The Door into Summer(3) wormhole

金曜日のThe door into summer は第2章ですが、先週の続きで「どこでもドア」の話を続けましょう。私の考える論理の流れはこうです。 タイムマシンの作り方はわからない→光速度の限界を超えた「どこでもドア」ができれば通常よりも早く情報や物体を送れるので、離れた2地点の間ではタイムマシンを実現したことになる(未来に到着することになる)→どこでもドアは一般相対論のアインシュタイン方程式の解であるwormhole(1935年)を使えばよい(?)、で、最近は量子コンピュータを使って低次元版のwormholeの挙動のシミュレーションが発表されています。 https://inqnet.calt…

フッ化水素の毒性と応急処置

フッ素の鉱物にはCaが含まれます。FはCaが大好きだということでしょう。 歯のエナメル質(enamel)はヒドロキシアパタイトですが、鉱石と同様にフッ素を添加することもでき、硬く虫歯に強くなるので、歯磨き粉のフッ素や飲料水へのフッ素添加が行われています。 Ca2+は人体で重要な役割があり、濃度は精密に制御されているので、人体内部への浸透性の高いHF(フッ化水素酸=HFの水溶液)が体につくと命にかかわります。下記のオーストラリアの地質学の実験室での事故(1990年代と思われる)はあちこちで紹介されています。 https://www.chem.purdue.edu/chemsafety/chem/…

フッ素の資源

今日はフッ素の資源を見てみましょう。蛍石(CaF2)とフッ化アパタイト(Ca5(PO4)3F)が鉱物です。いずれもカルシウムを含むので、フッ素がカルシウムを大好きなのがわかります。Fの組成比が多いCaF2のほうが良い鉱物と言えるでしょう。蛍石の産出量を調べると、 https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_countries_by_fluorite_production は2008年の統計ですが、中国が55%の算出です。 https://www.statista.com/statistics/1051717/global-fluorspar-production…

フッ素の用途

フッ素化合物の用途はテフロン、冷媒、製薬などいろいろあります。これらはHFから合成されていると思います。フッ素ガスを使わなければならないのはウランの同位体分離のために気体のUF6を作る用途や、MEMSを作る試薬のXeF2の合成(シリコンを高速で気化させる気体 2XeF2+Si→SiF4 + 2Xe)、さらに紫外のArFレーザーやKrFレーザー(半導体露光やパルスレーザー蒸着(PLD)のエキシマレーザー)を思いつきます。 用途の割合は下記が詳しいです。フッ素ガスは全フッ素製品の2%ですね。フルオロカーボンが42%でそのうち16%がポリマーです。蛍石の用途としてHFを経由して氷晶石(アルミ電解精錬…

世界の研究所 米国化学会フッ素化学部門

今週の世界の研究所は、米国化学会のフッ素化学部門 (American Chemical Society Fluorine Chemistry Division)を取り上げます。ここは単一の元素を扱う唯一の部門だそうです。 https://communities.acs.org/t5/Fluorine-Chemistry-Division/gh-p/fluorine-division フッ素化学の研究所としては、 Canadian Centre for Research in Advanced Fluorine Technologies (Univ. Lethbridge) が検索でひっかかりま…

The Door into Summer(2)因果律のパラドックス

金曜日の読書はタイムマシンSFの古典である”The Door into Summer”(夏への扉)の2回目ですが、筋に興味がある人は短いので自分で読んでいただくとして、時間について考えていきたいと思います。英語は章ごとに勉強になりそうなところを抜き出していきます。 この話は、だまされた主人公が冷凍冬眠で30年後の未来で蘇生する、という方法で未来に行きます。そこでちょうど発明されたタイムマシンの発明者を味方につけて30年前に戻り過去を書き換えて、それから30年後に戻って幸せになるという物語で、時間の流れが1回ループしています。容易に想像できますが、タイムマシンはパラドック…

最初のレーザーの写真

今週は米国HRL Laboratories のwebを見ています。ここは可視光レーザーの発祥の地です。 https://www.hrl.com/about/laser 発明者メイマンがルビーレーザーを持っている写真がたくさん載っています。中心にある棒はルビーと共振器だと思います。発光するのはルビー中のCr3+です(配位子場理論の良い練習問題になります)。渦巻状のガラスは、励起用のキセノンフラッシュランプです。 キセノンフラッシュランプは、1~40気圧のXe気体を封入し、2つの電極を内蔵した放電管で、電極に数百~数千ボルトをかけると放電します。持続的な放電を行うランプもありますが、この写真はコン…

シリコンを使った量子コンピュータと可逆計算

HRL Laboratoriesは量子コンピュータにも力を入れているようです。 https://quantum.hrl.com/ 今年の3月にNature誌に出版している結果が興味深いです。Siの量子細線中に閉じ込めた電子のスピンをqubitとして使っています。3つのスピンで1qubitを構成するようにすることで、雑音の少ない量子演算を行うことに成功しています。20年前に提案されていた方法だそうですが、ようやく実際の素子として実現したということです。下記論文で、無料で公開されています。 https://www.nature.com/articles/s41586-023-05777-3 29S…

nBn構造による暗視カメラ

HRL Laboratoriesのセンサー部門は、赤外線による暗視カメラに力を入れているようです。もちろん、自動運転の物体認識など民生用途もありますが、おそらく研究費の出どころは軍事用(US Department of Diffense; DoD)です。中~遠赤外線を画像としてリアルタイムで出せれば、照明無しで熱源(人や戦車など)を見ることができ、またミサイルの追尾にも使えます。争いごとは嫌ですが、技術として存在するものを直視して正確に評価することは我々専門家の責任でしょう。 https://www.hrl.com/laboratories/sel これまで水銀カドミウムテルル(Hg_1-xC…

世界の研究所 HRL Laboratories(米国)

今週の世界の研究所は、先週予告したとおり、HRL Laboratories(米カリフォルニア州)をとりあげます。ここは元Hughes Research Laboratoriesと言って、実業家のHoward Hughes (2023-01-30にHoward Hughes Medical Instituteで既出)が設立しました。 会社組織です。 https://www.hrl.com/about/history 有名な業績として、Theodore Maimanによるルビーレーザー(1960)やWilliam Brigesによるアルゴンレーザー(1964)の発明があります。 現在の株主は、Ra…