分岐点は10年前

半導体を作るための微細加工(リソグラフィ)は、シリコンウェファの上に感光樹脂(フォトレジスト)を塗って、設計した回路図を写しこむのですが、小さい構造には、波長の短い光源が必要です。ArFレーザー(波長193nm)などの紫外光源が作られましたが、その先は一足飛びにレーザープラズマ光源になりました。これは、物質に強いレーザーを当てて価電子を揺さぶることで高い励起状態を作るものです。その際、化学結合が切れ、電子も原子から切り離されるのでプラスのイオンと電子に分かれたプラズマが発生します。さらにそれらが光を吸収するので、非常に高温になり、高速電子の衝突等で内殻電子も励起されます。これがもとに戻る時に軟…

波長より小さいサイズを写す干渉露光

昨日のGDP per capita(一人あたりGDP)の続きを少し。GDP(Gross Domestic Product)には貿易外収支は入っていないようです。 https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/reference/balance_of_payments/term.htm http://www.meijigakuin.ac.jp/~kumakura/teaching/IE/IE_04.pdf (pdf注意) 貿易外収支はサービス(旅行など)と資本関係があります。日本は全体として約500兆円の対外純資産があり、外国にお金を貸してい…

演算装置の次の目標は省電力化

現在一人当たりGDP(GDP per capita)は、日本が30年間横ばいから減少だったのに対して台湾、韓国が30年で3倍に伸び、現在3か国はほぼ同じです。これは半導体やコンピュータ関連産業の寄与だと思います。同じ職業で同じだけ頑張れば給料(=GDP per capita)が同じになるのは自然です。 通貨の換算の仕方によっては日本のほうが低いですが、これは日本が突出して高齢化している(65才以上人口、日本は29%、台湾16%、韓国17%)ため割り引くべきでしょう。若い人が多くの老人を支えている(現在2人で1人、30年後には1.3人で1人)割にはうまくやっていると思います。 日本は一番苦しい時…

世界の研究所 台湾TSMC

今週・来週はピンチヒッターで4回の講義をしないといけません。半年前から分かっていたのですが、結局今準備をしています。いかに余裕がないか、自分でもあきれるばかりです。 さて、その講義で半導体微細加工について話そうと思うので、今週はその周辺を解説します。世界の研究所は、台湾TSMC (Taiwan Semiconductor Manufacturing Corporation, 台湾積体電路製造股份有限公司)です。 股份 gǔfèng は日本語では「株式」と訳しますが、中国本土では制度には違いがあるようです。台湾では似ていると思いますが… https://hiroyukiz.com/chinese…

西行(11) Awesome Nightfall

金曜日に読んでいる西行(さいぎょう)の解説書は次回で終わりにします。今回は、西行が日本の詩が「わび・さび」の方向に向かう創始者になったのはなぜか、について、日本人研究者たちの著作を引用して検討しています。 “I suggest it has something to do with relinquishing -… through Buddhist practice - the framework within which one set of things is viewed as desirable and their opposite as distastefu…

フレネルゾーンプレートはX線の収束に使える

X線自由電子レーザーは平行光を出しますが、狭い領域に収束させたいときはどうすればいいでしょうか。X線に対して完全に透明な物質は無く、屈折率も1に近いため(実は内殻励起より高いエネルギーでは1よりもわずかに小さい)、レンズを作るのは難しいです。1つの方法はX線が微小角入射に対しては全反射する(屈折率が1よりも少し小さいため)ことを利用して中空で胴が膨らんだ円筒鏡の内側を使う方法です。この場合はコヒーレンスがどうなるかは加工精度もあり難しい問題になります。 もう一つは、光の一部が無駄になりますが、フレネルゾーンプレート(Fresnel zone plate)を使う方法です。これは、屈折でなく、波の…

X線回折の直接法、自由電子レーザーによる撮像

単結晶X線回折の「直接法」を完成させたKarleとHauptmannは1985年のノーベル化学賞をもらっています。 https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/1985/summary/ 多数の回折スポットの強度を組み合わせて漸化式的に位相(原子位置)を改良していく「Σ2関係式」を見つけたのが決め手のようです。わかりやすい解説は下記。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj1959/38/5/38_5_313/_pdf https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj1…

スペックルパターンと位相問題

自由電子レーザー自身も技術的に面白そうですが(特にキャビティを作るための半透鏡をどうしているか?)、それはまたの機会に調べることにして、1分子からの干渉パターンによる構造決定法を見てみましょう。 レーザーは可干渉性(コヒーレンシー)が高いので、散乱体が複数あるとその周りに干渉パターンができます。可視光のレーザーを壁などに当ててスポットを見るとギラギラした明暗の模様が見えませんか?これをスペックルパターンと言い、壁の細かい凸凹からの反射光が干渉したものです。 スペックルパターンはは波長程度の動きを拡大して反映するので、いろいろなセンシングに使われます。 https://en.wikipedia.…

世界の研究所 The Lineac Coherent Light Source (米国)

38年ぶりの阪神優勝だそうで、ファンの皆様はおめでとうございます。カーネルサンダース人形は今回は無事でしょうか。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%91%AA%E3%81%84 今週は先週の続き、原子像を見る新しい手法の解説で、X線自由電子レーザーを使う方法です。世界の研究所は、日本のSACLA(Spring8に併設, 2011年にレーザー成功)でもいいのですが、そ…

西行(10) 銀の猫

金曜日に読んでいる西行(さいぎょう)の解説書は西行の最後の東北への旅の続きです。69才で徒歩で行くのですから気力と体力が伴っていなければなりません。 「吾妻鏡」に有名な記述(真偽不明)が紹介されています。 1186年8月に鎌倉を通った際、頼朝に和歌の講義に加えて、弓と馬術の技術について語ることを依頼されますが、「出家の際に家伝の弓と馬術は罪深いものとして自分の心から消し去って忘れてしまった。 和歌については、月や花をみて心に感じたままを31文字に表しているだけで、特に深いことはない」と語って、贈られた銀の猫を門前の子供に渡して去っていったということです。 西行がこの旅で寄付を募りに行った平泉の…