金曜日の「知識創造企業」、第4章はパナソニックを例にとった知の創造のスパイラルの実例です。パン焼き器→高級炊飯器→高級平面テレビなど1990年代によく売れた製品のコンセプトとその開発過程を説明しています。が、現時点からみるとその後海外の追撃を受けた複雑な経緯があるので本文に沿った解説が難しいです。
今週は第5章を解説します。5章は、知の創造を活発化させるための組織形態を論じていて、トップダウン、ボトムアップよりも良い方法として middle-up-down management を提案しています。トップダウンの例としてGEのジャック・ウェルチ(Jack Welch), ボトムアップの例として、自由な個人の発明を応援する文化のある3M(スリーエム)が取り上げられています。ジャック・ウエルチは業界で1位か2位にならない事業を切り離して売却したり、医療部門を買収により強化したりしたことで知られています。3Mは個人が会社の黙認の下開発したスコッチテープやポストイットで有名ですが、その文化はもともと鉱山の会社として発祥したのに高品位の鉱石が出ず発明品でしのごうとしたとのことです。
middle-up-down managementの例としてはキヤノンのコピー機の例があげられています。現在のカートリッジ交換式を発明して小型コピー機を個人で使えるようにしたのは1979-82年のキヤノンによる開発だそうです。
middle-up-down managementを実現するためには、top manager(社長、役員など)は大きなコンセプトを示し組織をサポートするknowledge officer, middle manager(中間管理職)はグループリーダーとして第一線のメンバーの暗黙知を掬い取り知識として獲得するknowledge engineer, 第一線の現場社員と中間管理職は実際の開発に苦心しながら暗黙知を獲得するknowledge practitionerとなるのがよい、と書かれています。このスタイルの組織はグループリーダーと現場社員からなるチームがプロジェクトごとに集められ、トップマネージメントによりサポートされる形態の3段の組織になりますね。確かに、多段の官僚組織を廃し、かつ個人プレーを超えた組織的な発明をしたければこのスタイルで行うべきでしょう。キヤノンの個人用コピー機には300件以上の特許が使われているそうです。
大学の研究室もこの形態に近いと言えるでしょう。大学では共同研究はリーダー同士の個人的な連携によりますが、国(JSTなど)のプロジェクトの中には積極的にチーム間の共同研究を促す仕組みが入っているものもあります。この本を参考にしたのかもしれません。
英語は本文から拾ってみます。
knowledge practitioner 知識実践者
knowledge engineer 知識技術者
knowledge officer 知識管理者(?)
“In the case of the top own model, there is a danger of the alignment of the fate of a few top managers with the fate of the firm. In the case of the bottom-up model, the preeminence and autonomy given to an individual make knowledge creation much more time-consuming, since the pace with which creation takes place is dependent on the patience and talent of the particular individual.”
alignment ア「ら」インメント 整列、一列にそろうこと
fate 運命
firm 会社
the pace with which the creation takes place 創造が起こる速度 with which や by which は硬い表現ですが、狙って使うと文章が締まると思います。
“As strange as this term (middle-up-down) may sound, it best communicates the continuous iterative process by which knowledge is created.”
この用語は変に聞こえるかもしれないが、知識創造が行われる連続的反復プロセスを最も良く伝えている。
“(1950年代、3Mの社長にインタビューして組織図に関して尋ねるとはぐらかされるので) Finally, in growing exasperation, the reporter interjected, “From you reluctance to talk about or show me an organization chart, may I assume you don’t even have one?”
exasperation エグザスペレイション 激高、憤激 level 14
interject 不意にさしはさむ level 17
organizational chart 組織図
“There are some great people here who might get upset if they find out who their bosses are.”
get upset 怒る、怒り狂う
“As befits a company that was founded on a mistake, 3M has prided itself on having continued to accept failure as a normal part of running a business.”
befit ベ「フィ」ット ふさわしい level 17
間違いで設立された会社にふさわしく、3Mは失敗を通常の業務の一部として許容することに誇りを持っている
※この本の論調はGMのWelchのトップダウン式に厳しく、3Mの個人開発の企業文化(ボトムアップ)を賞賛しています。その発展形として、グループリーダーに率いられたチームの集合体による組織的知的創造(日本でよく見られる形態)をとらえています。