硫黄細菌は80℃希硫酸中で生育する

硫黄細菌が使う重要な酵素にSOR (Sulfur oxigenaze reductase)というのがあります。その構造は明日見ることにして、それを使っているという古細菌(Archaeon)が面白かったので紹介します。 https://bacdive.dsmz.de/strain/16643 これは火山性の温泉泥から採取されたもので、生育条件は80℃、pH1~3というものすごい環境です。上記リンクをたどると最適培地が出ていますが、Fe,Mg,Caなどの金属硫酸塩、アンモニア、リン酸+酵母抽出物という面白いものです。 https://www.readcube.com/articles/10.338…

硫黄細菌のエネルギー源

硫黄細菌は、硫黄や硫化水素を酸化して硫酸などにする際にエネルギーを得る細菌で、土壌中、海水中、下水溝などにいるそうです。 H2O +1/2O2 -> H2O + S ΔH= -176kJ/mol 4つの属があり、一部はCO2の還元にそのエネルギーを使っているそうです。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A1%AB%E9%BB%84%E7%B4%B0%E8%8F%8C 逆に、有機物を酸化しつつ硫酸を還元するsulfur-reducing bacteriaもいるようです。 https://en.wikipedia.org/wiki/Sulfur-reduci…

世界の研究所:東北大学・加齢科学研究所とスーパスルフィド

今週は、予告通り硫黄細菌を調べていこうと思います。検索で引っかかって面白かったのは人間を含む生体内に存在する、硫黄が数珠つなぎになった「スーパスルフィド」で、2021年に学会誌の特集号が組まれていてタダで読めます。 https://seikagaku.jbsoc.or.jp/index.html?vol=93&no=5 この特集号は読みごたえがあります。 -S-..-S-S-を含むタンパク質や小分子は2014年に生体内で広範に使われていることがわかったそうで、大発見ですね。この発見は東北大学・加齢科学研究所その他日本国内で行われたようです。先週東北大に出張していたこともあり、今週の研究…

知的創造企業(9) 日本型の知識創造企業の世界展開(その2)

金曜日の「知識創造企業」は第7章後半です。日本人と欧米人の仕事のやり方が面白かったです。使うロジックが違う、という話が印象的です。 キャタピラ社と三菱重工業の合弁企業が一度壊れそうになって、見直しの結果、新キャタピラ三菱ができました。しかしこの本が書かれた後の2012年に三菱が撤退することで合弁解消し、日本キャタピラー合同会社になりました。 関係ないですが、「合同会社」は米国の企業の日本法人が名乗ることが多いです(例アマゾン)。経営と出資が分離していない形態で、株式は発行せず、株主総会も不要とのことです。外資の子会社には適していますね。税金や手数料が安いというメリットもあるそうです。 http…

C1 化学と不均一系触媒

今週はC1 chemistryについて普通でない切り口から解説していますが、オーソドックスなCOを使った反応は膨大な量の研究があります。 溶液中の錯体で配位子を精密に作りこむ均一系触媒もいろいろありますが、金属や金属酸化物のナノ粒子、他の物質(担体という)表面に触媒となる数原子が載った不均一系触媒の研究が多いです。これは高温高圧で使えるので、気体を原料とした大量合成に向いています。 不均一系触媒は、昨日の話にもあったように、最近は量子化学計算の精度が上がったことと、電子顕微鏡で原子が見えるようになったことから進展著しい分野です。 私は化学者としては酸素以外の16族(S,Se,Te)に愛着がある…

不均一触媒の計算化学

CO2還元はいわゆるC1 chemistry (シーワン化学)の一種です。今後石油がなくなった後での化学品原料としてC1化学が重要になることは間違いないでしょう。と思って最新の参考書を買いましたがいい値段でした。 https://www.amazon.co.jp/dp/B09QJDTDYT 著者は中国の学者ですが、中国は昔から石炭液化をやっていたのでC1化学は得意です。私があまり勉強していない分野なので、目からうろこのところがいろいろあります。1700ページあるので、しばらく楽しめそうです。図書館にも入れるように頼んでおきましたが、入るにしても時間がかかると思います。 さて、昨日の電流によるC…

CO2電気化学還元にはAgナノ粒子を使う

昨日紹介した3M社の電気化学的CO2還元(COをつくる)は、電解液に硫酸とイオン液体、陰極(CO2を還元する側)に銀ナノ粒子、陽極(酸素発生側)に白金ナノ粒子を使っています。 CO2は水素結合を作るような官能基(アミンなど)があると良く溶けますが、硫酸を使っているのが斬新です。硫酸にはCO2が溶けにくいので溶かすためにイオン液体を使っているのかもしれません。 Agを触媒に使っているのが面白いです。明日紹介する参考書でAgを触媒に使う例がないか調べましたが、CO2の水素添加に使っている文献が1つあるだけで、それほどありふれた反応ではないようです。 還元側で使っているので銀ナノ粒子は溶けたりはして…

世界の研究所:米3M社

今週は、CO2の電気化学的還元について解説しようと思います。いずれ化石燃料(石油、天然ガス、石炭)は無くなります。これらはエネルギー源としてだけではなく化学品の原料として重要です。 CO2から炭化水素等の化合物をどうやって作るか、勉強しています。今週は、水素等の還元剤を用いるのではなく電気で直接還元する技術を主に見ていきたいです。 注目すべき論文としてちょっと古いですが、3M(スリーエム)社の下記が有名です。これについては2021年8月26日(※)にちょっと紹介していますが、詳細は説明していませんでした。 https://www.science.org/doi/10.1126/science.…

知的創造企業(8) 日本型の知識創造企業の世界展開(その1)

金曜日の「知識創造企業」は第7章前半です。第6章までの日本スタイルであるグループリーダーの集団が研究開発を引っ張る middle-up-down management と ハイパーテキスト型組織が世界で通用するかという点において、世界展開している自動車の開発(前半=1986年の日産プリメーラ)や合弁企業(新キャタピラ三菱の油圧ショベルREGA)の例についてケーススタディが行われています。 日産の話で印象的なのは、テストドライバーが車の運転のしやすさや特徴を言語化し、設計にフィードバックする役職として機能していることです。また、3年間で1500人をヨーロッパに送り込んで実際に運転させ、現地の交通…

同期整流

スイッチング電源は本当に小さくなりました。携帯の充電器を見ればわかります。効率は80%を超えています。様々な工夫がされているのが下記の記事で分かります。 https://www.tdk.com/ja/tech-mag/power/006 高速でスイッチをオンオフして交流を作ってトランスに入れ、トランスで電圧を変換してから直流に直します(整流という)。その時にオンオフのタイミングを変えることで出力電圧を変えられるので、整流後の電圧をモニターしてオンオフのタイミングを制御することによって5Vなどの一定電圧を得ます。 直流に直すときに、昔は半導体pn接合のダイオードを使っていました。しかし、ダイオー…