世界の研究所:Cambridge Univ. Library’s Cultural Heritage Imaging Laboratory

先週気になったニュースは、英国ケンブリッジ大学図書館のチーム(Cambrige Univ. Libarary’s Cultural Heritage Imaging Library) が2019年に発見された13世紀のアーサー王物語(the legend of King Arthur)の写本のテキストの復元に成功したというものです。 https://www.cam.ac.uk/stories/merlin-manuscript-discovered-cambridge 羊皮紙に書かれていて、荘園の税務記録の表紙に使われていたそうです。テキストの復元にはX線CTで折りたたまれ綴じられ…

The Consciousness Instinct(9):第8章 生命と非生命の間

金曜日の読書 ”The Consciousness Instinct:…” は第8章です。第7章で量子力学の解説が出てきたので怪しい議論に行くのではないかと危惧しましたが、杞憂でした。John von Neumannによる量子力学の観測論とコンピュータのオートマトン(自動機械)と生命や進化を組み合わせた議論と、そのアイデアを発展させたHoward Pattee(1926年生まれで存命です)の考えに基づき解説しています。突っ込みどころはありそうですが本質をついている感じがします。論理の流れを追ってみます。 (1)量子力学には「シュレディンガーの猫」で例示されるような、量…

レーザーによる原子核励起の実験には3年かかった

レーザーによる原子核の励起については最近精密な実験が行われるようになっています。 https://newsroom.ucla.edu/releases/nuclear-spectroscopy-breakthrough-could-rewrite-fundamental-constants-of-nature https://www.youtube.com/watch?v=km3orSzbqHo 論文本文は所属機関または個人が購読しないと読めません。 https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.133.013201 トリウ…

レーザーと放射性物質に関する研究の方向

レーザーと放射性物質に関する研究は、下記解説にあるように2つの方向があります。 https://www.polytechnique-insights.com/en/columns/science/cleaning-up-nuclear-waste-with-super-powered-lasers/  一つは、加速器(蓄積リング)のGeVエネルギーの電子に強いパルスレーザーを当ててガンマ線を発生させ、重い原子核にあてて中性子をはじき出す核反応を起こして原子核変換を狙うものです。これは昔からの夢である錬金術と言えるでしょう。エネルギーが潤沢に使えるようになった暁には半減期が長い原子炉廃棄物などの…

レーザーによる遠隔放射能検出のしくみ

昨日紹介したニュースの元の論文は下記ですが、購読していないと読むことができません。 https://journals.aps.org/prapplied/pdf/10.1103/PhysRevApplied.23.034004 空気中のO2に放射能由来の電子がくっついてO2-(陰イオン)となり、それがCO2レーザーの強い電場で電子を放出し、その電子が加速されて中性分子に衝突することにより周りをイオン化して雪崩的にmicroplasmaを作り、光を散乱するという仕組みです。9.2μmのCO2レーザーの光では光子のエネルギーが低いため、N2,O2,H2Oなど空気中の通常の分子から電子をはぎ取ること…

世界の研究所:Univ. of Maryland, Institute for Research in Electronics and Applied Physics (IREAP)

先週、CO2レーザーによって放射性物質を遠隔検出する技術についての論文が業界のニュースになりました。 https://physicsworld.com/a/co2-laser-enables-long-range-detection-of-radioactive-material/ 米国 Univ. of Maryland のInstitute for Research in Electronics and Applied Physics (IREAP)と核を扱う米国の国立研究所(Los Alamos, Brookheaven, Lawrence Livermore)の共同研究です。 http…

The Consciousness Instinct(8):第7章 量子論の導入

金曜日の読書 “The Consciousness Instinct:…” は今週から第III部に入り第7章です。次章以降での説明に使うのだと思いますが、ちりが光を散乱するチンダル現象のJohn Tyndallの「意識と脳の関係はわかっていない」という講演(1868年=明治元年)への言及から始まり、ボーアとアインシュタインの量子論に関する論争までの物理学の歴史をなぞっています。著者は統計力学や量子力学の必要なところはきちんと理解しているように見えます。日本の心理学者はどうでしょうか。Feynmannによる解説にも言及しています(おそらく https://w…

掛谷の針集合のハウスドルフ次元=3

3次元空間の掛谷の針集合のハウスドルフ次元が3であることを証明したという話題の論文をざっと見ましょう。 https://arxiv.org/pdf/2502.17655 私は本格的な数学の論文を読むのはほぼ初めてですが、面白い構成だと思いました。歴史的経緯や論文の目的を書いたintroductionの次に、以後の説明のための重要な用語の定義が書いてあって、それから証明の考え方(philosophy)、証明の概略、謝辞、証明本文、文献となっています。証明の概略までで10ぺージ余、証明本文が110ページ余、文献は31個しかなくて1ページで127ページです。3次元空間を扱っているためか、イメージを喚…

ルベーグ測度

私が大学1年生の時の数学の勉強はうんうん唸りながら教科書(「解析概論」など)を読んでいました。難しい本(「関数論」)は数人で輪講したり、時には予備校の先生がボランティア(少し払った気がしますが、格安)でチューターになってくれたりもしました。場所は喫茶店で、先生は確かクラスメートの高校の先輩だったと思います。地方から東京に出たばかりの学生としては、お江戸には信じられないような恵まれた環境があるものだなと驚いたことを覚えています。今はテレビ会議でいろいろできるので、空間を超えた寺子屋のようなものが作れると面白いですね。今回インターネットで検索していて数学の勉強の仕方もずっと効率的になっているのを痛…

ハウスドルフ次元

今回解決されたと言われている問題は、「掛谷予想の3次元版、すなわち、「n次元における掛谷の針集合のハウスドルフ次元がnである」という予想が、n=3のとき正しい」です。掛谷の針集合は昨日説明しました。針(線分)を自由に回転できるために必要な領域のことです。針を回転しようとしている次元が平面の場合n=2, 3次元空間の場合n=3です。昨日は、掛谷の針集合の面積が任意の正の値よりも小さい(通常の意味ではゼロですが、ゼロとは違うと言いたいようです)ことを述べました。掛谷予想は2次元の時はすでに証明されていて、今回はn=3が解決されたというニュースです。さて、ハウスドルフ次元というのが曲者です。 htt…