国民負担率 – 社会はCO2回収コストに耐えられるのか?

昨日の調査と試算で、世界のGDP合計が1京4400兆円で、CO2の大気からの直接回収(DAC)でカーボンニュートラルを実現しようとすると建設費を除き1416兆円、GDPの10%という結果が出ました。GDPは、おおざっぱには国民の給料の合計と思ってよいので給料の10%を召し上げて使えばよい、という話になりました。CO2の話からは外れますが、10%を召し上げて大丈夫かどうか、「国民負担率」という数値を基に考えてみましょう。 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a04.htm によると、日本は48.1%です。この数値は、税金と社会保障…

DACだけでカーボンニュートラルを実現するには全世界GDPの10%の費用が必要

人間が一日に呼吸で放出するCO2は約1kgだそうです。 大気中のCO2の総量はどのくらいかと思って検索したところ、 https://en.wikipedia.org/wiki/Carbon_dioxide_in_Earth%27s_atmosphere によれば、大気中の1ppmのCO2は 炭素として2.13Gt(ギガトン)、CO2として7.82Gtだそうです。いま412ppmなので、CO2として3221Gtですね。 この数値は米国のOak Ridge National Lab.の報告書からです。一般人の概算も見つかりましたが、幅があります。11000Gtは間違いで、3206Gtの人が正解です…

CO2直接大気回収(DAC)の大規模プラント

米国エネルギー省(Department of Energy; DOE)が多額の資金を提供して民間が建設しているCO2大気直接回収について、2つのプロジェクトのwebページが見つかりました。 https://www.projectcypress.com/our-approach https://www.southtexas1pointfive.com/direct-air-capture 音楽付きの映像はいいのですが、原理やエネルギー消費、コストについては何も書いてありません。 日本政府のシンクタンクCRDSが2019年に報告書を出していて、同じ用語(calciner, slaker等)が使われ…

世界の研究所:米国 Breakthrough Energy

今年も暑い夏が長く続きました。紅葉がきれいですが、雪は例年よりも早く降りそうで(すでに初雪)、秋は短いと思われます。気候関係で、今週はCO2回収に関する動きを紹介しましょう。米国のBreakthrough Energy という団体は、Microsoft 創業者のBill Gatesが設立・支援しており、気候変動対策に関する調査研究や提言を行っています。 https://www.breakthroughenergy.org/ 米国エネルギー省が1.8B$=2700億円規模で大規模に建設を助成している直接CO2大気回収(direct air capture, DAC)について、需要不足のため失速が…

Hillbilly Elegy(10):社会資本(コネのネットワーク)を得て就職する

金曜日の読書”Hillbilly Elegy”は第13章、イェール大学法科大学院でガールフレンド(インド系、のちの伴侶)を見つける話と、ガールフレンドや教授のアドバイスによって社会的資産(簡単に言うとコネ)を作るところです。この、社会的資産を作る舞台としての名門大学(院)の役割は確かに得難いものです。1年目が終わると有名な法律事務所からリクルーターが訪問し、繰り返し面接をしながら候補者を絞り込んでいきます。二次面接の一部であるグループでの会食でsparkling waterが炭酸水であることを知らず「輝く水って何だろう」と飲んで吹きだしたり、ナイフやフォークがたくさんあ…

Hamilton-Jacobi 方程式と最小作用の原理

Bellman方程式はだいたい説明ができたと思うので、それとよく似たHamilton-Jacobi方程式について述べましょう。 「解析力学」という分野の話で、抽象的な変数の置き換えが続いて具体的イメージがわかず非常にわかりにくいですが、いろいろいじっていくうちに量子力学とのつながりが出てきたり、Bellman方程式と同じものが出てきたりして、深い真理につながっていることがうかがわれます。 wikipediaの説明もわかりやすいとは言えません。昔の学者がニュートンの運動方程式を別の形(積分形)で表せないかをいろいろ試していたものが体系化されたというものです。 https://ja.wikiped…

Hamiltonの主関数と制御理論:Bellman方程式は「7つの習慣」と見た目が同じことを言っています

Bellman方程式を連続時間にしたものは、Hamilton-Jacobi-Bellman方程式と言い、解析力学のHamilton-Jacobi方程式の拡張になっています。 その背後にある理由を調べていたら、下記を見つけました(pdf注意)。この分野を理解したい人は一読をお勧めします。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/butsuri1946/41/3/41_3_227/_pdf/-char/ja 実は、この著者の先生には習ったことがあります。私が大学2年生か3年生で受けた講義で本来の先生が長期出張のためこの著者が代講で来られて何回か講義を受けました。こ…

Bellman方程式

Bellman方程式は、E=mc2などと違ってパッと見てもよくわかりません。 いろいろな書き方ができますが、添え字無しで書く方法だと V(x)=max [F(x,a)+βV(T(x,a))] です。この説明に講義では1時間使いますが、簡単に書いてみましょう。 囲碁や将棋などの戦略的ゲームを例にとると、xは現在の盤面、V(x)は現在の盤面の評価(どのくらい良いかという点数。ふつうは最大を1にします)。 右辺のaは次の1手です。F(x,a)は、盤面xに対して手aを売ったときの損得。T(x,a)はxとaの組み合わせに対して相手が打った後の盤面で、その評価がV(T(x,a))です。 相手が最善手を打つ…

世界の研究所:Richard E. Bellmanが偉大な方程式を発見した米国Rand研究所

今週は、Bellman方程式の話をしましょう。今年のノーベル賞のAI関連でも多用されている重要概念の一つです。囲碁や将棋などの棋譜を大量に解析して、与えられた局面での最善手を求めたり、ある局面での勝率を計算したりできます。テレビ中継などで「AIの判定する勝率」で出てくる値ですね。これは、1953年にRichard E.Bellmanが33才で発見した、勝利につながる手の必要条件を与える漸化式です。先々週お休みをいただいているとき、Bellman方程式と解析力学のHamilton-Jacobi方程式との類似性、量子力学との関連を指摘する本を読みました。そのあたりを解説できるといいと思います。 B…

Hillbilly Elegy(9):イェール大学法科大学院に進学し、エリートの仲間入りをする

アメリカ大統領選は大接戦で蓋を開けてみるまでわからないようです。金曜日の読書”Hillbilly Elegy”の著者J.D.Vance氏は共和党の副大統領候補ですが、話がうまく、機を見るに敏で、どっちに転んでも将来の注目株だと思います。さて、本は第12章、オハイオ州立大学を卒業してからYale UniversityのLaw Schoolに進学します。イェール大学はivy leagueアイビーリーグに属する有名大学です。 https://en.wikipedia.org/wiki/Ivy_League Law Schoolは今では日本でも存在する「法科大学院」で、弁護士を…