2022のノーベル化学賞は”about snapping molecules together” に与えられました。click chemistry(クリックケミストリー)は、複雑な分子に特定の官能基をつけておき、その反応だけが確実に起こることを利用して、副産物無しに狙った分子だけを共有結合で結合させる概念で、いずれ受賞するだろうと言われていました。Meldal教授が最初の汎用的な反応を発見し、Sharpless教授が体系化しました。Sharpless教授は2001年に野依教授と一緒にすでに受賞しているため、2回目受賞があるかどうか、という話題がありましたが、今回受賞しました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B1%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC
生体への応用が受賞理由に取り上げられていたのは興味深いですが、調べてみると創薬等への応用が広がっていました。原料となる分子(例:人工的に合成したアジド(N3)のついた糖)を細胞に取り込ませ、生物内で反応させて細胞膜につけ、それからクリックケミストリーで別の分子をくっつけるなど、芸術的で応用も広そうです。下記は細胞膜中の特定の分子に蛍光色素をくっつけています。非常に簡潔な論文ですが、今回の受賞概念の分かりやすい例になっています。
https://www.science.org/doi/10.1126/science.287.5460.2007
上記論文の反応はStaudinger-Bertozzi反応という名前がついています。著者のBertozzi教授も今回受賞しました。
https://www.chem-station.com/odos/2009/06/staudinger.html
英語は上記論文から。
snap together 噛みあってくっつく
elucidate エ「る」スィデイト 解明する
ligation らイゲーション 結紮(けっさつ)、連結、化学結合でくっつける
metabolism 代謝 「メタボ」です
augment オーグ「メ」ント 拡張する
HeLa cell ヒーラ細胞 (実験用に売っている、増やしやすい人間の細胞。もとは人の乳がん細胞)
Jurkat cell ジュルカット細胞 (実験用に売っている、T細胞白血病のリンパ細胞。これも人由来です)
predominant pathway 支配的な経路
biotin ビオチン https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%AA%E3%83%81%E3%83%B3
ビタミンB7。アビジンとの親和性を利用していろいろな実験に使います。細菌が使っているとのこと。
avidin アビジン https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%B3
生の卵白中にあるビオチンと強く結合するタンパク質。細菌の成長を阻害する役割というのは知りませんでした。