プランク探査機搭載の冷凍機

Planck探査機はもう役目を終えましたが、2.726Kの黒体輻射に相当するマイクロ波を角度分解して強度分布を測定し、揺らぎの大きさを調べるのがミッションでした。このようなマイクロ波は、それより高い温度の物体からは大量に放出されますから、検出器はより低い温度に置かなければなりません。ヘリウムの同位体を使った冷凍機が必要です。 使用された多段式冷凍機の解説記事は下記です。 https://www.esa.int/Enabling_Support/Space_Engineering_Technology/Planck_s_cooling_chain 太陽電池と制御システムが入っている高温側と、検出…

宇宙背景輻射と宇宙の年齢

宇宙背景輻射をいろいろな方向で詳細に観測すると宇宙の年齢がわかる、というのは不思議な気がします。下記が解説です。 https://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1996/pdf/19960805c.pdf https://astro-dic.jp/cosmic-microwave-background-radiation/ nasaの解説は画像があって分解能向上がはっきりわかります(これらの画像はモデル図ではなくて実物だと思いますが…?) https://www.nasa.gov/mission_pages/planck/multimedia/pia168…

世界の研究所:ウィルキンソン探査機とプランク探査機

先週金曜日に宇宙の寿命の話をしました。現在はビッグバン以来138億年ということになっています。そのデータを取ったのが米国のウィルキンソン探査機(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe, WMAP)と欧州宇宙機構のプランク探査機(Planck Surveyor)です。 https://ja.wikipedia.org/wiki/WMAP https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AF_(%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E8%A1%9B%E6%98%9F) WMAPは打ち上…

The Door into Summer (10) 宇宙の寿命

金曜日は「夏への扉」を読みながら「時間」について考えることにしています。毎日暑いので、宇宙の寿命について考えると涼しくなるでしょうか。宇宙の将来についてはいくつか説があるようです。 収縮してbig bangの状態に戻る big crunch https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%83%83%E3%82%B0%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%81 big bang の状態の手前で反転膨張に転じる big bounce https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%83%83%…

レニウムの用途

レニウムの用途は主に合金です(単体は希少ゆえ高価)。単体の融点が3185℃と非常に高いので、高温材料に向いています。例えばNi基の単結晶タービンブレードに添加してナノレベルで規則構造を作り、疲労により粒界が成長するのを防ぎます。W-Re合金は酸化しない環境下で高温の熱電対に使われることもあります。各種電子源のフィラメントにも入っています。周期表の第6周期になると原子核の電荷が大きいので内殻電子の軌道が小さく押し込められるので速度が速くなり、特殊相対性理論の効果(質量が増える)が強く現れます。そのため、価電子のエネルギーも深くなって化学的な反応性が減少したり、逆に特殊な触媒活性が現れたりします。…

核分裂と三人の女性科学者

レニウムの発見者とされているドイツのグループを調べていたら、Prof. Ida Noddack(Tacke)という女性研究者の貢献があることを知りました。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BB%E3%83%8E%E3%83%80%E3%83%83%E3%82%AF この人は原子核への中性子照射実験の生成物の議論で核分裂の可能性を初めて指摘したことでも知られています。レニウムは故郷のライン川からとっているそうです。 核分裂といえば、Prof. Lise MeitnerとProf. Otto Hahnが…

幻のニッポニウム

レニウムといえば、幻のニッポニウムの話を避けて通れません。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%83%E3%83%9D%E3%83%8B%E3%82%A6%E3%83%A0 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%8B%E3%82%A6%E3%83%A0 明治40年(1908)小川正孝博士は英国のW. Ramsayの下に留学してスリランカの鉱物から化学的にレニウムの単離に成功しました。昔ですから、新スペクトルを示す塩を単離、沈殿の質量を測定し、金属の価数を仮定して原子量を算出するという地…

世界の研究所: Inst. of Volcanology & Geodynamic ANSRF, Russian Academy of Science

先週はダイヤモンドアンビルセル(diamond anvil cell)を使った放射光実験で、ガスケットとして使用する元素レニウム(rhenium, Re)の板をいじっていました。今週の世界の研究所は、レニウムの鉱物であるReS2を1994年に発見した樺太のユジノサハリンスク(豊原)にある Inst. of Volcanology & Geodynamic ANSRF, Russian Academy of Science をとりあげます。wikipediaにも載っていない小さな研究所だと思います。研究所のwebも見つかりません。が、ここの研究者(とInstitute of Experi…

The Door into Summer(9) サスペンスとヘタウマ

金曜日は「夏への扉」を読みながら「時間」について考えていますが、今週は余力がないので第8章の解説にとどめます。第8章は3つの動きがあり、一つは冬眠前に猫好きの少女リッキーに郵送した、乗っ取られた自社の株券の行方、もう一つは現代で使われている自動ロボットや自動製図機の特許を取り寄せたところ、全く覚えていないのに自分の名前で特許が成立していたこと、一つはタイムマシンの登場です。この話のタイムマシンはエジンバラ大学(コロラド山中の米軍の研究所に招聘)の偏屈なトゥイッチェル(Twitchell)教授により発明されました。このタイムマシンの面白いところは、2つのほぼ同じ質量の物体(生物でもよい)を一つは…

シロアリの女王と王ではテロメラーゼが働いている

女王アリが最長の長寿が確認された昆虫であるという話を先週しました。テロメアがどうなっているか気になります。 下記論文が2年前に出ています。これはシロアリです。 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8059557/ telomerase (昨日はテロメア―ゼと書きましたが日本語はテロメラーゼのようです)が活性化しているとのことです。 シロアリは、雌だけでなく雄も「王アリ」として参加します。これは、アリに比べて病原体が多い劣悪な環境にいるので、働きアリが生まれるまでに1匹ではなく2匹でお互いのサポート(きれいにする?)が必要だから、という説があ…