2023年ノーベル物理学賞

2023年のノーベル物理学賞は attochemistry と呼ばれる分野の先駆的な実験に対して与えられました。やや専門的な、分かりやすい解説は下記です。atto秒(10の-18秒)の桁のパルスを作り計測する技術の開発に焦点があてられたようです。
https://www.optica-opn.org/home/newsroom/2023/october/attosecond_physics_pioneers_take_2023_nobel_prize/
atto は10^-18で、その上はfemtoですが、femtochemistryは1991年の化学賞です。attoだと物理学賞になるのは面白いですね。時間とエネルギーに関する不確定性原理があり、Δt・ΔE ~ hを計算するとわかりますが、Δt=10^-18秒を代入すると、ΔE~6×10^-34/10^-18=6×10^-16[J]=4000eVとなるので、エネルギーの不確定が化学で扱う1eVの桁を大幅に超えてしまいます。したがって、軌道間の遷移を選ぶのは難しくなるというのが私の理解です。100 as(attosecond)の桁なら数10eVなので、何とか化学的過程と関係づけられるかな、と思います。むしろ個人的には、アト秒以下の光学は原子核の中をいじる手法として発展する予感があります。原子核壊変に伴う放射線はkeVの桁のものもたくさんあるからです。
 上記解説によれば、強い光パルスを物質に当てて高次高調波をつくり(L’Huillier教授)、それをうまくパルス化します(Agostini教授が開発した、希ガスの2光子光電子放出過程を使った RABBIT technique、さらにKrauz教授が中空ファイバーを容器に使って短パルス化)。それに加えて多層膜鏡を使ってX線領域で波長選択をすることによりさらに短い20asのパルスを作ることに成功したのがkrauz教授、それを使って理論にあう正しい実験をしたのがL’Huillier教授とのことです。3グループが競争しながら分野を立ち上げていったことがわかります。ちなみに、多層膜鏡によるX線領域の波長選択は半導体のnmスケールの微細加工用の露光に使われており、ここから派生したものかもしれません。
 講義中にノーベル賞委員会から電話があって、受賞を知らされてからも授業をつづけた、というのは微笑ましいエピソードですね。学生は大騒ぎだったでしょう。

英語は、上記webから
“As the citation implies, the work of these three pioneers, and others, has fostered the creation of an entirely new discipline – attochemistry – with significant fundamental and practical implications.”
foster はぐくむ、養育する、育てる foster a child 子供を育てる
new discipline 新しい学派(ここでは、学問領域)
implications 含み、裏の意味、密接な関係。ここでは「基礎的応用的な波及効果」と訳したいところです。
“So the dream, the ‘holy grail’,” L’Huillier suggested, “is to be able to control this initial time for a molecular reaction. And if you can do that, maybe you can control some reactions and have more insight into the process.”
the holy grail 聖杯 (キリストが最後の晩餐に用いた酒盃)
“We have been working in this space for 30 years,” she said, “and only now you begin to have applications in sight … It takes time.”
have applications in sight 応用が見えるようになってきている

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