昨日は気体分子のセンサーとして触媒酸化式、半導体式、電池式をとりあげました。これらは被検出分子を酸化還元に利用して熱や電流として検知します。その他にもいろいろありますが、分子固有の光吸収や発光を利用するものもよく使われます。コロナで換気の重要性が指摘された結果、教室や大規模店舗などにCO2センサーが設置されるようになりました。あれはCO2の近赤外線の吸収(波長4.26μm)の強度を測定しています。光源はハロゲンランプに干渉フィルター(4.3μmとCO2が吸収しない3.9μmなど)をつけて、透過光の強度を比較すればLambert-Beer則でCO2の濃度を算出できます。感度は10ppmの桁になります。もっと感度を高くしたければ、鏡や半透鏡を複数使って光路長(光が検出ガスを通る回数)を長くすれば濃度が薄くても繰り返し吸収が起こるので吸収を稼げます。
光路長を無限に長くしたものが「光共振器 optical cavity」ですが、光が何回往復しているかがわからないので吸収強度を校正するのが面倒です。うまいやり方があります。共振器に試料ガスをいれておき、光を入れてから突然光を遮断します。その時に、反対側から出てくる光の強度を測定していると、入射光が遮断されてから強度が減衰していくのがわかります。気体の屈折率から光速度がわかりますから、光の減衰の様子から、光の吸収強度と共振器中の光の滞在時間の両方の情報を得ることができます。特にレーザー光を使い共振器をその波長で干渉が強め合うようにセットします。cavity ring-down spectroscopy (日本語でも英語をカタカナで使う。CRDS)と呼ばれていて、実用化されています。
装置は何とか片手で持てる程度で、精密な機構を堅牢に作らないといけないこと、室温変化による熱膨張の影響を避けなければならないため、かなり高価です(1000万円の桁)。
波長可変レーザーを使って特定の原子や分子を励起させてから蛍光を測定するlaser induced fluorescene (LIF)も古くから使われています。原理は単純ですが、単純な分子や原子に対してはそれだけを分析できるので強力な手法です。たとえば、硫化物のCVDの際にS原子、S2分子、S4分子がいるはずですがそれらの濃度を知ることができます。最近はパルスレーザーが小型化したので波長可変も楽にできるようになりました。それでも波長変換装置は高価なので(非線形光学結晶を組み合わせれば作れると思いますが調整がたいへん)、一式そろえるには小さい家が買えるくらいのお金がかかるはずです。
重要な実験と言えますが、あまりやっている人を近くで見かけなくなりました。反応機構を知るよりも試行錯誤で物を作ったほうが速い(少なくとも設備投資が要らない)ということでしょうか。計算もできますが、不確定要素が大きいのでLIF実験で直接チェックしたくなります。やってみたい実験の一つです。
英語は、https://en.wikipedia.org/wiki/Cavity_ring-down_spectroscopy
ring-down 2枚の鏡を往復する形態が多いですが、三角形やそれ以上の多角形状に光をぐるぐる回す共振器もあり、その場合はring-downの言葉どおりで回りながら弱まっていく感じです。その辺からついた名称かなと思いますが、根拠は調べていません。
whispering gallery mode cavity ささやき回廊モードの共振器 上記の多角形を無限にすると円になります。これも共振器として使われます。由来はたしかイギリスのセントポール大聖堂で壁の近くで話した声が非常に遠くまで届くことから。粋な命名です。ポリマー微粒子は簡単に真球になるので、レーザーと組み合わせた実験に適しています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%95%E3%81%95%E3%82%84%E3%81%8D%E3%81%AE%E5%9B%9E%E5%BB%8A
absolute optical extinction coefficient 絶対光学消衰係数
and in tern to determine mole fractions down to the parts per trillion level. そしてモル分率をppt (1兆分の1)のレベルまで決定するのに使う
a high-finesse optical cavity 高フィネスの光共振器 フィネス は鏡の平行度や反射率が高くて光が多数回往復することができる性質を表す光共振器に対する形容詞。
“There are two main advantages to CRDS over other absorption methods:First, it is not affected by fluctuations in the laser intensity.”
main advantages 主要な利点
is not affected by ~の影響を受けない
fluctuations 揺らぎ
“Second, it is very sensitive due to its long pathlength.”
行路長が長いため非常に高感度になる。