世界の研究所:CAS, Institute of Deep Sea Science and Engineering

先週の科学系のニュースできれいな動画がありました。千島-カムチャツカ海溝とアリューシャン海溝の底10000mの深さでの生態系です。1000気圧以上の深海底でカメラと光学系をどうしているのか気になります。 https://www.youtube.com/watch?v=7jOfYW0F6Xk 論文はこちら。無料で読めます。 https://www.nature.com/articles/s41586-025-09317-z 中国科学院の深海科学技術研究所(CAS, Institute of Deep Sea Science and Engineering)の「奮闘者」(Striver)という潜水…

南極の氷の地質年代による変化

南極の厚さ2000m超の氷(Ice Sheets)が融けているのはここ20年ほどの観測で明らかなようです。 https://climate.nasa.gov/vital-signs/ice-sheets/?intent=121 しかし、歴史的にどうかというと、氷が全くない時期もあれば地球全体が氷に覆われた「全球氷結 Snowball Earth」の時期もあり(24~21億年前と8.5~6.3億年前)、複雑です。地球の歴史を見ている存在があるとすれば、「このくらいでガタガタ騒ぐな」と思っているかもしれません。下記によれば(このwebは時々ならば無料で読めるようです)、火山活動によるCO2発生と植…

カタバ風はフェーンと違って寒い

南極越冬隊の人の講演で「カタバ風」というのが出てきました。katabatic wind で、滑降風と訳すようです。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BB%91%E9%99%8D%E9%A2%A8 高地で放射冷却によって冷えた空気が重くなり、重力で低いほうに流れて強い風が吹くようです。 南極、グリーンランド、アラスカなどでブリザードを伴う強い風になるそうです。 温帯の山地でも、日本の「颪(おろし)、例:六甲おろし」、アドリア海のボーラ(Bora)、フランスのミストラル(mistral)、カリフォルニアのサンタアナ(Santa Ana その風が吹く地名でもある)…

南極の基地は45か所

南極にある基地は55か国により45か所が運営されているようです。 https://en.wikipedia.org/wiki/Research_stations_in_Antarctica 滞在人数は夏季は4800人、冬季は1200人ということで、極限環境で頑張っている人がいるのは素晴らしいですね。冬季の内陸は補給もなく数か月貯蔵物資で耐える必要があるようです。 1898年につくられた最初の基地の写真があります。 https://en.wikipedia.org/wiki/Research_stations_in_Antarctica#/media/File:Camp_and_Hut,_Ant…

世界の研究所: 南極の Amundsen-Scott Pole Station

先週の学会で南極越冬隊の話を聞きました。越冬隊は30人程度で、昭和基地に滞在します(現在第67次。出発から期間まで1年2か月だそうです。)。昭和基地の位置は南緯69度で、オーロラが良く見える緯度だそうです。オゾンホール、CO2濃度、重力場の精密測定や生物調査をおこなっているそうです。 https://www.nipr.ac.jp/antarctic/ 南極点にも基地があります。これは米国のアムンゼン・スコット基地(Amundsen-Scott)です。南極点に最初と2番目に到達した2つの探検隊の隊長の名前がついています。1956年設立です。50人程度が越冬するそうです。 https://en.w…

アルケノン古水温計

今日は「アルケノン水温計」を紹介します。アルケノンは、「円石藻(えんせきそう)」が作る長鎖(C37)アルキルケトンで、二重結合が2個入ったり3個入ったりします。2個(C37:2)と3個(C37:3)の分子数の比が水温に依存することが発見され、その比を測定することにより海底堆積物が形成されたときの温度を下記の式から推測できるというものです。 UK′37 = C37:2/(C37:2 + C37:3)=0.033T [°C] + 0.044 これは細胞膜の軟らかさを一定に保つ目的で生物がやりそうなことなので、素人目にも信頼性が高そうに見えます。素晴らしいですね。 https://www.gsj.j…

Mg/Ca比による古水温決定は難しい

地質試料から古気候を明らかにする研究で使われるものとして、昨日は酸素同位体比を紹介しました。その他にいくつかありますが、今日はMg/Ca比を見ましょう。 いろいろ読んだのですが、英語だとわかりにくくて頭が痛くなりました。下記日本語の解説(pdf)を読んで、留保条件がたくさんあってややこしいからだと納得できました。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/116/2/116_2_63/_pdf/-char/ja 分析対象は、世界中の海にいる炭酸カルシウムの殻を持つ動物プランクトンである有孔虫の殻の微化石です。CaCO3の中にCaの代わりにMgが取り…

酸素同位体O-18/O-16比による古水温決定

昨日の記述に誤りがありました。「ちきゅう」の掘削深度の記録は10kmではなくて、2019年の3262.5mで、科学掘削として世界最深だそうです。断層や褶曲が激しいため計画よりも浅いところで掘削を中止したとのことです。地震の震源になりうるところを掘削しているので「陰謀論」の標的になったりしていますが、そんなに柔(やわ)なものでは無いでしょう。 https://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/nantroseize/ さて、古気候を海底堆積物で調べる方法をいくつか見つけました。一つは酸素同位体O-18/O-16比です。 https://nh.kanagawa-museum.j…

世界の研究所:JAMSTEC 高知コア研究所

先週は古気候(paleoclimate)の研究から1億年前(正確には9200万年前)には大気中CO2濃度が2000ppmあり(現在420ppm)、地表の平均気温が34℃(現在14℃)であった、という論文を紹介しました。古気候研究は氷河の深いところや、海底堆積物の深いところの分析でCO2濃度や気温(海水温)を推測します。今週はどうやっているか少し見てみましょう。海底堆積物については2013年から IODP計画というのがあって10kmを超える深度から試料を取り出しています。日本、米国、欧州が中心です。 https://iodp.org/ 日本はJAMSTEC(海洋研究機構)の深部掘削船「ちきゅう」…

9000万年前はCO2濃度2000ppm(現在の5倍弱)、地表平均気温は今より20℃高く34℃

地球表面の温度の年代による変化については、氷河の深い(=古い)試料だけでなく様々な地質学的試料で推定が行われています。ほとんどが同位体比を利用するもののようです。詳細は調べる時間がないので来週に回します。結果は例えば下記の論文に出ています(購読しないと中身が読めない)。1億年くらい前までは推定ができるようです。 https://www.science.org/doi/10.1126/science.aay3701 それによると、CO2濃度は1億年前はずっと高く2000ppmくらい(現在の5倍)、地表の平均気温は30℃を超えていたと推測されています。グラフから見ると、最高温度は9000万年前の3…