西行(3) 出家直後

金曜日の読書は、12世紀の日本の歌人・西行法師の解説書”Awesome Nightfall” by William R. LaFleur を読んでいます。出家の原因は不明で様々な憶測がなされていますが、出家後の謎もあります。 ・どの寺院に属していたのか→どこにも属さないで庵(いおり、一人用の粗末な住居)に住んでいた?この点について全く言及がないことをこの本ではintentioal silence, loud silenceと言っています。  このころは宗派同士の争いが激しく、貴族や新興の武士階級も巻き込んで戦乱の時代が始まりつつありました。西行が出家した1140年には天…

ピルトダウン人

古い人類の化石は一般の関心が高いため、骨のごく一部でも従来にない年代のものが発見されたら注目を集めます。が、骨のごく一部からヒト科であることを証明するのは現在でも難しいようです。したがって、研究のごく初期から捏造の問題がありました。1909年の「ピルトダウン人」は科学における捏造の話では必ず出てくる有名な逸話です。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%80%E3%82%A6%E3%83%B3%E4%BA%BA 数十万年前にさかのぼり、人類と類人猿のミッシングリンクとされた骨は、頭蓋は5万年前のクロマニヨ…

化石人類

今週紹介している論文は、現代人の遺伝子解析から人類集団の数を推測し、90万年前~70万年前にわずか1200人まで減っていたという主張で、人類化石の空白期を説明できるというものです。人類化石の年代表がwikipedia英語版にあります。 https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_human_evolution_fossils 表の最初が700万年前のドイツ・ギリシャ(グレコピテクス)、というのは、現生人類の起源がアフリカであることを考えると不思議な気がします(本当にヒト科かどうか論争もあるようです)。あちこちでヒト科への進化が同時多発したがアフリカのものだけが生…

集団遺伝学の新計算法

昨日紹介した論文の本文は購読していないと読めませんが、Supplement Materialsは無料で読めます。 https://www.science.org/doi/10.1126/science.abq7487 最近の論文にありがちですが、解析過程の詳しいことはSupplement Materialsのほうに書いてあり、125ページもあります。人類の祖先の人口が90万年前に1200人まで減っていた、という大胆な推論は、色々な人の遺伝子解析の結果から、その多様性をモデル化することにより導かれました。時間については以前説明したとおり、集団遺伝学で使われるやり方で、突然変異の入る確率が一世代あ…

世界の研究所: 上海のCAS-MPG Partner Institute of Cumputational Biology

古いSFですが、小松左京の「復活の日」(1964)というのがありました。似たような小説(SFというよりホラー)にStephen KingのThe Standというのがあります(1978)。どちらも映画・テレビシリーズになっていますが、設定は似ており、突然現れた病原体で人類がごく少数まで減り、滅亡の縁にたたされるという話です(小説としては全く違う、それぞれの作家らしい話になっています)。先週のScience誌に、人類の祖先が90万年前に1200人まで減少して絶滅の縁にいたという論文が出ました。これは現代人の遺伝子解析から家系図のモデルを立てるというデータサイエンスの手法を駆使して導いたようです。…

西行(2) 出家前後

金曜日の読書は、12世紀の日本の歌人・西行法師の解説書”Awesome Nightfall” by William R. LaFleur を読んでいます。この本は4割くらいが西行の履歴の解説で、あとは和歌の翻訳が並んでいます。紹介の仕方が難しいですが、今週は履歴の2回目として、23才での出家前後の話と和歌を見てみましょう。西行の歌は3000以上あり、番号がついていますが、番号の付け方が統一されていません。 例えば国立日本文化研究所(日文研)のデータベースは https://lapis.nichibun.ac.jp/waka/waka_i134.html にありますが、こ…

雑種強勢とハイブリッド作物

今週とりあげたメキシコの研究所は「トウモロコシ・小麦」という名前がついていました。トウモロコシはどうなっているでしょうか?実は、トウモロコシについては1930年代という早い段階で品種改良が完了していました。ここで使われたのが「一代雑種」です。米で言う「ハイブリッド米」に対応するものです。遺伝的に均一な「純系」を2つ掛け合わせた第一世代が「一代雑種 F1」で、概念はメンデルにさかのぼります。F1の生活力が強いという「雑種強勢」という現象があり、両親を上手く選べばよい作物が得られます。 https://kotobank.jp/word/%E4%B8%80%E4%BB%A3%E9%9B%91%E7%…

高収量小麦品種「奇跡の種」と農林10号

高収量小麦の「奇跡の種」はメキシコで開発された品種ですが、その一代前は日本産の農林10号です。この開発者(稲塚権次郎氏)の話は2015年に映画になりました。あまり知られていない偉人(unsung hero)の一人だと思います。こういう先人がたくさんいることを考えると、襟を正して精一杯働かなければならないと思います。 https://www.norinten.com/ https://www.mx.emb-japan.go.jp/files/000255144.pdf https://blog.goo.ne.jp/bbsuesanga/e/044fa5db5003520823078449052b…

緑の革命

「緑の革命」は私が子供のときにはよく知られた話でしたが、今は忘れられているように思います。品種改良と化学肥料(特に窒素)の大量投入を中心とする事業でした。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%91%E3%81%AE%E9%9D%A9%E5%91%BD 上記のグラフによるとメキシコの小麦生産量は1950年から1980年の間に4倍になっていますね。 現在アフリカで進行中とのことで、難航していますが2000年代から少しずつ成果がでているそうです。 品種改良により、 ・背丈が低い(矮性、茎に行く栄養が少なくて済む、倒れにくい)、 ・大量の肥料に耐えられる、 ・受光…

世界の研究所:メキシコのCIMMYT(国際トウモロコシ・小麦改良センター)

トウモロコシがおいしい季節は終わりつつありますが、北海道のトウモロコシはスーパーに売っているものも甘くて驚くほどおいしいです。今週の世界の研究所は、トウモロコシと小麦の品種改良を研究するメキシコのCIMMYT (Centro Internacional de Majoramiento de Maiz y Trigo)をとりあげます。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E3%83%88%E3%82%A6%E3%83%A2%E3%83%AD%E3%82%B3%E3%82%B7%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%A0%E3…