう。2週間前にCERNのBASE collaboration(barion-antibarion symmetry experiment)から出た下記論文がSNSのtime lineに上がっていました。 https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.133.053201 反陽子を加速器で作ると、そのままでは高速すぎて精密な実験ができないので、減速・冷却して真空中に浮かせて保存します。そのための新しい方法を開発したという論文で、数時間かかっていたものが500秒になったということ…

Hillbilly Elegy(2):アパラチアの誇り高く貧しい正義の人々

金曜日の読書 “Hillbilly Elegy: A Memoir of a Family and Culture in Crisis”はいわゆる”rust belt”の白人貧困層の話です。米国の伝統的な価値観、年少者の教育で何が重要か、さらに「仕事がない地域に取り残されること」の影響、といった興味深いテーマについて考察することができます。15章構成で、著者(執筆時32才)の経験が書いてあります。 第1章は、アパラチア山脈周辺に住み着いた白人集落(Kentucky州Jackson町、人口6000人)が舞台です。アパラチア山脈は地理で習いましたが、…

木琴とマリンバは倍音が違う

昨日は分子振動が混じる「フェルミ共鳴」のそもそもの原因は、振動しているものが共通であることにある、という話をしました。固体中での原子の振動は熱や音波として現れます。音を二方向からいれると混じるはずですが、積極的に使っている例はないようです。形状の影響が大きいからかもしれません。 調べていたらいくつか面白いものが引っかかりました。木琴とマリンバでは倍音が違うために音色が違うそうです。木琴は基本波と3倍波、マリンバは基本波、4倍波と10倍波だそうです。マリンバは他の楽器(弦楽器や管楽器など)に合っているのでオーケストラに溶け込み、木琴は合っていないので目立つとのこと。木片を削って調節しているようで…

CO2分子のフェルミ共鳴

先週、解説しかけていたなぜCO2の温室効果が大きいか、についての論文を読んでみましょう。鍵は「フェルミ共鳴」です。 https://iopscience.iop.org/article/10.3847/PSJ/ad226d/pdf これは、分子振動において整数倍に近い振動数のモードがある場合、片方を励起するともう一方にもエネルギーが移る、というものです。 https://en.wikipedia.org/wiki/Fermi_resonance CO2においては、667cm-1の変角振動と1337cm-1の対称伸縮振動が2倍の関係に近いので、フェルミ共鳴が起こります。ちょうど2倍からずれている…

人体の耐熱性

先週お休みの前はCO2の話をしようとしていましたが、後回しにして、人体の熱耐性について昨日のシドニー大学の研究所を見ていきましょう。 https://www.sydney.edu.au/medicine-health/our-research/research-centres/heat-and-health-research-centre/our-research.html BBCの番組も見つかりました。所長が解説しています。 https://www.bbc.com/storyworks/the-climate-and-us/the-university-of-sydney 同所からの下記の論…

世界の研究所: University of Sidney, Heat and Health Research Centre

こちらは台風の後だいぶ過ごしやすい気温と湿度になってきましたが、世界的には高温対策が急務のようです。下記のような記事が出ていました。 https://www.nature.com/articles/d41586-024-02422-5 https://www.nature.com/articles/d41586-023-02482-z 人間の志願者を使った実験をする設備がオーストラリアのシドニー大学に2019年(設計開始)に作られたそうです。 https://www.sydney.edu.au/medicine-health/our-research/research-centres/heat…