五輪書(6) 火の巻1

金曜日の読書「五輪書」は「火の巻」の1回目です。この巻では、戦いの具体例を1対1の場合と、軍勢を率いる場合の両方について解説しています。宮本武蔵の寿命が尽きつつある段階で書かれたので、まとまりに欠けますが、戦いの心構えを言語化してあって、面白く参考になります。 今週は1対1の戦いについて紹介します。 1 「場の勝ち」 戦いの場を把握し、自分が有利に、相手が不利になるように動いていく。 2 「先(せん)を取る」 自分が仕掛ける、相手の攻撃を防衛する、両方から攻撃する、3つの場合があるがどちらもタイミングを見計らって相手よりも速く動いて「先」を取る。 3 「枕のおさえ」 相手が攻撃しようとする動作…

ハッカーと画家

今週紹介しているY Combinator社の創業者の一人はプログラマPaul Graham氏です。若い時に立ち上げた会社がYahooに買収され、億万長者になっています。 https://en.wikipedia.org/wiki/Paul_Graham_(programmer) 私とほぼ同世代であることに驚きました。古典的なプログラミング言語Lispの教科書はベストセラーになっています。また、下記の本「ハッカーと画家」もベストセラーで、面白いです。職業に関する考察も多いので(当然、ベンチャー企業の重要性を語っていますが)就活にも役立つかもしれません。 https://www.amazon.co…

日本の大学でのスタートアップ教育

日本の大学でもスタートアップ教育を行う試みはあり、軌道に乗ったスタートアップも複数あります。 https://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/activity/venture/techgarage.html https://cosmos.gfc.hokudai.ac.jp/hkd-startup-support https://startup.tohoku.ac.jp/ https://www8.cao.go.jp/cstp/openinnovation/ecosystem/hiroshima/2-2_5hirodai.pdf https://qrec.kyushu-u.ac.j…

評判を収益化するしくみ

我々大学の教師は屋台のラーメン屋さんと同じくらいの零細企業だというのは時々言っています。私がやりたい研究は別として、持っている技術やノウハウはスタートアップに親和性があると思います。大学のシステムとして製品を作って稼いだり貯金をしたりできないので、ラーメン屋さんと同じ(?)不安定性を抱えています。そのため、最近はスタートアップ企業を作っている教員も増えています。欧米では整っているそのあたりの仕組みが日本でもだいぶ整備されてきました。 さて、企業化に必要なのは経営が上手な人材です。Y combinator(YC)社はwebの1つのタブを使ってco-founder(共同創業者)のマッチングというの…

世界の研究所:スタートアップ インキュベータ Y Combinator

今週は、米国サンフランシスコにあるスタートアップ企業のインキュベータ Y Combinator から始めてスタートアップ関連を解説します。 https://www.ycombinator.com/ https://ja.wikipedia.org/wiki/Y%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%93%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%82%BF_(%E4%BC%81%E6%A5%AD) これは企業として存在しています。ちょっと変わった社名の由来は情報科学の不動点定理(以前紹介したHaskell Curryの定理)ではないかと思います。一人の有名なプログラマーが設立したそう…

五輪書(5) 水の巻2

金曜日の読書「五輪書」は「水の巻」の後半です。武蔵が多くの流派の免許皆伝者を長年指導した結果会得した剣術の技術と本質を言葉にしています。 面白い構えや技の名前があります。五方の構、五つのおもて、一拍子の打、二の越の打、無念無想の打(The strike of nonthought)、縁のあたり、石化のあたり、紅葉の打ち(The crimson leaves strike)、しうこうの身(The autumn monkey’s body)、漆膠の身(The body of laquer and paste)、たけくらべ(Comparing heights)、身のあたり(Banging…

臨界磁場、コヒーレント長、磁場侵入長

室温超伝導ができたら、超伝導電磁石に使えるかもしれません。精密検査で体の中を見るMRI(磁気共鳴イメージング)や分子の構造を解析するNMR(核磁気共鳴)などで強力な電磁石(>10T、Tは磁場の単位テスラ)が必要です。超伝導でない電線で電磁石を作ると、鉄芯の磁化が約2Tで飽和してしまうために、鉄芯を使って磁力を稼ぐことができません。 すなわち、コイルだけの空芯電磁石になりますが、大電流が必要で、電気抵抗による発熱のため冷却が大掛かりになってしまいます。電流をパルス的に与えるか、超伝導線でコイルを作るかということになります。パルス磁場ではMRIは行えないので、液体ヘリウムで冷却した超伝導体が…

確認済みの超高圧における高温超伝導(203K)、送電線の損失、超伝導送電

昨年は室温超伝導の虚報が2回も大きなニュースとして報じられました。1986年の銅酸化物高温超電導体発見直後はいろいろ虚報があり、USO(unidentified superconducting object)という造語も定着しましたが、最近はしばらくなかったことです。 それだけ期待が大きいのと、H2S系での超高圧超伝導(Tc=203K。これは各地で追試が成功している)があるので、それほど荒唐無稽ではなくなったということもあるでしょう。 https://www.nature.com/articles/nature14964 https://www.sankei.com/article/20160…

超高圧室温超伝導の研究不正の経緯

昨日の室温超伝導の研究不正は https://www.nature.com/articles/d41586-024-00716-2 によると下記のような経過です。 ・4年前の論文では、学生たちが知らないデータが載った原稿が教員から朝早く送られ、その日のうちに投稿された。温度を下げると室温付近で抵抗がゼロになったデータについて学生から質問されると、「ロチェスター大学に赴任する前に測定した」と答えた。  マイスナー効果を示せ、というコメントが寄せられ、そのデータを追加した。  2年たって生データの数値が公開されたが、他の研究者からそのデータの縦軸が等間隔になっていることが指摘され、著者に照会があっ…

世界の研究所:室温超伝導の研究不正の舞台となったロチェスター大学機械工学科

昨年夏、室温超伝導のニュースがありましたが、いろいろな疑義により論文にならないまま否定されつつあります。その他にも高圧下での室温超伝導の報告が4年前と1年前になされ、私も授業の超伝導の回に紹介していましたが、論文は撤回されました。今月、本件は研究不正として雑誌の調査チームから詳細なレポートが出ました。 https://www.nature.com/articles/d41586-024-00716-2 舞台は米国のUniversity of Rochesterの機械工学科です。この大学は卒業生や教員からノーベル賞受賞者13人を出している東海岸の名門私立大学で、経済学(ノーベル賞3人)、レーザー…