混合のエントロピー変化

一昨日にノーベル経済学賞が発表されました。解説を、と思ったのですが、所得の性差に関する統計的な研究を最初にまとめたHarvardの教授で、男女格差解消のきっかけになったという業績のようです。数理的な要素が無いので、このくらいにしましょう。 さて、昨日は1kgのCO2を4%から90%に濃縮するのに3MJのエネルギー(電気ストーブを1時間焚くエネルギー)が必要という話でした。これが理論的な最大効率とどのくらい離れているかを検討したいと思います。 こういう時は化学工学の文脈では「エクセルギー」というのが出てきます。 https://www.kobelco.co.jp/technology-revie…

石炭火力発電所の二酸化炭素回収実用プラント

二酸化炭素分離プロジェクトで有名なものにBoundary Dam Carbon Capture Projectがあります。カナダのサスカチュワン州の電力会社SaskPowerが2014年から手掛けています。 https://www.saskpower.com/Our-Power-Future/Infrastructure-Projects/Carbon-Capture-and-Storage/Boundary-Dam-Carbon-Capture-Project これは、石炭火力発電所からのCO2を回収するプラントで、石油メジャーのShellが開発したCansolveという回収システムを使って…

世界の研究所 Global CCS Institute (メルボルン)

先週はノーベル賞の合間にCO2回収技術について解説を始めていました。今週はその続きで、世界の研究所はGlobal CCS Instituteを取り上げます。これはオーストラリアのメルボルンに本部があり、Washington DC(米国)、London(英国)、Brussels(ベルギー)、北京、東京に事務所がある40人の組織です。日本は環境省の幹部が入っているので、政府が関与しているようです。ここが出している二酸化炭素分離貯蔵(carbon dioxide capture and storage, CCS)に関する下記レポート(pdf注意)はあちこちで引用されています。 https://www…

西行(6) 讃岐への旅

金曜日の読書の西行の解説書、今回は西行51才の時の四国への旅(1167)です。四国に行ったのは、讃岐に流されて4年前に亡くなった崇徳院と370年前に四国で育った空海(784-835)のゆかりの地を訪ねるためです。この旅で詠まれた名作がいくつかあります。 (詞書)讃岐に詣でて、松山の津という所に、院(崇徳院)おはしましけん御跡たづねけれど、かたもなかりければ。 松山の 波に流れて 来(こ)し舟の やがてむなしく なりにけるかな Having come to Sanuki, I was at a place called the Cove of Matsuyama. I looked around…

2023年ノーベル化学賞

2023年のノーベル化学賞は、量子ドット=化学的に合成した半導体ナノ粒子の先駆者に対して与えられました。現在、一部のテレビ(パソコンのモニタ)には量子ドットが蛍光色素として使われています。有機分子と違って壊れにくく、発色もナノ粒子の大きさを変えることによって量子サイズ効果で調節できるという利点があります。Bawendi教授が量子ドットを発表したころ、私は大学院生で長期インターンで米国にいました。たしかBawendi教授はこの仕事でMITの助教授に抜擢され、すぐ教授になったと記憶しています。そのころ開発された半導体レーザーをつくるためのMOCVD(metal organic chemical v…

2023年ノーベル物理学賞

2023年のノーベル物理学賞は attochemistry と呼ばれる分野の先駆的な実験に対して与えられました。やや専門的な、分かりやすい解説は下記です。atto秒(10の-18秒)の桁のパルスを作り計測する技術の開発に焦点があてられたようです。 https://www.optica-opn.org/home/newsroom/2023/october/attosecond_physics_pioneers_take_2023_nobel_prize/ atto は10^-18で、その上はfemtoですが、femtochemistryは1991年の化学賞です。attoだと物理学賞になるのは面白…

2023年ノーベル医学生理学賞

2023年のノーベル医学生理学賞は、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンの発明者に与えられました。これはコロナワクチンに使われたのでよく知られていますね。細胞内にmRNAがうまく入ると、対応したタンパク質が作られます。そのタンパク質が例えばコロナウィルスの表面突起のものだとすると、生体の免疫反応が誘起され、ウィルスの感染を初期に抑え込むことができるようになります。仕組みの詳細の解説は下記です(今回受賞の Weissman教授が著者)。 https://www.nature.com/articles/nrd.2017.243 mRNAワクチンの利点として、(1)安全性(病原性がなく、体内の半…

世界の研究所 大気CO2直接回収プラントの 1PointFive社

今週はノーベル賞の解説をするので題材が不規則になります。とりあえず、発表がない日と来週を混ぜて二酸化炭素の直接大気回収(Direct Air Capture: DAC)技術の現状について解説したいと思います。今週の世界の研究所は、最近日本の全日本空輸(ANA)と提携を結んだ米国の1PointFive社を取り上げます。ここは独立系石油会社 Occidental Petroleum社の子会社で、カナダのCarbon Engineering社と提携してDACプラントを建設しています。 https://www.1pointfive.com/ https://ja.wikipedia.org/wiki/…

西行(5) 保元の乱と平治の乱

金曜日の読書の西行の解説書、今回は保元の乱(1156)と平治の乱(1160)の解説とその前後の和歌の紹介です。保元の乱は、鳥羽上皇と崇徳院(鳥羽上皇の子供とされているが、鳥羽上皇の父の白河上皇の子とのうわさがあった)の不仲からきており、鳥羽上皇が崇徳院に権力を与えないように、またその子孫を天皇にしないように設定したため、鳥羽上皇の死の直後にクーデターを起こしたものです。その日のうちに制圧され、崇徳院は勝者である後白河天皇により四国の讃岐に配流されました。崇徳院は西行と親交のある歌人でしたが、8年後に死去し、日本三大怨霊の一人になったとされています(他は菅原道真と平将門)。平治の乱は、後白河上皇…

armとintelのCPUの演算性能/消費電力の比較

arm社のCPUは低消費電力で携帯電話で大きなシェアをとっていますが、どのくらい低消費電力なのでしょうか。2014年の記事には下記があります。 https://www.androidauthority.com/arms-secret-recipe-for-power-efficient-processing-409850/ ベンチマーク値としては、我々が計算に使っているintel core i9-13900KSが「61970」なのに対し、arm cortex-A72 16core 2200MHz が「5470」なので、11倍の性能差があります。 https://www.cpubenchmark…