世界の研究所 Max Plank Institute (MPI) for Evolutionary Anthropology, MPI for Human Development

今週の世界の研究所は、先週ノーベル医学生理学賞を受賞した研究者(Prof. Dr. Pääbo)のいるMax Plank Institute (MPI) for Evolutionary Anthropology(ライプツィヒ)と、ちょっと似ている名前の MPI for Human Development(ベルリン)を取り上げます。前者は人類学、後者は教育学で、どちらも日本では文系に近い領域ですが(人類学は理学部)、ドイツは理系の側にかなり振っているので興味深いです。他にも MPI for Evolutionary Biology(プレーン市)があり、紛らわしいですね。 どちらも写真を見る限り…

百人一首(4) 秋の歌 47, 69

昨日は最低気温4℃で、寒くなりました。今週金曜日の百人一首は、 47恵慶法師(えぎょうほうし)と 69.能因法師(のういんほうし)です。 (英訳は Peter McMillan、文春文庫Kindle版) (47) 八重葎(やえむぐら)茂れる宿のさびしきに 人こそ見えね秋は来にけり How lonely this villa / has become, overgrown with goose grass weeds. No one visits me - / only automn comes. (69) あらし吹く三室の山のもみぢ葉は 龍田の川の錦なりけり Blown by storm wi…

ノーベル化学賞

2022のノーベル化学賞は”about snapping molecules together” に与えられました。click chemistry(クリックケミストリー)は、複雑な分子に特定の官能基をつけておき、その反応だけが確実に起こることを利用して、副産物無しに狙った分子だけを共有結合で結合させる概念で、いずれ受賞するだろうと言われていました。Meldal教授が最初の汎用的な反応を発見し、Sharpless教授が体系化しました。Sharpless教授は2001年に野依教授と一緒にすでに受賞しているため、2回目受賞があるかどうか、という話題がありましたが、今回受賞しま…

ノーベル物理学賞

2022年のノーベル物理学賞は、「ベルの不等式」が成り立たないことを実験的に検証した3人に与えられました。 ベルの不等式は、量子化学では習わないですが、本格的な量子力学の教科書には出ています。「雨男と晴女が出会う確率の上限」というわかりやすい解説は下記。 https://xseek-qm.net/Bells_inequality.html 実験は「量子もつれ」が実際に起こり、通信の秘匿に使えることの証明にもなっています(2015年、Zeilingerら)。量子もつれは、量子コンピュータの動作原理なので、タイムリーな受賞ともいえるでしょう。量子コンピュータを提唱した人たちもいますが、その受賞はあ…

ノーベル医学生理学賞

2022年のノーベル医学生理学賞は、スウェーデン生まれ、ドイツMax Plank InstituteのSvante Paabo(ペーボ)博士に授与されました。DNA人類学の創始ということですが、成果はポピュラーサイエンスとして広く知られています。例えば本人による解説も和訳されています。 https://www.amazon.co.jp/dp/416390204X ネアンデルタール人と人間が交配した証拠がDNAから見つかったという報告が出たのは2010年ころで、衝撃的でした。アフリカ人はネアンデルタールと共通遺伝子がないのに、他の人種は1.5-2.1%あるということは、アフリカで誕生した現生人類…

世界の研究所 電力中央研究所

今週の世界の研究所は、日本の電力中央研究所をとりあげます。ここは研究員640人を擁する研究所で、原子力発電、電力供給の他に超伝導送電や蓄電池、燃料電池の材料開発、生物系など幅広い研究を行っています。東京大手町に本部、研究施設は安孫子、横須賀、狛江、赤城、など関東地方にあります。 https://criepi.denken.or.jp/ 最近、系統用蓄電池の普及についての記事を見たので、ちょっと試算してみました。 ●日本の消費電力 2010年の日本の最終消費電力量は1123.75TWh。一方、2020年のそれは986.95TWh →約10^15Wh 1年は8760時間なので、平均的には10^11…

百人一首(3) 西行法師 - 日本語の魔術師

今週金曜日の百人一首は、86.西行法師です。下記サイトに日本語と英語が出ています。 https://www.samac.jp/search/poems_detail.php?id=86 嘆けとて 月やは物を 思はする かこち顔なる わが涙かな です。西行は後鳥羽上皇に「不可説の上手なり」と評された言葉の魔術師です。私は気が滅入ったときに彼の歌集「山家集」を開くのですが、日本語による描写の傑作が多く詰まっていて、気持ちが晴れます。私がしばしば貶す(けなす)「yahoo 知恵袋」にもちゃんとした解説があります。 https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/qu…

SiCの界面、宝石としてのSiC=モアッサナイト

4H-SiC (4Hは結晶多型の名前)のパワー半導体としての開発が進んでいます。高温で使えて放熱器が小さくてよい、高電圧を小型トランジスタでon/offできるなどの特徴があり、GaN, Ga2O3のどれが市場を制するかは、性能とコストで決まる段階になるでしょう。開発に成功しても使われなかったらその研究者は報われないか、というと、社会的には risk hedge としての役割があるので大切な役割だと思います。個人や会社の評価については、運ということになるでしょうが、後続の人がやる気を失わないように、開発成功の段階で報わないといけないと思います。 開発の歴史は下記pdf が面白いです(エラーが出る…

半導体としての炭化ケイ素(SiC)の難しさ

ワイドギャップ半導体は結晶を作るのが難しいものが多いです。GaNは突破口を開いた日本人がノーベル賞を受賞されました。SiCの結晶成長も難しいです。SiCはダイヤモンド構造が最安定のSiとグラファイト構造が最安定のCの化合物なので、その中間的な結晶構造が多数存在します。これを結晶多型(polytype)と言いますが、結晶多型が違うと当然結晶粒界が生じるので半導体としての性能が劣化します。 https://www.youtube.com/watch?v=hGHHaMJaCX8 にあるように、SiCは「カーボランダム」という研磨剤です。研磨剤の応用ならば結晶多型は問題ないですが、半導体の場合は大問題…

ワイドギャップ半導体

SiCはワイドギャップ半導体と呼ばれます。この「ギャップ」はバンドギャップ(band gap)の略で、電子の詰まった価電子帯(valence band)と電子が入っていない伝導帯(conduction band)のエネルギー差のことです。純粋な半導体は電気抵抗が高いのですが、異種元素を微量混ぜること(ドーピング)によって、価電子帯から電子を微量抜いたり(正孔が生成する)、伝導帯に微量の電子を入れたりすることができます。このドーピングで作られた正孔や電子は、外部からの電場や電流によって数(濃度)を簡単に変えることができるので、電気信号を制御するデバイス(半導体素子)を構成できます。これが一般論な…