The Consciousness Instinct(1):目次と前文 意識を作っているしくみを解き明かしたい

年度末は負荷がかかるものですが、今年はいろいろ重なって久しぶりに体力を振り絞っている感じがあります。”The Consciousness Instinct: Unraveling the Mystery of How the Brain Makes the Mind” by Michael S. Gazzaniga, 2024”は昨年出た本で訳本がないためまとめるのに時間がかかりますが、頑張りましょう。今週は目次の紹介と前文(introduction)です。著者のGazzaniga教授はUniv. California, Santa Barbara (UCSB)でSAGE Center for…

脳オルガノイド研究の倫理

IPS細胞技術が扉を開いた分野の一つとして、organoid(日本語ではオルガノイド、英語は「オ」ーガノイド)があります。これは、ヒトの普通の細胞をリセットすることで胚細胞をつくり、目的の臓器への分化を促す分子を投与しながら培養することで、小さい臓器をつくるものです。 https://ruo.mbl.co.jp/organoid/overview/ 病気の原因の解明や新薬の効き方を見る実験などをヒトの臓器の生きた組織を使ってできるので非常に有効です。問題は、脳のオルガノイドを作る場合の倫理をどうするか、です。私の倫理観では、脳のオルガノイドはかなり「たましい」を持っている気がするので、あまりい…

自我は脳梁膨大後部皮質(retrosplenial cortex)に宿っている?

精神医学におけるAIを使った研究の成果はいろいろ出ていますが、解説付きの下記を見ましょう。 https://med.stanford.edu/news/all-news/2025/01/brain-cell–periodic-table–for-psychiatric-disorders-reveals-ne.html これは先週の話で、まだ雑誌のwebに論文があがっていないようですが解説で概略はわかります。32万人のゲノムを調べて統合失調症に関連する疑いがある287の遺伝子を特定しました。 解剖で得られた脳の105の領域からとられた337万個の細胞中でどの遺伝子が発現…

炭酸リチウムは精神疾患の薬

教師をしていると、行動に変調をきたす学生の対応が必要な場合があり、精神科医のサイトを参考にすることがあります。特に下記は、我々とは異質ですが極めて緻密で配慮に富む思考を知ることができてたいへん勉強になります。紹介されている著書も何冊か読みました。 https://kokoro.squares.net/ 「脳内の状態が○○病と同様になっていると考えられます」という記述が多く出てきます。その「状態」というのはよくわかっていないようですが、昨日紹介した「患者さんのDNAから小規模の神経ネットワークを作ってその代謝制御機構を調べる研究」でいずれ明らかになるだろうと思います。逆にこれまでそれがわからない…

世界の研究所:Pscychiatric Genomics Consortium

今週は、大規模な分子・遺伝子データの解析による精神医学の進展が見えてきているので、紹介したいと思います。各国いろいろなところに研究設備がありますが、論文を見る限り日本ではあまり活発ではないように見えます。 いくつか研究集団があり相互に協力しているようですが、一つはPscychiatric Genomics Consortium という団体が統括しているようです。36か国の800人以上の研究者が参画しているそうです。事務局は米国の Univ. North Calorinaにあるようです。 https://pgc.unc.edu/about-us/ youtubeの一般向けの解説があります。 ht…

Why Nations Fail (10):第13章~第15章(完) ジンバブエとボツワナの違いは

金曜日の読書 Why Nations Fail 今週は最後まで行ってしまいましょう。 第12章は、最近も続く収奪的制度のエピソードです。ジンバブエ、シエラレオネ、コロンビア、アルゼンチン、北朝鮮、ウズベキスタン、エジプトが取り上げられています。ジンバブエは2000年ころに経済破綻したことで有名ですが、大統領に逆らった中央銀行総裁が暗殺されたりした挙句、対策を怠ったためエイズがまん延し人口の1/4がり患して経済が回らなくなってしまいます。そのさなかに大統領が宝くじの一等に当選した(結果をいじったため)というエピソードが取り上げられています。他の国も似たようなもので独裁です。コロンビアには私は行っ…

「quantum battery」

結局どの雑誌の特集号を見ていたのか分からなくなってしまいましたが、調べていたらちょっと面白い理論研究を見つけました。”quantum battery”で、少しだけ流行っているようです。 https://doi.org/10.1038/s41534-025-00959-5 普通の化学電池は酸化状態と還元状態の間のエネルギーの差としてエネルギーを蓄えます。原子や分子1個以上の量子力学的な相関はありません。量子力学的につながっている系では蓄えたエネルギーよりも多くのエネルギーを取り出すことができる、という、熱力学の法則に反していそうな話が2013年ころに提案され、それから研究が始まっています。 ht…

量子もつれの初期の実験

どれを見ていたか忘れてしまった特集号ですが、これだったかな?という論文を取り上げてみましょう。 https://www.frontiersin.org/journals/quantum-science-and-technology/articles/10.3389/frqst.2024.1451239/full 孤立原子と光の相互作用から量子もつれをつくる最初期(1967年ころ)の実験を本人が解説しています。水素放電管を自作して光源にしたり、カルシウムを加熱して細いノズルから原子ビームを飛び出させたりした手作り装置で、励起状態から二段階で発光しながら落ちてくるときに発する2つの光子の偏光状態が…

米国の高校での量子力学課外授業

年度末でちょっとバタバタしていて、「量子力学100周年」どの雑誌の特集を見ていたのか忘れてしまいました。とりあえず無料で読める高校教師向けのAmerican Journal of Physicsの下記を見ましょう。 https://pubs.aip.org/aapt/ajp/article/93/1/88/3327088/Quantum-information-science-and-technology-high 20時間の授業+5時間のグループ発表準備=25時間の課外活動で、以下を行うというプログラムの報告です。10-12年生というので、高校1~3年ということでしょうか。ニューヨーク市で、…

世界の研究所:Werner Heisenberg Institute (Max Plank Societyの物理学研究所の別名)

今年は Werner Heisenberg が「行列力学」(シュレディンガー方程式と同等)を発明した1925年から100周年なので、雑誌でいくつか特集が組まれています。来年のシュレディンガー方程式100周年のほうが派手なイベントがあるかもしれません。量子力学の正しい計算法がわかったという意味では重要で、国連は今年を量子技術の記念の年にしているようです。今週は、American Institute of Physicsの100周年特集号から話題を拾っていこうと思います。 研究所としてはWerner Heisenbergが正式名称の研究所はないですが、ドイツの国立研究所であるMax Plank S…