孫子 百戦百勝は善の善なるものに非ず

今週の孫子は、第3章 謀攻篇(Attack by stratagem) から有名な言葉「百戦百勝は善の善なるものに非ざるなり」です。目的は敵の支配であって敵を破壊することではない、それならば戦わないで目的を達成できるほうがよいではないか、という主張です。その通りですね。 「1.孫子曰、凡用兵之法、全一国為上、破国次之。全軍為上、破軍次之。全旅為上、破旅次之。全卒為上、破卒次之。全伍為上、破伍次之。2.是故百戦百勝、非善之善者也。不戦而屈人之兵、善之善者也。故上兵伐謀。其次伐交。其次伐兵。其下攻城。攻城之法、為不得已。・・・ 6.故善用兵者、屈人之兵、而非戦也。拔人之城、而非攻也。毁人之国、而非…

ヒンデンブルク号の爆発

久しぶりに事故の分析です。講義で水素分子の回転ラマンを使って量子統計(フェルミオンとボゾン)を説明しました。雑談用に、ヒンデンブルク号の爆発について調べたところ、wikipediaは動画付きでした。web講義でリンクのみ示しましたが、見た学生には衝撃があったようです(感想から)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Hindenburg_disaster_newsreel_footage 最近の説として: ・Alの船体にAlと酸化鉄を混ぜた塗料を使っていて、静電気による火花(static spark)でテルミット反応が起きたという説(焼夷性塗装仮説 incendiary…

スピン・統計理論

ボーズ粒子はスピンが整数、フェルミ粒子はスピンが半整数であることは習ったと思います。 講義の質問で、その理由が気になる人が多いようなので正月休みに調べました。 Pauliが相対論と場の量子論を組み合わせて導いたという話は聞いていましたが 現在もまだ議論があるようです。wikipediaによると微視的因果律、エネルギーの正値性を用いるWightmanの理論というのがあるそうですが、相互作用する場合はそれだけでは不足とのこと。 http://faculty.poly.edu/~jbain/Talks/ExpSSC.pdf  (pdfがダウンロードされます) がよくまとまっていると思います。この人は…

物質波の干渉実験

10年やった1年生向けの講義を若い先生に引き継ぐことになりました。これまでの質問をまとめていたところ、物質波の干渉で、C60分子が干渉するという教科書の記述に質問が集まっていました。これは、1999年の論文 https://www.nature.com/articles/44348 です。ボーズ粒子とフェルミ粒子の区別には使えないかと思って調べてみたら、下記に質問・回答があり、二重スリットによる干渉は使えないそうです。一粒子による自己干渉だから、だそうです。 https://physics.stackexchange.com/questions/249066/do-bosons-and-fer…

世界の研究所 ベルギー IMEC

年初にあたり、2021年が皆様にとって良い年であるようにお祈りいたします。 さて、今週の世界の研究所は、ベルギーのimecです。電子工学(リソ、太陽電池、グラフェン、有機など次世代を狙う)・情報技術にかかわる先端技術をEUの中心の一つとして研究しています。所員は4000人、年間予算は535 million Euro(670億円)。数年前にASMLと共同でEUV技術の研究部門を作りました。名称がInteruniversity Microelectronics Centre であることからわかるように、大学とも共同しています。日本の産総研は年間予算1120億円、所員は3000人なので、対応している…

孫子 専門家の暴走はいけません

今週の孫子は、第10章 地形篇(terrain)からです。今日は孫子の主張に反対です。「自分の専門知識による結論と反していれば、上の命令を聞かなくてもよい」、と書いてあります。160年前の維新の志士たちは孫子を読んでいたはずで、この辺も参考にしていたのではないかと思います。しかし、90年前から15年続いた日本の大失敗の原因の一つもこれです。いくら動機が正しいと思っても、個人として潔くても、専門家の暴走はいけません。専門家は、自分が視野が狭いことを意識する必要があります。最近は「結果責任」という言葉をよく目にするようになりました。手順を踏んだ上で決定し、その決定者にも責任を課すならば、良いことだ…

オランダASMLと最近のリソグラフィ技術(3)

リソグラフィにEUV光源を使えば、高価なマスクの枚数をUV光源に比べて10分の1以下に減らせます。マスク交換・位置合わせの手間もその分減るので生産性も上がります。 EUV光源は波長13.5nm程度の極端紫外線(extreme ultraviolet)というより軟X線で、ArFレーザー(193nm)よりも1桁以上短いです。 https://en.wikipedia.org/wiki/Extreme_ultraviolet_lithography 通常の物質は、いくら励起しても化学結合のエネルギーよりもずっと高いエネルギーを持つEUVの光を出すことはできません(化学結合が切れて壊れてしまう)。原子…

オランダASMLと最近のリソグラフィ技術(2)

ArF液浸リソグラフィは、ArFレーザーを使った193nmの紫外線を使ってリソグラフィーします。ArFレーザーはエキシマーレーザーの一つです。エキシマーexcimerというのは、励起状態で安定な原子や分子の会合体です。ArFの場合は、ArとF2を混ぜて放電してできるArF*というエキシマーを使います。昔からあるHeNeレーザー(633nm)、HeCdレーザー(325nm)などはこれとは違い、Heは放電で励起されてNeやCdの原子にエネルギーを移す役割です。 希ガスが励起状態で化学結合を作って会合体になるのは面白いですね。 https://en.wikipedia.org/wiki/Excime…

オランダASMLと最近のリソグラフィ技術(1)

オランダといえば、半導体装置メーカーのASMLは極端紫外光(EUV)でのリソグラフィ装置(7nm以下)を作れる唯一のメーカーで、2000年代になってからのArF液浸リソグラフィ以降、日本のニコンとキヤノンが持っていたリソグラフィ装置のシェアをほとんど奪ってしまいました。とりあえずニコンは古い特許のライセンス料をもらえたようです。 https://news.mynavi.jp/article/20190403-801385/ https://www.nikon.co.jp/news/2019/0123_01.htm ASMLは2013年にははArFレーザー光源(波長193nm)のCymer社(米…

世界の研究所 オランダ TNO

今週の世界の研究所はオランダについて調べました。面白いことに、研究所連合(TNO)の支店が日本にあります。 https://japan.tno.nl/about-tno/ TNOはオランダの国立研究所や大学の研究をビジネスに結び付けて世界に売り込む、日本にはあまりないタイプの組織ですね。大学の教員も所属して、研究とともに方針を決めたりしています。日本でいうとNEDOに近いかもしれませんが、NEDOは大学の先生が長期のメンバーとして所属したり、技術を外国に売込んだりはしていないです。 https://www.tno.nl/en/about-tno/lead-scientists/ sell, p…