望遠鏡の補償光学系のしくみ Shack-Hartmann 光学系

Keck望遠鏡やすばる望遠鏡で使われているadaptive optics(適応光学系、補償光学系)は面白いです。光の波面をマイクロレンズの列に通すと、小さい領域に分かれて結像しますが、そのとき光の波面の方向によって焦点位置が横にずれます。それをイメージセンサーで測ると波面の揺らぎがわかるので、反射望遠鏡の鏡も分割しておいて、波面の揺らぎが平行になるようにそれぞれの鏡を動かすという仕組みです。賢いですね。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%AB%E3…

太陽系外惑星探査の方法 恒星の発光スペクトルのドップラーシフトの変調を調べる

太陽系外惑星のカタログが作られた話の続きです。やり方としては、望遠鏡で恒星をたくさん観測して変な動きをしているものを探し、見えない伴星(惑星)の質量と軌道を予想します。見えそうなら、高性能の望遠鏡でその恒星周辺を高感度測定すると惑星が実際に見え、分子固有の発光スペクトルから大気の成分を、そのドップラーシフトから速度、軌道半径を使って質量を割り出すというものです。 精密な観測が行なわれているので驚きますね。最初の変な動きの恒星は、米国のカリフォルニア州のハミルトン山にあるAutomated Planet Finderという望遠鏡(主鏡2.4m)を使うか、欧州宇宙機構のGaia宇宙望遠鏡、Hipp…

世界の研究所 太陽系外惑星探査を行う TESS-Keckプロジェクト

宇宙について考えるのは精神衛生上よいので、おすすめします。勝海舟に言わせると若い時にエネルギーが余って困る時は昔の偉人のことを考えて修行を積むようにするといいとのことですが、年齢が上がると、とても真似できない、と落ち込むことも増えてきます。私はそういう時は自分がどうなっても宇宙の運行には影響がない、と切り替えることにしています。 幸い、宇宙探査は多数のプロジェクトが日々進行しているので、面白い話には事欠きません。先週太陽系外惑星のカタログがTESS-Keckプロジェクトから発表されたのを科学系のニュースで見た人もいると思います。 https://www.keckobservatory.org/…

ドン・キホーテ(3) サンチョ・パンサの人となり

金曜日の「ドン・キホーテ」、今週はサンチョ・パンサについて。この人はほとんど勉強をしたことがなく、「島の太守にしてやる」というドン・キホーテの口車に乗って何か月単位で一緒に旅をしています。数日で村に戻れるようですから、旅の範囲はそう広くありません。ドン・キホーテがいろいろなトラブルを起こして殴られたり羊の群れに突撃して羊飼いから石を投げられたりしたときにに助けにいって巻き添えになる役回りです。食べ物をロバに載せているので二人の食物はそれが頼りですが、ときどき宿代の代わりに奪われたり無くしたりして苦労します。 以下のセリフで人となりがわかるでしょう。 二人で野原の中で夜を明かすときに水音と繰り返…

ニッケルの用途:鉄系合金、銅と金を隔てるための下地メッキ、電池

ニッケルの用途は触媒のほかに、ステンレスなどの鉄系合金、電子部品や回路のメッキ、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池などがあります。鉄系合金では鉄の焼き入れ焼きなましに関係する結晶構造変化(fccとbcc)の制御と表面不働態膜の安定性のため添加されます。ニッケルを入れると一般に耐食性が増しますが、それはニッケルが周期表の10属で鉄よりも価電子が多いことに関係があります。 https://www.rsc.org/periodic-table/element/28/nickel 電子回路のメッキについては、耐摩耗性と、金メッキの下地としての用途です。銅の上に直接金メッキをすると、銅と金は安定な…

ラネーニッケル

独断ですが、ニッケルといえば水素添加触媒であるラネーニッケルが印象的です。これは1926年にアメリカの会社の技術者Murray Raneyさん(41才)がアルミとニッケルの1:1合金からアルミをNaOHaqで溶かしだすことによってつくった多孔質体のニッケルで、低温で高い活性を持つことが知られています。Raney(R)というのは彼が務めていた会社が商標化してまだ使っています。もうすぐ100周年ですね。 https://en.wikipedia.org/wiki/Murray_Raney アイデアが湧いたので試してみたら一発でうまくいった、とのことです。こういうこともあるので、研究は面白いです。多…

ニッケルカルボニル Ni(CO)4 は低沸点液体で猛毒だが高純度ニッケルを取り出せる

ニッケルの精錬には、1890ころ発明されたMond法が一時期使われていました。今でも一部使われています。これは、租ニッケルに一酸化炭素を加えて反応させ、Ni(CO)4という揮発性の液体分子(沸点46℃)にして気体として集め、加熱してCOを除去する方法です。Niだけ一段階で高純度に精製して取り出せるのできわめてすぐれた方法です。一般に蒸留が使えるような気体-液体系にできると非常に使い勝手がよく、ハロゲンを使うプロセスがTiやZrには使われます。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%97%E3%83%AD%…

世界の研究所 国際業界団体 ニッケル協会の Nipera Inc.

南太平洋の島 ニューカレドニア(New Caledonia フランス領)で政情不安が起こっているそうです。 https://www.bbc.com/news/articles/cyj348wwggzo 人口30万人の「天国に一番近い島(1984年の映画の題名)」で何が起こっているのでしょうか。下記の欄外「お知らせ」にあるように、空港が閉鎖されて今は行けません。 https://www.newcaledonia.travel/ja/rebranding-ocean ニューカレドニアは、一時期世界最大規模だったニッケル鉱山があります。世界の埋蔵量の10%だそうです。最近車載用のリチウムイオン電池で…

ドン・キホーテ(2) 風車との闘い

今回から金曜日は「ドン・キホーテ」(Don Quixote) を英語で読んでいきます。皆さん概要は子供の時に読んででいると思いますが、スペインの田舎の郷士(土地と小作人を持った下級貴族)、40才、未婚、が騎士道小説を読みすぎて現実と物語の区別がつかなくなり、自ら騎士となって冒険に繰り出して周りを振り回しながら自分はたいてい痛い目にあう、というのを繰り返します。 改めて読んでみると、面倒を起こす一番の原因は、騎士道物語では城に泊まると無料だから、という理由で宿代を払わないことですね。最初の1週間の旅は一人+馬のロシナンテで出かけますが旅の商隊といさかいを起こしてけがをして動けなくなります。通りか…

光を使った分子検出:キャビティリングダウン分光法(CRDS)とレーザー誘起蛍光(LIF)

昨日は気体分子のセンサーとして触媒酸化式、半導体式、電池式をとりあげました。これらは被検出分子を酸化還元に利用して熱や電流として検知します。その他にもいろいろありますが、分子固有の光吸収や発光を利用するものもよく使われます。コロナで換気の重要性が指摘された結果、教室や大規模店舗などにCO2センサーが設置されるようになりました。あれはCO2の近赤外線の吸収(波長4.26μm)の強度を測定しています。光源はハロゲンランプに干渉フィルター(4.3μmとCO2が吸収しない3.9μmなど)をつけて、透過光の強度を比較すればLambert-Beer則でCO2の濃度を算出できます。感度は10ppmの桁になり…