世界の研究所 ニュージーランド政府系研究機関 Scion

今週の世界の研究所は、ニュージーランドの政府系の研究所 Scion を取り上げます。 https://en.wikipedia.org/wiki/Scion_(Crown_Research_Institute) ニュージーランドの政府系研究機関はCrown Research Instituteとして統合され会社組織で運営されていて、Scionはその一部で第一次産業や気候変動、生物工学の科学研究を行う組織のようです。ニュージーランドは人口は500万人弱、北海道くらいですね。面積は27万平方キロで、日本の3/4。林業が盛んなので、Scionはドローンを使った森林管理の研究もしています。 http:…

Justice 第五章 カントの主張

今週のJusticeは、第5章”What matters is the motive / Immanuel Kant”です。功利主義を徹底的に嫌ったカントの主張を解説しています。カントは、ケーニヒスベルグ(現:ロシアの飛び地カリーニングラード)で活動した哲学者(1724-1804)で、功利主義のベンサムと同時代です。大学に入ったころ、背伸びしてカントを読もうとしましたが難しくて挫折しました。この章の解説はわかりやすいです。私なりに単純化すると、(1)自分と他者の区別なく、理性的存在を無条件に尊重する姿勢から正しい道徳が生まれる、(2)結果consequenceではなく、…

重粒子線の方向転換には超伝導磁石を使う

800MeVの運動エネルギーを持つ重粒子線は加速器で作ります。加速器の詳細は別の機会にします。それだけの運動エネルギーを持つ粒子の方向を変えないとピンポイント照射できませんが、どうするのでしょうか。磁場を使っているようです。荷電粒子は電場でも磁場でも曲げられますが、高速粒子を電場で曲げるには高い電圧が必要で、放電が起こってしまいます。800MeVなら、全部でざっと100MV = 一億V は必要でしょう。ベクトルの計算をすればわかりますね。一億Vは、雷雲と地表の電位差の桁で、放電を防ぐのは極めて難しいです。その点で、磁場は使えますが非常に強い磁場が要るので、大きな超伝導磁石が使われています。動画…

高エネルギー粒子線はターゲットの内部深くで働く

800MeVに加速した炭素イオンの速度は光速の84%だそうです。生体深さ30cmまで侵入して破壊するそうですが、重粒子線の速度と散乱断面積の関係が気になりますね。 下記論文が最近のレビューで、Figure 1 に深さと与えるエネルギーの模式図が書いてあります。表層が0というわけではないですが、確かに深いところにピークがあります。陽子線に比べてピークが鋭いので、有効性は高そうです。このピークをブラッグピークというそうです。 https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fonc.2020.00082/full その理由は、おそらく高速イオンによる標的(…

重粒子線治療

加速器で炭素等の重粒子の多価イオンを加速して生体に照射すると、一定の深さの領域のDNAにダメージを与えることができます。これは、粒子が高速で運動しているときは物質との相互作用が小さいが、物質中で減速されると急に相互作用が大きくなることを利用します。X線やγ線に比べて他の組織への障害を少なくして体の内部にある腫瘍を破壊することができるため、病気によっては有効性が高いとされています。wikipedia に日本語版、ドイツ語版、中国語版しかないことからわかるように、日本が先行している方法で、日本には7か所施設があります。私はたまたま通りかかってQST病院の施設の建設現場を見たことがありますが、地下に…

世界の研究所 量子医科学研究所 & QST病院(旧:放射線医学総合研究所)

今週の世界の研究所は、千葉にある量子医科学研究所を取り上げます。少し前までは、放射線医学総合研究所とよばれていましたが、最近、国立研究開発法人・量子科学技術研究開発機構(QST)の傘下に入りました。ここは付属病院(QST病院)があり、加速器で作った粒子線によるガンの治療法を開発しています。他にも、PETやfMRIを用いた脳研究もやっているようです。放射線の生物への影響や応用および被ばく治療を担当する放射線医学研究所と、基礎から農業応用まで含む量子生命科学研究所が併設されています。 https://www.nirs.qst.go.jp/index.shtml 今週はこの研究所関連の技術を見ていき…

Justice 第四章 金銭を払って代理を立てることの正当性

今週のJusticeは第4章、”Hired help / Markets and morals” 金銭を払って代理を立てることの正当性を議論しています。代理業務の対象は兵役と出産です。全く違う話ですが、道徳的には似た問題です。いろいろな変遷を経て現在は次のようになっているそうです。兵役は多くの国で義務ではなく給料をもらう仕事となり、富裕層の割合が減り、貧困層出身の割合が増えている。これで愛国心を発揮できるか?という論点です。代理出産は、生殖技術の発達によって受精卵を育てるだけの「代理母」が可能になり、インドなどでは商業的に誘致している場所があるそうです。これらの是非は功…

放射性元素の応用 241Am, 63Ni, 60Co

放射性元素の応用として主なものは、トレーサーや線源です。トレーサーは、放射性同位体でC,N,O,Pなどを置き換えた化合物を用いて、その元素がどこに行ったかを追跡することで反応経路や生体分子の分離(クロマトグラフィ類似のゲル電気泳動など)に用いていましたが、やはり放射能は扱いが面倒なので、生体分子にくっつく蛍光試薬など非放射性の方法がいろいろ開発されています。安定同位体の質量分析による追跡もその一つです。今日とりあげる放射性元素は、線源として多用された241Amと63Niです。241Amは半減期432年のα線源で、煙感知器に用いられました。煙の粒子がくると散乱されて電流が減ることを利用します。6…

PET診断で使われるフッ素同位体 18F

今日の放射性核種はフッ素同位体の18Fです(安定同位体は19F)。これは半減期110分で陽電子を放出します。陽電子放出断層写真法(positron emission tomography, PET)で使います。18Fを含むfluorodeoxyglucose を加速器→自動合成で作って注射します。 http://www.seirei.or.jp/hamamatsu/patients-info/examination/pet_Inspection/pet/index.html 合成装置や化合物、合成法の開発などは東京都の研究所の下記のページが見つかりました。楽しそうですね。他にも11C,13N,…

43番元素のテクネチウム

今日は43番元素のテクネチウムです。原子番号が小さい(Mnの下、Reの上)にもかかわらず安定同位体が存在しません(98Tcが430万年の半減期)。これは原子核理論の難問で、すっきりとした説明は難しいようです。原子核の液滴モデルに基づく半経験式 von Weizaecker model で正しく説明できない2つのうちの1つだそうです。 https://physics.stackexchange.com/questions/40960/why-is-technetium-unstable https://en.wikipedia.org/wiki/Semi-empirical_mass_formu…