The Consciousness Instinct(5):第4章 脳はモジュールでできているが意識を担当するモジュールはない

金曜日の読書 ”The Consciousness Instinct:…”は今週は第4章です。第二部に入り、脳のハードウェアとソフトウェアの関係を見ていくようです。第4章では、医学からの蓄積(脳の一部を損傷した患者の分析)、コンピュータ科学からの知見、動物の脳との比較などを経て、意識とは何か、について軽く触れます。まず、脳の一部を損傷した患者に起こる様々な症状が説明されます。例としては幻肢(存在しない体の一部があるように感じる)、存在しない第三者の気配を濃厚に感じる、恐れの感情がなくなり危険なことをする(偏桃体の損傷)、言語障害(意味から単語をつくるBroca野と発音…

免疫における自他の区別はMHCで行い、細胞の識別はMHCがくっつけている8~10アミノ酸のペプチドで行う

ヒトの細胞の表面には、自他を区別したり免疫細胞と情報をやり取りするために糖タンパクがびっしり生えているようです。それをMHC、別名HLAと呼びます。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%BB%E8%A6%81%E7%B5%84%E7%B9%94%E9%81%A9%E5%90%88%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E8%A4%87%E5%90%88%E4%BD%93 MHC分子には多くの型(少なくとも2万余)があり、1つの個体は父母から受け継いだ多数の型を同時に発現しているとのことです。免疫細胞はこの型の分布で自他を識別しており、臓器移…

CAR-T細胞療法

CAR-T細胞療法は現在第3世代のようです。 https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/research/car-t-cells がん細胞の表面にある情報伝達部位(←これが何なのかは明日説明します)に結合する抗体医薬品は分子標的薬として実用化されていますが、高価なモノクローナル抗体を何回も投与しないといけません。患者自身のキラーT細胞にがん細胞を認識する抗体をくっつけてしまえばたくさん攻撃できるだろう、というのが基本です。キラーT細胞は適切な信号をもらうと攻撃モードになります。上記記事にあるように、CAR-T細胞はがん細胞の表面を認識する抗体と…

T細胞リンパ球

T細胞については授業で習っていると思いますが、復習しておきましょう。 ・大きさは2μmくらい。多数の突起を持つ球体。下記の右の青いやつ。  https://en.wikipedia.org/wiki/T_cell#/media/File:Red_White_Blood_cells.jpg ・免疫を司る。リンパ球の一種。同じ外見で司令塔としての役割をもつもの(ヘルパーT細胞と制御T細胞)と攻撃者としての役割をもつもの(キラーT細胞)の二種類に分けられる。 ・Tはthymus(胸腺、発音は「さ」イムス)の略で、胸腺で自他認識能を教育(選別)されるため、胸腺に大量にいることが発見されたことから。 ・…

世界の研究所:Center of Cellular Immunotherapy, University of Pennsylvania, USA

先週の国会で高額医療費免除制度の見直しについて議論があったようです。net情報しかみていませんが、首相が関連してCAR-T細胞治療に言及したとのことで、いよいよこの治療法が本格的に導入されるということなのでしょう。CAR-T細胞治療はがんの免疫治療法の一つで、患者から取り出したキラーT細胞を遺伝子改変して、がんを攻撃できるようにしてから数百万個に増殖させて患者に戻す方法です。免疫系の個性やがんの個性の条件を満たせば劇的に効くことがわかっているため、ヒトの平均寿命を数年以上延ばせるのではないかと個人的に予想します。がんの種類は少なくとも数千以上あるようなので、すべてに対応できるまでには相当時間が…

The Consciousness Instinct(4):第3章 Francis Crickまで

金曜日の読書 ”The Consciousness Instinct:…”は今週は第3章です。20世紀末までの哲学・心理学における「意識」について述べています。プラグマティズム(行動主義)心理学が流行りましたが、脳の構造と機能がてんかんの治療や脳を損傷した患者の医学的研究から明らかになってきたため(例:ホムンクルスで有名なペンフィールド)、精神と脳は別物かどうかというのが問題になりました。ペンフィールドは感覚を脳に伝える間脳の働きや情報が大脳皮質とその下との間で行き来していることを推測しました。 https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%…

魚が音の方向を知るしくみ

Charité (ベルリン医科大学病院)は教育機関でもあるので、医学と直接関係ない研究者もいるようです。プレスリリースに、魚の聴覚の仕組みについての論文を紹介するものがありました。 https://www.charite.de/en/service/press_reports/artikel/detail/how_fish_can_hear_in_stereo 論文はnatureにでています。 https://www.nature.com/articles/s41586-024-07507-9 人間の場合は右耳と左耳の信号の時間差により音源の方向を認識します。空気中の音速は340m/sなのに対…

患者から切除した組織を使った脳科学実験

ベルリン医科大学はRobert Kochという細菌学の創始者がいたので感染症の記事が多いのかなと思っていましたが、脳科学や遺伝子治療のプレスリリースが多いのは、これらの分野に新しいことが多いためでしょう。今日は独特の実験による脳科学です。 (1) https://www.charite.de/en/service/press_reports/artikel/detail/why_deep_sleep_is_helpful_for_memory (2) https://www.charite.de/en/service/press_reports/artikel/detail/when_thou…

HIVの7人目の完治例

Charité(ベルリン医科大学病院)は月に約1回、新しい治療法などのプレスリリースをしています。大規模な病院だからなのでしょうか、わりと多いほうではないかと思います。今日紹介するのは去年の7月の分で、昨日同様に免疫系が関係しますが、HIV(エイズウィルス)に関するものです。HIVは免疫で中心的な役割をするT細胞リンパ球に感染する厄介な病気ですが、”Berlin Patient”という完全にHIVを体から追い出して完治で来た患者の2人目を報告しています。一人目は2008年だそうなので、間がだいぶ空いていますね。よく効く薬ができていてウィルスを抑え込むことはできますが、完…

世界の研究所:ベルリン医科大学病院 Charité

今週は、先週予告した通りドイツ・ベルリン医科大学病院であるCharitéのweb siteから、ここで開発されたいろいろな治療法のニュースについてみていきましょう。ここはヨーロッパ最大の大学病院だそうです。 一つ目は、重症の膠原病(全身性エリテマトーデス)の23才の女性がガンの薬の投与で症状が消えたというニュースです。この病気は日本でも6~10万人の患者がいる指定難病で、治療法が開発されれば朗報です。 https://www.charite.de/en/service/press_reports/artikel/detail/impressive_results_against_autoimm…