サイクロン式掃除機の方程式

今年は学科の世話役(担任のようなもの)なので、年度末になると突発的な用事がいろいろ入って夜中まで時間がとれません。「今日の英語」の解析が浅くなるのが残念です。 さて、dysonの掃除機はサイクロン式の代名詞ですが、サイクロン式の粉塵分離装置は1886年にMorseという人によって発明されています。下記がおそらく対応する特許です。 https://patents.google.com/patent/US979987A サイクロン集塵機の理屈はwikipediaに出ています。 https://en.wikipedia.org/wiki/Cyclonic_separation これを見るとサイクロン…

水の粘性は温度に依存し、10℃は40℃の2倍

高速気流を考える前に粘性について復習しましょう。粘性(粘度ともいう)単位はPa・sです。物体が流体中で動いたときに速度に比例した力が働きますが、その比例定数です。 https://d-engineer.com/fluid/nendo.html 日本ではポアズ(ポイズとも。人名 Jean Poiseuille[1797-1869] の前半分。記号P)という単位をみることが多いです。 1Pa・s=10Pです。0.01 P=1 cP(センチポアズ)もよく使います。20℃の水の粘性が1cPです。面白いのは、水の粘性が温度にかなり依存することです。 https://mterm-pro.com/visco…

世界の研究所:Dyson Limited

今週の世界の研究所は、英国で始まった掃除機メーカーDyson Limited をとりあげます。研究所は英国、マレーシア、シンガポールにあります。同社は、1991年に設立された元ベンチャーですが、現在は世界的企業で2019年にシンガポールに本社を移転しました。いま私は流体力学のシミュレーションソフトと格闘していますが、職業柄すぐ教え方を考えてしまいます。おそらくサイクロン掃除機の気流の作り方や先端のノズルの形状、羽のない扇風機など、暗算だけでは定量的に説明できない仕組みがあり、シミュレーションを通して明らかにするのが学習者の意欲を生みそうに思います。 今週は創業者のJames Dysonの自伝(…

知的創造企業(6) 現場も見るグループリーダー集団が知的創造の立役者

金曜日の「知識創造企業」、第4章はパナソニックを例にとった知の創造のスパイラルの実例です。パン焼き器→高級炊飯器→高級平面テレビなど1990年代によく売れた製品のコンセプトとその開発過程を説明しています。が、現時点からみるとその後海外の追撃を受けた複雑な経緯があるので本文に沿った解説が難しいです。  今週は第5章を解説します。5章は、知の創造を活発化させるための組織形態を論じていて、トップダウン、ボトムアップよりも良い方法として middle-up-down management を提案しています。トップダウンの例としてGEのジャック・ウェルチ(Jack Welch), ボトムアップの例として…

白血球と警官の割合の比較

年頭にあたり、2024年が皆様にとって素晴らしい年になるようにお祈りいたします。 昨年末は病原体に対する免疫応答の話で終わっていました。今日はその続きで、免疫に関与する細胞たちが頑張っているという話をしましょう。 下記動画は先週出た論文の紹介で、T細胞(リンパ球の一種)が組織をパトロールしている画像です。 https://twitter.com/i/status/1742055657774162315 この論文は、従来は感染された細胞が出す低分子を探して動いていると考えられていましたが、それだけではなく細胞の変形による力を感じて動いていることがわかったとのこと。感染細胞は変形したり硬さが変わっ…

風邪の症状は上気道の感染に対する免疫の反応だからウィルスが違っても似ている

白血球の仲間のマクロファージが病原体を見つけると免疫反応が始まり、その最初が炎症を起こすサイトカインの放出でした。だるくなったり痛くなったり熱が出たりすのは病原体の直接の影響ではなく、免疫反応なので、200種類ものウィルスがほぼ同じ風邪の症状を起こすのが納得できます。 くしゃみと咳は異物を外に出すための動作ですが、病原体をまき散らす効果もあり、人間側と病原体側のどちらに役に立っているかは疑問ですね。最近は寄生体が宿主を操作する例が見つかっているので、その一種かもしれません。 他の応答は、頭痛、だるさ、関節痛など、人間の行動を抑制して安静にする方向です。休めないで動き回っていると風邪が治りにくい…

風邪のウィルスは200種類、その中も多くの株に分かれているので抗ウィルス薬は絶望的

風邪に関する論文を検索すると下記が出てきました。The Lancetは臨床医学で一番権威ある雑誌と聞いています。この著者は同じ題材で、より新しいいろいろな医学事典に書いているようなので、第一人者なのでしょう。 https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(05)70270-X/fulltext この論文によると、 ・風邪の症状を起こすウィルスは200種類以上ある ・ライノウィルスは風邪の30-50%を占める。ライノウィルスには100種類以上の株があるので抗ウィルス薬を開発するのは絶望的。 ・インフルエンザのみ早期…

世界の研究所: European Virus Archive

久しぶりに風邪をひいてしまいました。熱はないのですが声が出ません。今週は、風邪についてどこまでわかっているか調べてみたいと思います。まずは、ウィルスのアーカイブの紹介からです。 https://www.european-virus-archive.com/ は、欧州のウィルス研究のネットワークのようですが、https://www.european-virus-archive.com/evag-portal には500Euro、3500Euroなど値段がついています。これはお金を払えば本物を郵送してくれるということでしょうか。もちろんヒトに病原性がないものと思いますが、ちょっと嫌な感じですね。ウ…

知識創造企業(5) 暗黙知を形式知に変えるシステムづくり

金曜日の「知識創造企業」5回目は3章後半です。前半に説明された4段階のスパイラル (1)暗黙知の共同化 (2) 暗黙知から形式知への表出 (3) 形式知の連結 (4) 形式知の内面化により個々人の暗黙知へ をどのように組織として実現するか、という問題への解答です。 組織として知識創造を意図すること、自治、多彩なバックグラウンドの人を集めたチーム、揺らぎと創造的混沌、重複、必須多様性、 だそうです。最後の必須多様性(requisite variety)は、本書には書いていないですが、アシュビーの法則「複雑な環境に対応するには同じくらい複雑なシステムが必要である」というのがあります。 数学的証明は…

52番元素 テルル

Telluride村の名前の由来は、gold telluride (AuTe2)という金の鉱物でした。金や銀など11属元素は16族元素(カルコゲン chalcogenという。硫黄、セレン、テルル)と親和性が高く、化合物を作ります。 銀器は大気中で黒ずんできますが、これは大気中の硫黄を含む分子と化合して表面にAg2Sができるためです。なぜ親和性が高いかについてはいろいろな説明ができます。一つは電気陰性度からで、Cu1.9,Ag1.9,Au2.4,S2.5,Se2.4,Te2.1とよく似ていることから説明されます。無機化学におけるケテラーの三角形 https://solid-mater.com/e…