fMRIはまだ小部屋サイズ

今週紹介している論文をもう少し読んでいきましょう。 https://www.nature.com/articles/s41593-023-01304-9 脳の情報処理単位であるニューロン(神経細胞)は1000入力・1出力のプロセッサで、信号の強弱を0.1Vの電気パルスの頻度として扱います。ヒトの大脳皮質には160億個のニューロンがあるとのことです。 https://www.riken.jp/press/2014/20141121_1/index.html ネットワークを組んでいるので、1個のニューロンの大きさの定義は難しそうですが、1mm^3分解能で血流の時間変化を解析することで思考が読めると…

fMRIで意識を読む仕組み

昨日紹介した記事の元論文は、https://www.nature.com/articles/s41593-023-01304-9 です。 functional MRI (fMRI)の信号を機械学習させています。fMRIは、脳卒中などの診断に使うMRI(核磁気共鳴イメージング)を脳の働きの3次元画像化に用いるものです。被験者に文章を聞かせながらfMRIで脳を測定し、脳の各所の働き(血流の活発さを1mm分解能で測定した、と考えてください)の時間変化を測定しました。その結果を機械学習、すなわち、もとの文章と関連の強い信号の時間的空間的組み合わせを特定する訓練をプログラムが行い、訓練結果(=コンピュー…

世界の研究所 Department of Neuroscience, The University of Texas at Austin

連休も終わりました。元気出していきましょう!私は今回は遠くにはいきませんでしたが、コインランドリーで一日中布団の洗濯をする間にjavascriptをだいぶ読めるようになったのが収穫です。やりたいことができるようになるにはまだ先が長いですが… 今週の世界の研究所は、テキサス大学オースティン校の理学部神経科学科 Department of Neuroscience, Faculty of Natural Sciences, The University of Texas at Austin を取り上げます。教員が39人いるので、学科としては普通の大きさですね。神経科学の研究者を集めて教育もしている…

ガイガーカウンターと雪崩現象

高電界をかけた物質を励起した時に起こる雪崩現象は、放射線検出のガイガーカウンターでも使われています。この場合は、希薄気体中の放電に伴う雪崩現象が使われています。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%82%AC%E3%83%BC%EF%BC%9D%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%A9%E3%83%BC%E8%A8%88%E6%95%B0%E7%AE%A1 放射線が分子(希ガスなどが入っている)を励起して陽イオンと電子ができ、それが電界で加速されて移動するうちに他の分子に衝突します。そのときに運動エネルギーが十分高…

HARP管の雪崩現象による増幅

HARP管の光電変換膜(HARP膜)は、ブラウン管の蛍光面に対応する部分に厚さ15ミクロン程度のアモルファスSe(セレン)膜が蒸着されています。メッシュ電極を用いて高電界(15ミクロン厚に1500Vなので1億V/mですね)をかけることにより、電子と正孔を加速し、加速された電子や正孔が価電子に衝突して励起することにより電子と正孔が倍々ゲームで増えていく「雪崩(なだれ)増幅(avalanche アバランシェ増幅ともいう)」を起こさせて信号電流を増倍させます。この増倍が超高感度の秘訣です。電子は外壁側の電極から信号電流として流れ、正孔は電子ビームによって中和されます。HARP(ハープ)は high-…

撮像管とコピー機の感光ドラムの類似性

HARP管のもととなった撮像管は真空管の一種です。1927年にP.T. Farnsworth(ファーンズワース)が低感度の実験に成功、実用化に成功したのはV. K. Zworykin(ツヴォルキン)です。今はほとんど使われませんが、天才的な発明の一つだと思います。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%92%AE%E5%83%8F%E7%AE%A1 今のデジタルカメラは画素ごとに電線がつながっていて一つ一つの画素に当たる光の強度を直接電気的に測定できますが、微細加工技術がないときにどうしていたかわかりますか? コピー機の感光ドラムは、帯電させておいて光が当たったと…

世界の研究所:NHK放送技術研究所とHARP撮像管

今週の世界の研究所は、東京世田谷区にあるNHK放送技術研究所をとりあげます。 https://www.nhk.or.jp/strl/ 職員250名(うち研究者200名余)、地上14階建てとのことで、大規模ですね。 ここの有名な発明の一つは、高感度カメラに使われるHARP撮像管で、アモルファス半導体応用の一つの到達点です。この発明者の文章(下記pdfリンク)は一読の価値があります。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/bplus/11/2/11_138/_pdf 工業高校卒からNHKの地方局の技師として採用され、社内留学制度で放送技術研究所で撮像管の研究に短…

Also Sprach Zarathustra(8)噛め!噛むんだ!頭を噛み切るんだ!

金曜日のZarathustraの今週は、前回紹介した部分の直後で第3部で最も印象的な場面です。自分の運命から逃れられないことを意味する「永劫回帰」を納得できずに苦しむZarathustraは幻覚を見ます。 Where was now the dwarf? And the gateway? And the spider? And all the whispering? Had I dreamt? Had I awakened? ‘Twixt rugged rocks did I suddenly stand alone, dreary in the dreariest moonlight. BU…

トナーの攪拌には磁性体の粉が使われている

コピー機やレーザープリンターと言えば、トナーが必須です。トナーのなかみは、下記サイトがわかりやすいです。 https://www.ricoh.co.jp/pps/support/techinfo/laser_dousa1_jp.html 帯電がプラスとマイナスの物質があるのが面白いです。感光ドラムも+チャージ用(セレン)と―チャージ用(有機)になっているそうです。また、トナーに酸化鉄(マグネタイト)微粒子を加えたものをディベロッパーというそうです。磁石を回転させて攪拌しているそうで、developer(現像機)という名前から考えて、酸化鉄微粒子は回収再利用されるのではないかと思います。 この特…

電子写真(コピーとレーザープリンター)の感光ドラムの半導体

コピー機やレーザープリンターの感光ドラムに使う半導体はいろいろあります。有機半導体は異なる分子を混合することによって光励起できる深いトラップを作れるので理想的です。ほかの半導体で金属ドラムの上に成膜できるものというとかなり限られます。また、光伝導性や帯電性の制御が有機物よりも難しいと思います。セレンは古くからこの目的に使われてきましたが、毒性と摩耗性に弱みがあります。 アモルファスシリコンはセレンや有機物よりも硬いので長寿命ですが、トラップの制御がかなり難しいと思われます。 シリコンのダングリングボンド(dangling bond, 他の原子とつながっていない結合手)がトラップを作りますが、そ…