海に鉄塩を撒くと本当に植物プランクトンが増えた

マーチンの鉄仮説の実験結果は下記に良くまとまっています。 https://ippjapan.org/archives/1265 まとめると下記です。 ・鉄散布の有効性は認められ、1990年代当時のCO2排出量の25%を吸収するポテンシャルがあることが分かった ・2週間で植物プランクトン数に顕著な効果があるという即効性 ・CO2吸収効果のためには、最終的に炭素が沈降して出てこなくなる必要があるが、動物プランクトンの数などに左右されるので不安定 ・植物プランクトンは増えすぎると「赤潮」「アオコ」なので、制御できない場合は危険。特に漁業への影響。 ・関連実験は、海洋への廃棄物投棄に関するロンドン条約…

マーチンの鉄仮説

マーチンの鉄仮説の話の流れはこうです。(J. H. Martin, Paleoceanography 5 (1990) 1-13) ・氷床試料中のCO2分析により、氷河期はCO2濃度が低いことが知られている。(氷河期は200ppm以下、産業革命前は280ppm、ちなみに2020年は420ppm) https://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/ghgp/co2_trend.html ・海は植物プランクトンがCO2を吸収するため、大気の60倍のCO2貯蔵能力があることが知られている。 ・Martin博士らが、いろいろな海域・深さのFe,N,P,C濃度と植物プランクトン密…

鉄を含むインクとお歯黒は同じもの

鉄を含むインクは、ポリフェノールと鉄の不溶性の錯体からできています。 植物ポリフェノールとしては、お茶のタンニンがありますが、植物が昆虫に寄生されてできる「虫こぶ」である「五倍子(ごばいし、ふし)」や「没食子(もっしょくし)」に多く含まれています(植物の防衛機能)。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%A1%E9%A3%9F%E5%AD%90%E9%85%B8 https://www.youtube.com/watch?v=WP1Hu2oQ_0I によると、五倍子は画材屋で買えるそうです。五倍子を煮出した液に鉄さび+酸を加えるというレシピはインクと共通です…

世界の研究所 Moss Landing Marine Laboratories

今週の世界の研究所は、米国カリフォルニア州の Moss Landing Marine Laboratories を取り上げます。ここは、カリフォルニア州立のSan Jose State University(1857設立)が運営し、23校のカリフォルニア州立大学機構が共同参画している海洋学の研究所です。Moss Landingは地名のようです。 https://mlml.sjsu.edu/ 博士審査の公聴会(thesis defenses)が写真入りで世界中にアナウンスされているのが面白いです。 https://mlml.sjsu.edu/defenses/ California州には、Cal…

マキャベリ(4) チェザーレ・ボルジア

今週の「君主論」は、第7章と8章をとりあげます。他人の力と幸運でで権力を得たケースと、犯罪的所業で権力を得たケースです。他人の力の方は、チェーザレ・ボルジア(Cesare Borgia, 1475-1597)が登場します。この人は「君主論」で繰り返し出てきて、マキャベリズムを体現した人物とされています。法王の息子で、政敵をつぎつぎに謀殺したりして強引にイタリア諸都市(教会領)を支配下に置きましたが、マラリアがローマに蔓延したとき父・法王の死と同時に自分も発病したため政敵が法王に選出されてしまいました。賛成の条件として協力関係の協定を結んでいましたが法王に破棄され、逮捕→虜囚→脱出→戦死という経…

X線顕微鏡に使われる他の2つの技術:zone plate と ptycography

レンズが作れない場合、キャピラリーを使ってガイドするのは微小角で全反射が起こるX線に独特な方法です。これは他にも応用が利くかもしれません(具体例は秘密)。今日は他の方法を見てみましょう。 ゾーンプレートを使う例があります。これは実際に使われています。下記はビーム径をnmまで絞ることができ、顕微鏡としての分解能は8nmです。 https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abc4904 ゾーンプレートは白黒の同心円板ですが、見たことはないでしょうか?賢い仕組みです。X線は波長が短いので微細加工が必要ですが、現在では可能です。 https://otonano…

X線を集光するキャピラリー集合体の発明

シンクロトロン放射光の歴史は下記にまとまっています。電子を加速して衝突させる実験のためのシンクロトロン(円軌道で電子が周回)で消費エネルギーが大きすぎる原因を1944-46年に調べていたGE(General Electric社)の技術者たちが、理論家Schwinger(1965年に朝永、ファインマンとともにノーベル賞受賞)が予言した相対論的な速度を持つ荷電粒子が曲がるときの発光との関連に気づき、シンクロトロン放射光を発見しました。 https://xdb.lbl.gov/Section2/Sec_2-2.html Archimedes Palimpsestの解読に使われたスタンフォード大学のS…

Archimedes Palimpsest はインクが鉄を含んでいたので解読できた

Archimedes Palimpsest の詳しい解説がなかなか見つからなかったですが、静岡大学のものが分かりやすいです(下記pdf)。 https://www.sci.shizuoka.ac.jp/sci/wp-content/uploads/2021/06/20101203.pdf それによるとArchimedesの写本のインクには鉄が含まれていて、上書きしたインクは鉄がないため、紫外線と可視光の差をとるとArchimedesの方は赤く字が浮かび上がるのだそうです。絵を上書きされたページはそれができなくて、蛍光X線イメージングで鉄の像を撮影することで読めたそうです。時代によりインクの成分…

世界の研究所 Archimedes Palimpsest Project と米国 SLAC (Stanford Linear Accelerator Center)

今週の世界の研究所は、Archimedes Palimpsest Project とスタンフォード大学にある国立加速器施設SLACです。Archimedes…は研究所ではなく、先週金曜日にとりあげたアルキメデスの、1907年に見つかった著作をデジタル化して解読するプロジェクト(1998年に落札した正体不明のIT長者による。1999-2008、すでに終了)です。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%AA…

マキャベリ(3) サヴォナローラとヒエローン2世

今週の「君主論」は、第6章「自分の手勢で勇敢に獲得した支配権」です。いろいろな例が出てきます。歴史上の例を挙げて「自力がないと国の支配権を新しく得たり維持したりすることはできない」ことを論証していますが、名前だけあがっている例がどれも「濃い」のでこの本が「難解」との評はわかります。また、例をつなぐ一つ一つの文がそのまま警句としても成立します。おもしろかったのは 「賢人は過去の優れた人たちを見習うべきである。その理由は、弓の達人が、遠くて届かない的を射るときに的の高さよりもはるかに上を狙うのと同じである」 「人間はなにか的確な実験によって納得しないと新しい制度を信用しない」 武力を持たなかったた…