Why Nations Fail (7):第7章 なぜ産業革命はイギリスで起こったか?

金曜日の読書 Why Nations Fail 今週は7章、なぜイギリスで産業革命が起こったかについての考察です。マグナカルタ(1215)、ばら戦争(1455-1485)、清教徒革命(1642-49)、名誉革命(1688)など高校の世界史で習った話が述べられています。マグナカルタは、王の専横を抑制するために貴族25人が王権を制限できる約束の文書(=大憲章)を作った、というもので、エリート層を王室から拡大する動きを表しています。その後ばら戦争による封建領主の没落がおこり、有力者の多様化と拡大が進みます。1500年代には「靴下編み機」など発明が起りますがエリザベス1世に禁止された記録が残っています…

大面積X線カメラ、cyberknifeで使っているすごい加速器

Cyberknifeの長所は、呼吸などによって人体が動いても正確に狙った位置に照射できることです。これは照射対象の近くに重金属(金など)でできたマーカーを手術で事前に埋め込み、X線カメラで実時間観察することで実現されていると思われます。下記(pdf)の2ページの図で、天井からX線を照射して床にX線カメラで見る仕組みが書いてあります。X線画像でマーカーの位置を決め、計算で照射位置を追いかけるのだと思います。 https://www.accuray.com/wp-content/uploads/cyberknife-treatment-delivery-system_-technical-spec…

Accuray社の創業物語

Accuray社の創業物語が論文として雑誌に載っています。 https://www.cureus.com/articles/3-accuray-inc-a-neurosurgical-business-case-study.pdf この雑誌Cureus はAccuray創業者のJohn R. Adler Jr.教授が創刊したもので、医学関係の論文を集めたopen access誌です。2022年にSpringer Nature社が医学分野に進出しようと傘下におさめました。困りごとを解決するやり方がわかっているという感じですね。 https://group.springernature.com/g…

加速器でガンマ線を作るしくみ

CyberKnifeはロボットアームに平行度の高い強力X線発生装置を取り付けるのが新しい着想でした。線形加速器(linac)を使っているとのことですが、詳細な文献が見つかりません。Accuray社の特許は見つけました。ロボットアームにつけるものではないですが、加速器の使い方が書いてあります。 https://patentimages.storage.googleapis.com/71/f9/e7/f7d0b0481bb818/WO2010019311A2.pdf 1MV~9MVというかなり高エネルギーの電子を作ってタングステンなどの重元素のターゲットにぶつけるようです。タングステンターゲットに…

世界の研究所:米国スタンフォード大発のベンチャーAccuray社

今週は、先週紹介したガンマナイフの最新版を調べていて見つけた、米国スタンフォード大学発のベンチャーAccuray社をとりあげます。1990年創業で”CyberKnife”という医療機器を作っていて、日本にも数十台入っています。成功したベンチャーと言えると思います。日本法人もありますね。創業者は附属病院の脳外科医です。スタンフォード大学は加速器や放射光施設も持っているので、専門家が多く立ち上げやすかったのだと思います。体の内部の任意形状の3次元組織を外から壊せるというのは素晴らしい技術です。 https://www.youtube.com/watch?v=mcC0_azJ…

Why Nations Fail (6):第6章 包括的制度の喪失による没落:ベネチアとローマ帝国

金曜日の読書 Why Nations Fail 今週は6章、目からうろこの考察が続く章です。例として取り上げられているのが中世の都市国家ベネチアとローマ帝国本体です。 ベネチアはイタリアを長靴に見立てると、付け根の後ろ側(東側)に位置する港町です。AD810年に東ローマ帝国から独立を果たしました(このあたりは複雑です)。1310年に一種の貴族政治が確立するまでは繁栄を保ちました。ローマ帝国崩壊後途絶えていた地中海の公益を、独立の立場を生かして一手に担うことができたため経済的繁栄がもたらされました。特に、都市にとどまる資本家と船にのる無名・無産の商人がペアを組む制度が制度的イノベーションを誘発し…

61番元素Pmの錯体が今年初めて作られていました。追加で60Coとガンマナイフの話。

ベータ崩壊を電力に変えるbetavoltaicに使われる同位体に147Pmがあります。Pmはプロメチウムで、安定同位体がない元素です。147Pmの半減期は2.6年で、あまり長くありません。寿命が短いと原子数当たりの崩壊速度が速く(毎秒の崩壊数であるベクレル(Bq)が大きい)、量が少なくて動作するので超小型化に向いています。しかし短寿命なら化学電池で十分ですね。いろいろ調べていたら、今年になってプロメチウムの錯体が初めて作られたという論文がNatureに出ていました。これは無料で読めます。米国Oak Ridge National Laboratoryの研究です。 https://www.natu…

ベータ線を電力に変えるしくみ

17keVのβ線を電力に変えるにはどうするのでしょうか?太陽電池と似た機構を使います。半導体に高エネルギー粒子が当たると化学結合を作っている価電子が多数弾き飛ばされ、最終的には電子・正孔対が多数生じます。ただの半導体だと、電子と正孔が再結合して光や熱を出して終わりですが、半導体にpn接合などが作ってあって内部電界が存在すると電子と正孔が反対方向に進み分離されます。そこに金属電極を付けておけば、電子と正孔が電極に現れ、起電力が生じ、負荷回路がつながっていれば電流が流れます。起電力の最大値は半導体のバンドギャップになります。太陽電池のような可視光の場合は光子1個に対して電子正孔対は1対(紫外線をナ…

63Niを使った原子力電池

昨日の記事で「眉唾」と書いてあった63Ni原子力電池についてみてみましょう。63Niは62Ni(安定同位体)に中性子を照射するとできるそうです。β崩壊で電子を出して63Cu(安定同位体、天然の銅の60%を占める)に変わるので、壊変後は安定です。ベータ線(電子)のエネルギーも平均17keV、最高66keVなので低エネルギーの部類に入ります。反射高速電子線回折(RHEED)のエネルギーが20keVなので、それを超小型(物質のみ)で作れるのは魅力的で、ガスクロマトグラフィ、帯電防止装置、遮蔽能力を測定する厚さ計などに使われています。密封線源の場合は管理が緩いですが、紛失すると届け出が必要です。壊れて…

世界の研究所: 英国 Cabot Institute for the Environment @ Univ. Bristol

先週は原子力電池に関するニュースをいくつか見ました。1つは英国University of BristolのCabot Institute for the Environment による14Cダイヤモンド電池、もう一つは中国の会社(Betavolt社)の63Ni電池です。後者は今年はじめの発表のようで、14Cの記事をみたら勝手に「おすすめ」されたのではないかと思います。 https://www.bristol.ac.uk/cabot/what-we-do/diamond-batteries/ https://insideevs.com/news/704871/china-betavolt-ato…