百人一首(3) 西行法師 - 日本語の魔術師

今週金曜日の百人一首は、86.西行法師です。下記サイトに日本語と英語が出ています。 https://www.samac.jp/search/poems_detail.php?id=86 嘆けとて 月やは物を 思はする かこち顔なる わが涙かな です。西行は後鳥羽上皇に「不可説の上手なり」と評された言葉の魔術師です。私は気が滅入ったときに彼の歌集「山家集」を開くのですが、日本語による描写の傑作が多く詰まっていて、気持ちが晴れます。私がしばしば貶す(けなす)「yahoo 知恵袋」にもちゃんとした解説があります。 https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/qu…

SiCの界面、宝石としてのSiC=モアッサナイト

4H-SiC (4Hは結晶多型の名前)のパワー半導体としての開発が進んでいます。高温で使えて放熱器が小さくてよい、高電圧を小型トランジスタでon/offできるなどの特徴があり、GaN, Ga2O3のどれが市場を制するかは、性能とコストで決まる段階になるでしょう。開発に成功しても使われなかったらその研究者は報われないか、というと、社会的には risk hedge としての役割があるので大切な役割だと思います。個人や会社の評価については、運ということになるでしょうが、後続の人がやる気を失わないように、開発成功の段階で報わないといけないと思います。 開発の歴史は下記pdf が面白いです(エラーが出る…

半導体としての炭化ケイ素(SiC)の難しさ

ワイドギャップ半導体は結晶を作るのが難しいものが多いです。GaNは突破口を開いた日本人がノーベル賞を受賞されました。SiCの結晶成長も難しいです。SiCはダイヤモンド構造が最安定のSiとグラファイト構造が最安定のCの化合物なので、その中間的な結晶構造が多数存在します。これを結晶多型(polytype)と言いますが、結晶多型が違うと当然結晶粒界が生じるので半導体としての性能が劣化します。 https://www.youtube.com/watch?v=hGHHaMJaCX8 にあるように、SiCは「カーボランダム」という研磨剤です。研磨剤の応用ならば結晶多型は問題ないですが、半導体の場合は大問題…

ワイドギャップ半導体

SiCはワイドギャップ半導体と呼ばれます。この「ギャップ」はバンドギャップ(band gap)の略で、電子の詰まった価電子帯(valence band)と電子が入っていない伝導帯(conduction band)のエネルギー差のことです。純粋な半導体は電気抵抗が高いのですが、異種元素を微量混ぜること(ドーピング)によって、価電子帯から電子を微量抜いたり(正孔が生成する)、伝導帯に微量の電子を入れたりすることができます。このドーピングで作られた正孔や電子は、外部からの電場や電流によって数(濃度)を簡単に変えることができるので、電気信号を制御するデバイス(半導体素子)を構成できます。これが一般論な…

世界の研究所 Wolfspeed 社 (旧Cree)

今週の世界の研究所は、米国のWolfspeed社(最近までCree社という名前でした)をとりあげます。ここは、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を用いた電子デバイスで世界をけん引しています。本社と工場はNorth Carolina 州にあります。本社住所がSilicon Drive(ケイ素通り)4600番地、というのはしゃれています。 https://www.wolfspeed.com/ この会社はいろいろ宣伝のビデオを公開しているので、大まかなイメージをつかむのにはいいかもしれません。 https://www.youtube.com/watch?v=3n5a8IBhvVg http…

百人一首(2) 鎌倉右大臣

今週から金曜日は百人一首の英訳を順不同で抜粋して紹介していきます。 最初は、NHK大河ドラマにも登場している源実朝です。この人は日本のリーダーだったはずなのですが、難しい立場に置かれてかわいそうな結末を迎えてしまいます。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BA%90%E5%AE%9F%E6%9C%9D 92 鎌倉右大臣 「世の中は つねにもがもな なぎさこぐ あまの小舟(をぶね)の綱手(つなで)かなしも」 Peter J. McMillan 訳 (/ は改行です) That such moving sights / would never change - f…

楽しそうな ゲッター型ポンプ

今日はため込み型の真空ポンプです。原型は、真空管時代に開発されました。下記動画は、何者たちでしょう。部屋はボロボロですが楽しそうです。 https://www.youtube.com/watch?v=HxhxD_HdGh0 https://www.youtube.com/watch?v=ybh1I8GIHmU 誘導加熱で電磁波で加熱しています。金属はマグネシウムではないかと思います。ガラス内面に蒸着されると非常に反応性が高いので酸素や水を分解して酸化物として取り込みます。これをゲッター(getter)と呼びます。真空管やブラウン管(細くなっているところ)の一部が黒~銀色になっているのはこのゲッ…

偉大な拡散ポンプの発明

真空ポンプ一般の解説がyoutubeにありました。 https://www.youtube.com/watch?v=LUlM0kl6Lp0 高速で斜めの羽根を回転させ、固定翼と回転翼を交互に配置するターボ分子ポンプは技術的難度は別として比較的思いつきやすいと思いますが、油拡散ポンプ(ディフュージョンポンプ)は発想が斬新で、どうやって思いついたか気になります。沸騰する油の蒸気が適切なノズルにより音速よりも速い高速のジェットを作り、それが音速で動いている気体分子を叩き落して排気します。動画がありました(なんでもありますね)。 https://www.youtube.com/watch?v=ubno…

真空ポンプの発明

ちゃんとした真空ポンプの発明は、マグデブルグの半球実験で有名なフォン=ゲーリケによると思います(1650年)。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%B1 ポンプ座という星座もあります。太陽系外の惑星がある恒星が含まれています。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%B3%E3%83%97%E…

世界の研究所 国際真空連合 IUVSTA

今週の世界の研究所は、先週の国際会議の母体である国際真空連合 IUVSTAを取り上げます。アイユーヴィスタと読むみたいです。 https://iuvsta.org/ 化学や物理学などに比べると小さい領域と思われますが、活発に活動しています。ロゴマークには今はほとんど使われない水銀マノメータが描かれていて、このマークをずっと使うのかどうか興味深いです。 https://en.wikipedia.org/wiki/Mercury_pressure_gauge 表面科学、ナノテク、プラズマ、加速器、核融合等も真空を使うということでどんどん取り込んでいます。半導体産業が真空を使うので、お金が潤沢にある…