今週の世界の研究所は、英国で始まった掃除機メーカーDyson Limited をとりあげます。研究所は英国、マレーシア、シンガポールにあります。同社は、1991年に設立された元ベンチャーですが、現在は世界的企業で2019年にシンガポールに本社を移転しました。いま私は流体力学のシミュレーションソフトと格闘していますが、職業柄すぐ教え方を考えてしまいます。おそらくサイクロン掃除機の気流の作り方や先端のノズルの形状、羽のない扇風機など、暗算だけでは定量的に説明できない仕組みがあり、シミュレーションを通して明らかにするのが学習者の意欲を生みそうに思います。
今週は創業者のJames Dysonの自伝(Invention: A Life of Learning through Falure, by James Dyson, 2021) を読みながら、高速気流の流体力学の特徴を見ていきたいと思います。自伝は同社の日本法人のwebに抜粋がのっています。
https://www.dyson.co.jp/jamesdyson.aspx
ちょっとwikipedia等を調べただけでもいろいろ面白いことがわかります(英語版のほうが圧倒的に詳しい)。
・Dysonの最初の商品化は日本の商社がライセンス料を払って販売することで行われた(1983年)
・サイクロン掃除機の特許は米国で1886年にとられている。Dysonはその実用化に4年をかけ、5000個以上の試作品を作ってようやく成功した。
・羽根のない扇風機(Air Multiplier)の特許は東芝が1981年にとっていて、Dysonはその特許が切れたあとで独自に製品として開発した(2009年発売)。
James Dysonは若いときは工業デザイナーとしての教育を受けています(王立芸大)。基本的なアイデアがあるが実物がない発明をとりあげて、優れたデザインの実用品を仕上げる力が優れているのではないかと思います。
英語は 上記自伝から。
“Folklore depicts invention as a flash of brilliance. That eureka moment! But it rarely is, I’m afraid. It is more about failure than ultimate success.”
folklore フォークろア 民話
eureka ユーレカ (アルキメデスの言葉。わかったぞ!)
“I am also someone who is prepared to slog through prototype after prototype searching for the breakthrough.”
slog 長期間頑張る
“Ours, though, has been neither a quick nor cheap approach. Investment in new technologies requires many leaps of faith and huge financial commitment over long periods.
En route, there are multiple failures, sleepless nights, a great deal of frustration and just a few real breakthroughs. Our has been more of a pilgrim’s progress than a straight path to success.”
leaps of faith 信仰の飛躍、えいや!と目をつぶって信じること
en route アンルート(フランス語) 道中
frustration 欲求不満、鬱屈
pilgrim 「ピ」るグリム 巡礼
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