X線回折の直接法、自由電子レーザーによる撮像

単結晶X線回折の「直接法」を完成させたKarleとHauptmannは1985年のノーベル化学賞をもらっています。
https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/1985/summary/
多数の回折スポットの強度を組み合わせて漸化式的に位相(原子位置)を改良していく「Σ2関係式」を見つけたのが決め手のようです。わかりやすい解説は下記。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj1959/38/5/38_5_313/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj1959/28/6/28_6_387/_pdf
自由電子レーザーを使った構造解析は原子レベルの分解能がまだ出ていないためかもう少し簡単で、物質がないところからの散乱が起こらないという拘束条件を置いて、じっさいの回折と計算で求めた回折の差が小さくなるように物体の座標を変化させていきます。
その際、差が小さくなる動かし方を探しますが、式で微分する方法のほかに、じっさいに動かした後の状態を各方向で数点計算して一番差が小さくなる方向を選ぶという「最急降下法」がうまくいくようです。日本のSACLAでの最近の論文が参考になります。
https://doi.org/10.1038/s42005-021-00539-x
測定対象が動いているときの動画も撮れるというので驚きです。数値計算的には、どのくらいのステップ幅で改良するかが重要です(小さすぎると時間がかかるし、大きすぎると最適な答を通り過ぎる危険がある)。自動運転もそうですが、対象が動くときに計算が追いつけるかどうかがハードウェア・ソフトウェアの腕の見せ所であり、稼ぎどころになると思います。
単結晶X線回折の話に戻ると、私が学生のときには、大型計算機を使って結晶構造を決めるのはノウハウがものをいう職人技で、修士や博士を持った専門職が企業にもたくさんいました。が、10年ほどでコンピュータやプログラムが進歩してノウハウはほぼ不要となり、多くの人は社内失業しました。研究職としては用済みになったとボヤキを聞かされたことがあります。
ただし、現在でも複雑な場合(複雑なタンパク質や分子内の動きがある場合など)はノウハウがあり、難しい構造決定で正解を出せる少数の専門家は存在しています(構造決定の場合は正解を導きだすのは難しくても、それが正解であることは誰でもわかる)。
若い人が職業を選ぶ際は、常に新しい技術を学んでほかの人に解けない問題を解くための訓練をしつづけるのも楽しいと思います。技術や地球環境の変化によって面白い問題はいくらでも出てきます。

英語は https://en.wikipedia.org/wiki/Gradient_descent (勾配降下法) から。
gradient 「グレ」イディエント 勾配 (物理のgrad, ∇)
descent ディ「セ」ント 降下(する) 
ascent ア「セ」ント 上昇する
steepest 最も急な
conversely, 逆に
iterative methods for optimization 最適化のための繰り返し法 「イ」テラティヴ
convergence コン「ヴァー」ジェンス 収束
stochastic スト「カ」スティック 統計的な、あてずっぽを含んだ
multi-variable function 多変数関数
define 定義する
monotonic sequence 単調数列
a bowl shape お椀型
contour lines 等高線 「コ」ンター

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