世界の研究所 University of South Pacific

トンガで(現代的)観測史上最大かもしれない大噴火がありましたね。衛星写真からは北海道くらいの面積の噴煙が上がっていましたが、被害が大きくないことを祈ります。今週の世界の研究所は、オセアニアの各国にキャンパスがちらばっている University of South Pacific をとりあげます。本部はFijiにあります。 https://www.usp.ac.fj/ https://en.wikipedia.org/wiki/University_of_the_South_Pacific 当然かもしれませんが、オセアニア各国の指導者はここの卒業生も多いです。Tongaには公務員養成の別の機関(…

碧巌録 絶妙なタイミング

今週の「碧巌録」は本文が最も短いCase #19 倶胝指頭禅 です。倶胝和尚(Master Chu Ti)という人がいて、どのような問を立てられても指を一本立てて答にしたという逸話です。また、臨終のときに集まった弟子たちに「この最強の技を会得したが一生かけてもすべてを使いつくせなかった。なぜだか知りたいか?」と告げ、指を一本立てて息を引き取ったとのこと。 この話は想像力をかき立てるようで、webにいろいろな解説が落ちています。また、「碧巌録」本文の解説では、物事には急所となるタイミングがあり、そこでは小さい労力ですべてを変えることができる、とあります(と、私が解釈した)。指を一本立てるタイミン…

電波天文学で何がわかるか?

たいへんな装置で宇宙からの微弱な電波を測定して何が面白いのか、という疑問があると思います。私の理解では: ・マイクロ波領域にある分子の回転スペクトル放射から、宇宙空間の分子が同定できます。例えば、ボリソフ彗星でCO分子がたくさんあることが分かった。 https://public.nrao.edu/gallery/comet-2i-borisov-has-an-unusual-composition/ レモン彗星のHCN分子の分布を測った https://public.nrao.edu/gallery/rotating-3d-map-of-comet-lemmon-releasing-hcn-m…

超伝導ギャップを使った検出器 kinetic inductance detector

遠くの天体からの微弱な電波や光を検出するためにいろいろな方法が開発されていますが、雑音エネルギーは回路の電気抵抗Rと温度Tに比例するので、抵抗が低いほうがいいのは間違いありません。したがって微弱信号用には超伝導が多用されますが、薄膜超伝導体に電磁波が当たったらどうなるか、という発想から発明された最近の注目株が kinetic inductance detector です。下記に写真つきの簡単な解説がありました。kineticというのは何かが動くわけではなくてクーパー対が壊れて起こる一連の過程を指すようです。 https://web.physics.ucsb.edu/~bmazin/mkids.…

ヘテロダイン方式と超伝導トンネルミキサー

電波天文学では様々な周波数の電波を扱いますが、多いのは分子の回転に対応して星間分子の同定に使えるGHzより上の周波数です。波長がcm以下になると(2.45GHzで12㎝)、電気信号というよりも電波になるので、電線を通すのが難しくなります(インピーダンス整合、定在波比などで調べてみて下さい)。微弱信号を直接増幅するには、高速の半導体や精密な導波路を用意する必要があり、たいへん高価になってしまいます。この辺りの解決には、無線通信の初期に画期的なアイデアであるヘテロダイン(heterodyne)方式が発明されています(1901年,Reginald A. Fessendenによる=ラジオ放送やソナーの…

世界の研究所 ALMA Observatory (アルマ電波天文台)

今週の世界の研究所は、電波望遠鏡で現在最大の、南米チリのアタカマ砂漠の高地にある ALMA 電波天文台を取り上げます。 https://www.almaobservatory.org/en/home/ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%9E%E5%A4%A7%E5%9E%8B%E3%83%9F%E3%83%AA%E6%B3%A2%E3%82%B5%E3%83%96%E3%83%9F%E3%83%AA%E6%B3%A2%E5%B9%B2%E6%B8%89%E8%A8%88 高度5000mにあるというので…

碧巌録 世界に法則はない

今週の碧巌録(禅問答)は第37則(Case #37) です。原文は以下の通り。 盤山垂語云、 三界無法、 何処求心。 これに解説がついています。英訳本は Pan Shan’s There is Nothing In the World: Pan Shan imparted the words which said, “There is nothing in the triple world; where can mind be found?” です。盤山は禅僧の名前です。世界に法則はない。ではどうするか、と講義で言ったとのこと。我々の生業で使う物理法則はある…

ノイズの単位 V/√Hz

電気的ノイズの単位が何か知っていますか? V/√Hz です。変な単位なので、質問サイトによくあがっています。なかなかこれはという回答はないのですが、よく見るのが、抵抗から発生する熱雑音(ジョンソンノイズ)を基準として考えるものです。そのエネルギーの理論値が4kBTで、考えている時間当たりのノイズのエネルギー(単位W)がそれに等しいので、周波数帯域Δf(単位Hz = s^-1)で割って一定になるとして、単位はW/Hz=J, 電圧だと電力=(電圧)^2/抵抗なので、平方根になるのでV/√Hz、という説明です。やっぱりわかりにくいです。よく考えると、いろいろ突っ込みどころがありますね。学会直前でとり…

冷却CCDカメラ

微弱信号を測定するときに重要なのはノイズ(雑音)の低減です。例えば、天体写真撮影を都市で行おうとすると「光害」によって暗い星が見えませんが、雑音の少ない「冷却CCDカメラ」を使って積算し、平均値を差し引くことによって空の一様な明るさを消去することができます。ノイズがあると背景がザラザラしてしまって一様な引き算ができません。以前、昼間に数時間追跡露光して星が見えるデモがあったのですが今日は見つかりませんでした。下記は英国BBC関連のアマチュア天文家向けのサイトにある解説です。 https://www.skyatnightmagazine.com/astrophotography/astropho…

宇宙ゴミの光学観測

謹んで新年のご挨拶を申し上げます。皆様にとって素晴らしい一年であることをお祈りいたします。 新年の「今日の英語」は「宇宙ごみ space debris」のつづきをやってから、天文学で使われる高感度の電磁波検出法について検討しましょう。電波天文学自体も面白いので、この話題は来週に続ける予定です。 さて、宇宙ごみはレーダー以外にも目視で追跡されています。また、専用衛星も開発されています。 https://orbitaldebris.jsc.nasa.gov/measurements/optical.html によると、チリにある光学望遠鏡と、英領アセンション島(大西洋の真っただ中)にある光学望遠鏡…