10Beは地球磁場反転の指標となる

放射性同位体の応用として変わったところでは、10Be (半減期1.51(6)x 10^6 年)が地磁気の逆転現象の証拠の一つになるようです。Beは安定同位体が中性子数が奇数の9Beしかない変わった原子核で、10Beは宇宙線の影響でわずかに作られ続けています。 https://en.wikipedia.org/wiki/Isotopes_of_beryllium 地磁気の逆転現象が起こる時には地球の磁場が弱くなり宇宙線がたくさん降り注ぐため、その時に地上で作られた岩石中の10Beが増え、地層の解析や他の同位体法で年代決定をすれば、地磁気の逆転の年代がわかるという仕組みです。鉱物中の強磁性体の磁化…

最長の半減期は128Teの2.2予(じょ=10^24)年で素粒子研究の対象

最も長い半減期を持つ同位体は128Teです。Teは変わった元素で、安定同位体よりも放射性同位体のほうが天然存在比が多いです。128Teの半減期は2.2(±0.3)×10^24年で、宇宙の年齢と言われている時間よりも160兆倍長いです。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%8A%E6%B8%9B%E6%9C%9F%E9%A0%86%E3%81%AE%E6%94%BE%E5%B0%84%E6%80%A7%E5%90%8C%E4%BD%8D%E4%BD%93%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7 これだけ長いのに放射壊変が起こるのは理由があり、一…

世界の研究所 Univ. Chicago, Enrico Fermi Institute

今週の世界の研究所は、Univ. Chicago, Enrico Fermi Institute をとりあげます。 FermiLabというのもありますが、別物です。それはまたの機会に。 シカゴ大フェルミ研究所は教授35人を擁する研究所で、名簿には院生や技術職員も載っています。院生に比べて先生が非常に多いです。 https://efi.uchicago.edu/people/ 下記が研究分野ですが、加速器、宇宙線、重力、高エネルギー物理、ニュートリノ物理などに加えて、Geophysics(地球物理)というのがあり、ちょっと毛色が違ってなぜだろうと思います。これはおそらくここが原子核の放射壊変を使…

The Door into Summer(3) wormhole

金曜日のThe door into summer は第2章ですが、先週の続きで「どこでもドア」の話を続けましょう。私の考える論理の流れはこうです。 タイムマシンの作り方はわからない→光速度の限界を超えた「どこでもドア」ができれば通常よりも早く情報や物体を送れるので、離れた2地点の間ではタイムマシンを実現したことになる(未来に到着することになる)→どこでもドアは一般相対論のアインシュタイン方程式の解であるwormhole(1935年)を使えばよい(?)、で、最近は量子コンピュータを使って低次元版のwormholeの挙動のシミュレーションが発表されています。 https://inqnet.calt…

フッ化水素の毒性と応急処置

フッ素の鉱物にはCaが含まれます。FはCaが大好きだということでしょう。 歯のエナメル質(enamel)はヒドロキシアパタイトですが、鉱石と同様にフッ素を添加することもでき、硬く虫歯に強くなるので、歯磨き粉のフッ素や飲料水へのフッ素添加が行われています。 Ca2+は人体で重要な役割があり、濃度は精密に制御されているので、人体内部への浸透性の高いHF(フッ化水素酸=HFの水溶液)が体につくと命にかかわります。下記のオーストラリアの地質学の実験室での事故(1990年代と思われる)はあちこちで紹介されています。 https://www.chem.purdue.edu/chemsafety/chem/…

フッ素の資源

今日はフッ素の資源を見てみましょう。蛍石(CaF2)とフッ化アパタイト(Ca5(PO4)3F)が鉱物です。いずれもカルシウムを含むので、フッ素がカルシウムを大好きなのがわかります。Fの組成比が多いCaF2のほうが良い鉱物と言えるでしょう。蛍石の産出量を調べると、 https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_countries_by_fluorite_production は2008年の統計ですが、中国が55%の算出です。 https://www.statista.com/statistics/1051717/global-fluorspar-production…

フッ素の用途

フッ素化合物の用途はテフロン、冷媒、製薬などいろいろあります。これらはHFから合成されていると思います。フッ素ガスを使わなければならないのはウランの同位体分離のために気体のUF6を作る用途や、MEMSを作る試薬のXeF2の合成(シリコンを高速で気化させる気体 2XeF2+Si→SiF4 + 2Xe)、さらに紫外のArFレーザーやKrFレーザー(半導体露光やパルスレーザー蒸着(PLD)のエキシマレーザー)を思いつきます。 用途の割合は下記が詳しいです。フッ素ガスは全フッ素製品の2%ですね。フルオロカーボンが42%でそのうち16%がポリマーです。蛍石の用途としてHFを経由して氷晶石(アルミ電解精錬…

世界の研究所 米国化学会フッ素化学部門

今週の世界の研究所は、米国化学会のフッ素化学部門 (American Chemical Society Fluorine Chemistry Division)を取り上げます。ここは単一の元素を扱う唯一の部門だそうです。 https://communities.acs.org/t5/Fluorine-Chemistry-Division/gh-p/fluorine-division フッ素化学の研究所としては、 Canadian Centre for Research in Advanced Fluorine Technologies (Univ. Lethbridge) が検索でひっかかりま…

The Door into Summer(2)因果律のパラドックス

金曜日の読書はタイムマシンSFの古典である”The Door into Summer”(夏への扉)の2回目ですが、筋に興味がある人は短いので自分で読んでいただくとして、時間について考えていきたいと思います。英語は章ごとに勉強になりそうなところを抜き出していきます。 この話は、だまされた主人公が冷凍冬眠で30年後の未来で蘇生する、という方法で未来に行きます。そこでちょうど発明されたタイムマシンの発明者を味方につけて30年前に戻り過去を書き換えて、それから30年後に戻って幸せになるという物語で、時間の流れが1回ループしています。容易に想像できますが、タイムマシンはパラドック…

最初のレーザーの写真

今週は米国HRL Laboratories のwebを見ています。ここは可視光レーザーの発祥の地です。 https://www.hrl.com/about/laser 発明者メイマンがルビーレーザーを持っている写真がたくさん載っています。中心にある棒はルビーと共振器だと思います。発光するのはルビー中のCr3+です(配位子場理論の良い練習問題になります)。渦巻状のガラスは、励起用のキセノンフラッシュランプです。 キセノンフラッシュランプは、1~40気圧のXe気体を封入し、2つの電極を内蔵した放電管で、電極に数百~数千ボルトをかけると放電します。持続的な放電を行うランプもありますが、この写真はコン…