マキャベリ(4) チェザーレ・ボルジア

今週の「君主論」は、第7章と8章をとりあげます。他人の力と幸運でで権力を得たケースと、犯罪的所業で権力を得たケースです。他人の力の方は、チェーザレ・ボルジア(Cesare Borgia, 1475-1597)が登場します。この人は「君主論」で繰り返し出てきて、マキャベリズムを体現した人物とされています。法王の息子で、政敵をつぎつぎに謀殺したりして強引にイタリア諸都市(教会領)を支配下に置きましたが、マラリアがローマに蔓延したとき父・法王の死と同時に自分も発病したため政敵が法王に選出されてしまいました。賛成の条件として協力関係の協定を結んでいましたが法王に破棄され、逮捕→虜囚→脱出→戦死という経…

X線顕微鏡に使われる他の2つの技術:zone plate と ptycography

レンズが作れない場合、キャピラリーを使ってガイドするのは微小角で全反射が起こるX線に独特な方法です。これは他にも応用が利くかもしれません(具体例は秘密)。今日は他の方法を見てみましょう。 ゾーンプレートを使う例があります。これは実際に使われています。下記はビーム径をnmまで絞ることができ、顕微鏡としての分解能は8nmです。 https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abc4904 ゾーンプレートは白黒の同心円板ですが、見たことはないでしょうか?賢い仕組みです。X線は波長が短いので微細加工が必要ですが、現在では可能です。 https://otonano…

X線を集光するキャピラリー集合体の発明

シンクロトロン放射光の歴史は下記にまとまっています。電子を加速して衝突させる実験のためのシンクロトロン(円軌道で電子が周回)で消費エネルギーが大きすぎる原因を1944-46年に調べていたGE(General Electric社)の技術者たちが、理論家Schwinger(1965年に朝永、ファインマンとともにノーベル賞受賞)が予言した相対論的な速度を持つ荷電粒子が曲がるときの発光との関連に気づき、シンクロトロン放射光を発見しました。 https://xdb.lbl.gov/Section2/Sec_2-2.html Archimedes Palimpsestの解読に使われたスタンフォード大学のS…

Archimedes Palimpsest はインクが鉄を含んでいたので解読できた

Archimedes Palimpsest の詳しい解説がなかなか見つからなかったですが、静岡大学のものが分かりやすいです(下記pdf)。 https://www.sci.shizuoka.ac.jp/sci/wp-content/uploads/2021/06/20101203.pdf それによるとArchimedesの写本のインクには鉄が含まれていて、上書きしたインクは鉄がないため、紫外線と可視光の差をとるとArchimedesの方は赤く字が浮かび上がるのだそうです。絵を上書きされたページはそれができなくて、蛍光X線イメージングで鉄の像を撮影することで読めたそうです。時代によりインクの成分…

世界の研究所 Archimedes Palimpsest Project と米国 SLAC (Stanford Linear Accelerator Center)

今週の世界の研究所は、Archimedes Palimpsest Project とスタンフォード大学にある国立加速器施設SLACです。Archimedes…は研究所ではなく、先週金曜日にとりあげたアルキメデスの、1907年に見つかった著作をデジタル化して解読するプロジェクト(1998年に落札した正体不明のIT長者による。1999-2008、すでに終了)です。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%AA…

マキャベリ(3) サヴォナローラとヒエローン2世

今週の「君主論」は、第6章「自分の手勢で勇敢に獲得した支配権」です。いろいろな例が出てきます。歴史上の例を挙げて「自力がないと国の支配権を新しく得たり維持したりすることはできない」ことを論証していますが、名前だけあがっている例がどれも「濃い」のでこの本が「難解」との評はわかります。また、例をつなぐ一つ一つの文がそのまま警句としても成立します。おもしろかったのは 「賢人は過去の優れた人たちを見習うべきである。その理由は、弓の達人が、遠くて届かない的を射るときに的の高さよりもはるかに上を狙うのと同じである」 「人間はなにか的確な実験によって納得しないと新しい制度を信用しない」 武力を持たなかったた…

micro LED のレーザースクレイピング

microLEDはサファイヤ基板上にドーピングをしながらGaN系半導体を成長させて作るのだと思います。GaNそのものは紫外線の領域に発光がありますが、Inを少し混ぜると青、Inをたくさん混ぜると緑(GaNと超格子を作って発光効率を上げる必要あり)、Euをドープすると赤(microLED応用で最近論文多数)となっています。作った後切り離してmicroLEDにしますが、通常の半導体用の回転ノコ(ダイサーdicer)では刃の厚みと素子の大きさがそう変わらないので無駄が多いです。ダイサーは日本のDiscoが高い世界シェアを持っています。 https://www.disco.co.jp/eg/solut…

micro LED の移送用高分子基板

micro LEDのチップ移送・ミクロン単位で狙って貼り付ける技術について、レーザーの会社COHERENTがyoutubeで装置を紹介しています。 https://www.youtube.com/watch?v=f7oe-BEhCzI 信越化学の装置は下記の図から見ると大きそうです(2階建ての家くらい?)。 https://www.shinetsu-microled.jp/product_multi_laser_lift_off_equipment.html 部材の特許を見つけました。 https://ipforce.jp/patent-jp-B9-6842404 微小な凹凸のある表面に粘着剤…

micro LED を色別に並べてディスプレイを作る技術

発光色の違うmicroLEDは異なる半導体でできています。半導体の結晶成長(化学気相成長、CVD)を使って作るので、色ごとに別々のウェファで作らないと事実上製造不可能です。そうなると異なるウェファ上の数十μmのLEDをディスプレイの画素として並べ替えなければならないのですが、これは難問です。最近東レと信越化学が製造装置を発表しました。信越化学はyoutubeに仕組みを載せています(とぎれとぎれで見にくいですが…) https://www.youtube.com/watch?v=m6aV9Bo–Mw レーザーでウエファ上の素子をバラバラに切り出すこと、高分子多層板に張り付けること、レ…

世界の研究所 micro LED 関係 (eLux 社ほか)

今週の世界の研究所は、アメリカのベンチャー企業 eLuxを取り上げます。 https://www.eluxdisplay.com/about ここはシャープアメリカのスピンアウトで、米国と台湾に研究設備を持っているマイクロLEDディスプレイの開発拠点です。設立は2016年で、シャープの経営が日本から台湾の鴻海(ホンハイ)に移ったタイミングですね。マイクロLEDは、50μm以下の赤青緑のLEDを並べて作るディスプレイです。液晶ディスプレイは白色光を液晶シャッターと色フィルターを使って要らない波長の光をさえぎって色を出しているため、各画素の映していない色に対応する発光の電力が無駄になってしまいます…