共鳴ラマン効果と表面増強ラマン効果

ラマン分光は反射配置で振動スペクトルが得られ、物質の同定に役立つ優れた分析法ですが、欠点はラマン散乱が極めて弱く、入射光の10万分の1~100万分の1の強度しかないことです。回避する方法は2つあります。一つは、入射光(レーザー)の波長を調節して試料が電子励起される(吸収する)波長にすることです。これを共鳴ラマン散乱と呼びます。ラマン効果は、物質の光に対する応答(分極率)が分子振動によって変調される効果で、量子力学的には仮想的な励起準位を使う3次の過程です。その仮想的な準位が実際に存在していると、効果が飛躍的に大きくなります。 https://en.wikipedia.org/wiki/Reso…

海の青は水分子の振動のオーバートーンによる吸収が作っている

空の青はレイリー散乱で説明できましたが、海の青はどうか、と考えたのがラマンです。レイリーは「空の青が映っているからだ」と説明し定説になっていました。ラマンはイギリスからの帰国の船の中で偏光子(Nicol prism)を入れて空からの反射光を遮断したところ色が濃くなったため、海の色は海水自身から来ていることがわかったという論文を書きました(Nature 108,36(1921) 101年前です)。実験の結果、水分子のOHの伸縮振動のオーバートーン(非調和ポテンシャルによる多重振動量子吸収)が赤色領域(例えば693nm, OH対称伸縮+3×反対称伸縮)にあり、その吸収のため深い水が青く見えることを…

空の青は偏光している

空が青い理由の理論的な説明に成功したのはRayleigh(レイリー)卿です。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88_(%E7%AC%AC3%E4%BB%A3%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%83%BC%E7%94%B7%E7%88%B5) 化学ではRamseyと共同でアルゴンを…

世界の研究所 インド Raman Research Institute

今週の世界の研究所はインドのバンガロールにある Raman Research Instituteです。 バンガロールはインド南部の標高920mの高原にあり、IT産業の中心地になっています。 夏の最高気温の記録は38.9℃で、通常34-5℃、冬は最低記録が7.8℃、通常15℃で、日本のほうが過酷です。 ラマン(1888-1970)は、彼の名前で呼ばれる分光法の原理を発見して1930年にノーベル物理学賞を受賞しました。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%BB%E3%82…

マキャベリ(1) フィレンツェの古い橋

金曜日の読書は来週からマキャベリ「君主論」です。Niccolò Machiavelli(1469-1527)はルネッサンス期、イタリアが都市国家群であったときのフィレンツェの外交官・著述家です。イタリアの歴史は複雑で面白いです。フィレンツェは中世では毛織物と金融で富裕な都市でした。中心部は世界遺産です。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%84%E3%82%A7 Ponte Vecchio (古い橋)という店舗がある橋が有名です。インテルの次世代GPUのコードネームになっています。これ…

エネルギー回収型加速器

自由電子レーザーSACLAの諸元は下記に出ています。 http://xfel.riken.jp/users/bml02-11.html 8.5GeV の電子が0.2-0.3nCの塊(バンチ bunch)で飛んできて光と相互作用するようです。時間は20fs。 1バンチあたりのエネルギーは、VとCをかけるとJの単位になるので 8.5 x 10^9 x 0.3 x 10^-9 = 2.55 J で、大したことはないです。繰り返し30Hzだそうです。 しかし、SACLAでは50MW(メガワット)のクライストロンを64台使うそうです。パルス動作だと思いますが、たいへんな電力を消費しますね。 https:…

自由電子レーザー

昨日は、真空中を飛ぶ電子の密度が空間的に変調されて「だま」をつくると電磁波を発生するという話で、電磁波が電子密度の「だま」を増強するので決まった周波数の大電力の電磁波を出せ、加速器や大型レーダーのクライストロンや電子レンジのマグネトロンがその応用だという話をしました。電磁波と電子密度変調がお互いを強めあうような相互作用をするということは、電磁波の側に共振器を作ればレーザーになるのではないか、と当然考えますね。これを自由電子レーザーと呼びます。通常の物質の電子励起では作れない波長のレーザーが作れます。日本では東京理科大の野田キャンパスに赤外用の自由電子レーザーがあります(1998年稼働)。下記が…

加速器の高周波電源は特殊な真空管

放射光実験はいいデータがとれるだけでなく、最新の測定設備を勉強できるので楽しいです。昨日の訂正で、SPring8は姫路市ではなく、兵庫県佐用郡(播磨科学公園都市)にあります。今日はクライストロン(Klystrons)の話をしましょう。 https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=1061 SPring8の「8」は電子を8GeVまで加速していることが由来です。8GeVというと、光速の99.9999998%だそうです。高い周波数の交流で同期して加速します。これは、電子源から出た電子を8GeVにまで加速するのと、円軌道を回るシンクロトロンで光として失われるエネルギーを…

世界の研究所 SPring8

今週の世界の研究所は兵庫県姫路市にあるSPring8です。 https://www.youtube.com/watch?v=pvFnXbkCfvs 電子(または陽電子)を光速に近い高速で周回させることで、シンクロトロン放射光が出ます。 http://www.spring8.or.jp/ja/about_us/whats_sp8/ 山(三原栗山)の周りに建設されているところが土地の狭い日本らしいと思います。 https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=1467 円周に沿った方向に強い光がでる(0.003°)、という指向性は相対論効果である、といわれていますが、詳し…

墨子(6) 「墨攻」を見て千早城を思い出す

今日で墨子は終わりにしようと思っていますが、何を取り上げようか悩みます。一部の節は「なぜ」「○○だから」「では、それはなぜ」と問を繰り返すスタイルで、現在でも発想法として有効とされている方法を使っています。その結果、論理学の説明とも解釈される短文もあります。異色の思想家であることは間違いないでしょう。話は変わりますが、墨家による籠城戦を扱った日本の小説で「墨攻」というのがあって、漫画化され、さらに中国・香港・韓国・日本の合作で2006年に映画化されています。よくそんな題材を思いついたな、と感心します。webで購入できるので見たかったのですが、最近ちょっとバタバタしていて今日には間に合いませんで…