Justice 第9章と10章 (今日の英語 第500回)

今日は「今日の英語」第500回です。祝日ですが、早くやりたくて勇み足をしてしまいました。2020年の4月20日に第1回をやっていますので、ほぼ2年たちました。 金曜日の読書のJusticeは第9章と10章です。 9章(JUSTICE AND THE COMMON GOOD / DILLEMMA OF LOYALTY)は要約すると、共同体の過去の不正義に対する謝罪(日本もドイツと比較され、例にあがっています)→物語を生きる存在である人間とその共有に必要な歴史と共同体(愛郷心、愛国心、家族愛などの正当化)→正義は結局共同体の文化的背景にも関係するので普遍性はない。特に「善」を「正義」の基準にしては…

Justice 第八章 アリストテレスの主張

今週のJusticeは、第8章”Who deserves What? / Aristotle”です。古代ギリシャのアリストテレスの正義論を論じます。古代の議論がなぜ8章に置かれているかは、まだわかりません。緻密に構成されていると思うので、意味があるはずです。さて、この章ではリバタリアン(自由至上主義者)が「選択の自由」を、ロールズが「公正」を正義の条件として重視したのに対し、「名誉や報酬を受け取るのにふさわしい人か?」という観点を重視するアリストテレスの主張を論じています。最高級の楽器を与えらえるべき人は、最もうまく演奏できる人である、というのは確かに正義の感覚の一部で…

Justice 第七章 アファーマティブ アクションの正当性

今週のJusticeは、第7章”Arguing Affirmative Action”です。affirmative action は日本語で訳されずに英語の発音でアファーマティブ アクションとして使われますが、人種や性別による大学入学や就職時の優遇措置です。米国では黒人や女性を優遇しており、日本でも女性限定枠の就職や昇進が増えてきています。扱いの難しい話ですが、著者は大胆にその正当性を議論しています。優遇されずに落ちた人が訴訟を起こして敗訴した例が多数あるそうです。環境によるテストの差を補正する、過去の差別を補償する、多様性を促進するという3つの理由が考えられ、中でも、…

Justice 第六章 ロールズによる格差主義

今週のJusticeは、第6章”The case for equality / John Rawls”です。20世紀の哲学者ジョン・ロールズ(1921-2002)による正義論を解説しています。不勉強でこの人については知らなかったのですが、ずばり “A Theory of Justice”が主著で、この本の著者Sandelと同じハーバード大学の哲学の教授でした。前任者かもしれません。同意できるところが多い説だと思いました。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83…

Justice 第五章 カントの主張

今週のJusticeは、第5章”What matters is the motive / Immanuel Kant”です。功利主義を徹底的に嫌ったカントの主張を解説しています。カントは、ケーニヒスベルグ(現:ロシアの飛び地カリーニングラード)で活動した哲学者(1724-1804)で、功利主義のベンサムと同時代です。大学に入ったころ、背伸びしてカントを読もうとしましたが難しくて挫折しました。この章の解説はわかりやすいです。私なりに単純化すると、(1)自分と他者の区別なく、理性的存在を無条件に尊重する姿勢から正しい道徳が生まれる、(2)結果consequenceではなく、…

Justice 第四章 金銭を払って代理を立てることの正当性

今週のJusticeは第4章、”Hired help / Markets and morals” 金銭を払って代理を立てることの正当性を議論しています。代理業務の対象は兵役と出産です。全く違う話ですが、道徳的には似た問題です。いろいろな変遷を経て現在は次のようになっているそうです。兵役は多くの国で義務ではなく給料をもらう仕事となり、富裕層の割合が減り、貧困層出身の割合が増えている。これで愛国心を発揮できるか?という論点です。代理出産は、生殖技術の発達によって受精卵を育てるだけの「代理母」が可能になり、インドなどでは商業的に誘致している場所があるそうです。これらの是非は功…

Justice 第三章 リバタリアニズム(自由至上主義)

勝手に、金曜日は古典、哲学、経済学などの本を読んで重要な英単語を紹介することにしています。理由は、外国人と小さなパーティや飲み会をするときに深い会話をすると文化の違いが理解できて面白いのと、仕事にも役立つと思うからです。私の経験では、時事問題だけでなく、関連して深い内容を振ってくる人が予想より多いです。言語はもののの見方・考え方を作るので、7000語レベルの英語が使えると世界が広がると思います。さて、Justice 第三章 Do we own ourselves? - Libertarianism です。富の再分配をどこまですべきか、個人の安全のための規制(例:ヘルメットやシートベルト)を義務…

Justice 第2章 功利主義(2)

世界が物騒になっていますね。一部で人気の E.N.Luttwak の「戦争にチャンスを与えよ」等を最近読み、いろいろ考えさせられました。生きている以上利害の対立は避けられないですが、樹木のように高く伸びて葉を広げたほうが日光をより多く吸収できるというような、静かな競争で解決するのが理想的だと思っています。一人の人間は持ち時間が決まっているので、ルールの下での競争で資源配分を決めるとだいたいOKと思いますが、歴史的な時間での人間集団に置きなおすと出生率が出てきて、やはり一筋縄ではいかないです…。賢くなりたいですね。 さて、今週のJustice は第2章「功利主義」のつづきです。英国のミルとベンサ…

Justice 第2章 功利主義(1)

金曜日はしばらくSandel教授のJusticeを読みます。今回と次回で第2章「功利主義」を解説する予定です。功利主義は、「最大多数の最大幸福」を掲げて「道徳を科学的に扱う」ことを主張します。すなわち、関係者の幸福(快)の総和から苦痛(苦)の総和を引いたものを最大にすべきであるという原理です。第2章では、功利主義が一筋縄ではいかない衝撃的な例がいくつも挙げられています。冒頭の例は朝から申し訳ありませんが下記でした。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%8B%E3%83%A7%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E5%8F…

Justice 第1章

今週から金曜日の読書は、Michael J. Sandel の “Justice: What’s the right thing to do?”を読みます。 Prof. Sandelはハーバード大学の政治哲学(Government Theory)の教授で、NHKでも以前(2010年ごろ)講義・討論番組がありました。道徳系の英単語は日本語との対応が一筋縄ではなく、お酒が入った席などで使うことが多いのでそれが多用される本書をやってみようと思った次第です。いろいろ極端な実例が多く面白いのですが、感情を揺さぶられるので疲れます。第1章では、天災の際の便乗値上げの是非…