クライオ電顕のノーベル賞受賞者の寄与

クライオ電顕(Cryo-EM)の解説動画は下記がわかりやすいです。 https://www.youtube.com/watch?v=6G550DfY75Q https://www.youtube.com/watch?v=026rzTXb1zw 電顕でタンパク質を見ようと思い立ち、15年(1975-1990)頑張って筋道をつけたのがイギリスのProf. Richard Hendersonで、タンパク質を低温にすれば電子線で破壊されないことを示しました。 急速に水溶液を冷やすことによって氷の結晶が邪魔しないようにする(アモルファスにする)方法を開発した(液体窒素で冷やしたエタンに突っ込む)のが昨日…

世界の研究所 European Molecular Biology Laboratory

先週末は、結晶学の学会に行ってきました。立場上そういう役回りなのだと思いますが、最近は招待されると仕事が一緒についてくるので気力と体力を消耗します。 結晶学というのは物質中の原子位置を決定する体系で「空間群」「位相問題とその解決法」など基本的概念は50年以上前に確立していますが、最近は電子顕微鏡や放射光の発展と情報科学(いわゆるAIやデータサイエンス)の進歩で、結晶を作らなくても原子の位置がわかるようになっています。装置面での著しい進展に驚きました。 今週の世界の研究所は、装置が市販されるようになり急速に普及しているcryo electron microscope(クライオ電子顕微鏡)を用いた…

西行(9) 小夜の中山

金曜日に読んでいる西行(さいぎょう)の解説書はあと2~3回で終わります。 69才の時(1186)、平清盛に破壊された東大寺の再建のための勧進(募金)のために東北の奥州藤原氏のところに向かう旅をします。この旅において有名な和歌とエピソードが残されています。 途中で静岡県掛川市の難所「小夜の中山」を通過するときに有名な和歌2つを詠んでいます。 (詞書) あづまの方へ相知りたる人のもとへまかりけるに、さやの中山見しことの昔になりたるける思ひ出でられて 年たけてまた越ゆべしと思いきや 命なりけり小夜の中山 Little did I guess / I’d ever pass so many years…

金属ナノ粒子の光物性と触媒作用

半導体の量子ドット以外にも、物質を微粒子化するとユニークな性質が現れます。たとえば、金をガラスに混ぜると赤いきれいなガラスができることは初期の錬金術師(遅くとも900年ころ)が見つけていますが、金はナノメートルサイズの微粒子としてガラスに混じっています。 下記はガラスメーカーのダウコーニングの博物館のサイトです。 https://www.cmog.org/article/gold-ruby-glass この色は、金属中の自由電子が光によって揺さぶられて動くときにできる「プラズモン」による光吸収です。吸収波長は自由電子密度と形状で決まります。通常の金属では光の波長とプラズモンの波長が合わないため…

量子ドットの高密度励起

量子ドットの性質として、光励起が高密度に行われた場合に特異な現象が起こることがあります。 一つは励起子分子や励起子液滴と呼ばれる励起状態の集合体です。半導体では光励起状態は、価電子帯にできた正孔と伝導帯にできた電子がクーロン力(静電気力)で緩く結合してエネルギーが少し下がった状態「励起子exciton エキシトン、エクサイトン」を作りますが、高密度に生成すると集合体を作って特異な性質を示します。半導体量子ドットでは作られた励起子が拡散していくことができずに無理やり密集します。これによって光の屈折率などの光学的性質が変わるので、光で光を制御する光演算機などが作れると考えられています。量子コンピュ…

半導体量子ドット

半導体量子ドットは1桁ナノメートルから数十ナノメートルの大きさをもつ、GaAs,InP,ZnSなどのコロイド粒子です。量子ドットのディスプレイへの応用については下記がよくまとまっています。 wikipediaには、同じ物質なのに大きさを変えると色が変わっているきれいな写真が載っています。 https://en.wikipedia.org/wiki/Quantum_dot_display 上記はちょっと情報が古いですが、市場に出ているディスプレイの現状は下記です。まだ量子ドットを電流で発光させる技術は量産になっていませんね。 https://softdesigny.com/qled-oled#i…

世界の研究所 英国ベンチャー Nanoco Technologies plc.

今週の世界の研究所は、英国のUniv. Manchester 発ベンチャー Nanoco Technologies plc.をとりあげます。2001年設立です。 https://www.nanocotechnologies.com/about/history/ ここは、今年のノーベル化学賞になった量子ドットの工業生産法を開発してビジネスにしています。特にカドミウムが入っていないものを作っています。 ここの人もノーベル賞候補かな、と思っていましたが2018年に亡くなっていました。 https://news.liverpool.ac.uk/2018/10/22/obituary-professor…

西行(8) 鴫立沢

金曜日の読書の西行(さいぎょう)の解説書は晩年に差し掛かります。本文は来週にして、今週は本の後半の和歌の翻訳で秋に関するものを選んでみます。 秋、ものへまかりける道にて こころなき 身にも哀(あは)れは 知られけり 鴫立沢(しぎたつさわ)の 秋の夕暮れ  (これは傑作として古来評価が高く、「三夕(さんせき)の歌」の一つとして知られています) I thought I was free / of passions, so this melancholy comes as a surprise: / a woodcock shoots up from marsh where autumn&rsquo…

暗号通貨取引所のための安全保障マニュアル

RUISのレポートで暗号通貨に関するものが面白かったので紹介します(pdf注意)。 https://ik.imagekit.io/po8th4g4eqj/prod/institutional-vasps-and-var-assessment-guide-2.pdf マネーロンダリング等や国家間の制裁逃れに使われるのを避けるにはどうするかという仮想通貨業者向けのマニュアルです。 ・住所、氏名、会社ならビジネスの内容、暗号通貨使用の目的、個人ならどうやって原資を手に入れたか(給料から貯めたのか、もらったのか、など)を届け出させる。 ・その人や会社に関する悪いニュースなど情報を精査する(有料サービス…

車のサイバーセキュリティ

今日はRUSIのサイバーセキュリティに関する論説を読みましょう。電気自動車はコンピュータ化されているのでサイバーセキュリティが重要になる、という論説です。緊急停止機能(a Big Red Button)がハッキングされるのも問題だが、むしろ大量のセンサー(カメラやマイクを含む)から知らない間に個人情報を抜かれるほうが怖くないか、と述べています。エネルギーインフラのハッキングは例があるようですね。そういえばイランの核物質濃縮設備もハッキング(というよりスパイが制御コンピュータに差し込んだUSBウィルス)で壊されたと聞いたことがあります。 https://ja.wikipedia.org/wiki…