The Consciousness Instinct(11):第10章(完) 意識という本能

金曜日の読書”The Consciousness Instinct:…”は第10章=最終章です。これまでの議論のまとめを踏まえ、本の題名でもある「意識という本能」について語られます。 Kendall, Polanyiなど著者が若い時に影響を受けた20世紀の哲学者の考察を紹介(面白いですが長くなるので割愛します)、脳科学者たちの説の変遷を説明し、125年前の Willam Jamesの本”What is instinct?”からの引用から「本能」の定義を述べて「意識」が「本能」の一種であることを論証しています。ちょっと論理に飛躍があるように思いま…

The Consciousness Instinct(10):第9章 右脳と左脳と意識

金曜日の読書”The Consciousness Instinct:…”は第9章です。第8章で量子力学が巨視的な大きさをもつ生命に影響を与えているのが酵素の活性中心であり、その量子的揺らぎが遺伝子の突然変異につながっているという説が紹介されました。続く9章では、筆者が連続した泡に例えている意識の本質についていろいろな例を用いて説明しています。箇条書きしましょう。 ・昔行われたてんかん(epilepsy)の治療で脳梁を切断した患者を調べたところ、左脳と右脳に分離した意識が2つあることがわかった。左脳の意識は話すことができて、完全に正常だと言っている。右脳の意識は、目で見…

The Consciousness Instinct(9):第8章 生命と非生命の間

金曜日の読書 ”The Consciousness Instinct:…” は第8章です。第7章で量子力学の解説が出てきたので怪しい議論に行くのではないかと危惧しましたが、杞憂でした。John von Neumannによる量子力学の観測論とコンピュータのオートマトン(自動機械)と生命や進化を組み合わせた議論と、そのアイデアを発展させたHoward Pattee(1926年生まれで存命です)の考えに基づき解説しています。突っ込みどころはありそうですが本質をついている感じがします。論理の流れを追ってみます。 (1)量子力学には「シュレディンガーの猫」で例示されるような、量…

The Consciousness Instinct(8):第7章 量子論の導入

金曜日の読書 “The Consciousness Instinct:…” は今週から第III部に入り第7章です。次章以降での説明に使うのだと思いますが、ちりが光を散乱するチンダル現象のJohn Tyndallの「意識と脳の関係はわかっていない」という講演(1868年=明治元年)への言及から始まり、ボーアとアインシュタインの量子論に関する論争までの物理学の歴史をなぞっています。著者は統計力学や量子力学の必要なところはきちんと理解しているように見えます。日本の心理学者はどうでしょうか。Feynmannによる解説にも言及しています(おそらく https://w…

The Consciousness Instinct(7):第6章 意識の強靭さが意味すること

金曜日の読書”The Consciousness Instinct:…”は今週は第6章です。意識という存在は強靭で、脳がダメージを受けてもなかなか無くならない、という事実から意識とは何かに迫ろうとしています。著者(現在85才)は動物学→心理学の教育を受けているphDで、医者ではないですが、大学付属?病院で患者の診療にもかかわっていたようです。脳幹が壊れると意識がなくなりますが、これはバッテリーがはずれた車のようなもので本質ではなく、先週のモジュールと階層構造が重複して情報を受け渡しているので、少しでも情報の経路が残っていればそこが主体的な経験の感覚=意識となると言って…

The Consciousness Instinct(6):第5章 脳は階層構造を持っているはず

金曜日は英語の話題の(話題になりそうな)本を読むことにしています。今読んでいる”The Consciousness Instinct: Unraveling the Mystery of How the Brain Makes the Mind”の著者の講演がありました。この本の出版(紙版が2018、絶版で昨年電子版になっています)を機に行われた学会の基調講演のようです。 https://www.youtube.com/watch?v=GLIol6viKkI jokeを飛ばして受けていますね。話の組み立てもうまいです。 今週は第5章です。第4章で、脳はモジュールでできている、という…

The Consciousness Instinct(5):第4章 脳はモジュールでできているが意識を担当するモジュールはない

金曜日の読書 ”The Consciousness Instinct:…”は今週は第4章です。第二部に入り、脳のハードウェアとソフトウェアの関係を見ていくようです。第4章では、医学からの蓄積(脳の一部を損傷した患者の分析)、コンピュータ科学からの知見、動物の脳との比較などを経て、意識とは何か、について軽く触れます。まず、脳の一部を損傷した患者に起こる様々な症状が説明されます。例としては幻肢(存在しない体の一部があるように感じる)、存在しない第三者の気配を濃厚に感じる、恐れの感情がなくなり危険なことをする(偏桃体の損傷)、言語障害(意味から単語をつくるBroca野と発音…

The Consciousness Instinct(4):第3章 Francis Crickまで

金曜日の読書 ”The Consciousness Instinct:…”は今週は第3章です。20世紀末までの哲学・心理学における「意識」について述べています。プラグマティズム(行動主義)心理学が流行りましたが、脳の構造と機能がてんかんの治療や脳を損傷した患者の医学的研究から明らかになってきたため(例:ホムンクルスで有名なペンフィールド)、精神と脳は別物かどうかというのが問題になりました。ペンフィールドは感覚を脳に伝える間脳の働きや情報が大脳皮質とその下との間で行き来していることを推測しました。 https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%…

The Consciousness Instinct(3):第2章 ダーウィンまで

金曜日の読書 ”The Consciousness Instinct:…”は今週は第2章です。ダーウィンまでの「意識」についての認識を取り上げています。デカルトは純粋な思考だけでしたが、人間の解剖が行えるようになり、William Pettyとその弟子のThomas Willis(1621-1675)の一派がいろいろな動物と人間の脳を比較して、嗅覚が優れている動物は臭球が大きいこと、逆に人間は記憶力が優れていて大脳が大きいことから、記憶力は大脳が担っているのではないか、という説を立てます。しかし、動物と人間の脳には本質的な差がないのに対し、思考能力は人間しか持っていな…

The Consciousness Instinct(2):第1章 アリストテレス、ガレノス、デカルト、オカルト

金曜日の読書 ”The Consciousness Instinct:…”は今週は第1章です。「意識」について古代からの認識の変遷を述べています。古代エジプト、ギリシャ、ローマ、ルネッサンスのヨーロッパを取り上げています。出てくるのはローマの解剖学者ガレノス以外は哲学者です。ざっとまとめると、 ・古代エジプト:人間だけでなく自然界も意識を持っていると考えていた。我々は原子や分子が意識を持っているように話す職業病ですが、そのほうが考えやすいからそうしているので、ある意味で真理があると思います。 ・ギリシャ:人間の解剖が禁止されていたので、アリストテレスは動物の解剖を行っ…