一人当たりGDPと社会実験

昨日は経常収支(外国からの収入)が年間20兆、その大部分が投資収益で、これを維持するには国際秩序の維持が必要、という話でした。が、年間20兆円は1億人の国民一人当たりにすると年間20万円で、生活を維持できる額ではありません。人口が少なければ、例えばルクセンブルクのように、それだけで食べていけるのだと思います。重要なのは一人当たりGDPで、日本は年間400万円です。この額が減って国別順位が落ちていることを嘆く人がいますが、高齢化で働き手やその労働強度が減っているので自然なことのように思います。GDPは給料の総和と言ってもよく、国内分の仕事も含みます。国内分だけでGDPを勝手に増やすことができるか…

ピケティの “r > g”と日本の国際収支

昨日解説したように、お金の総量は増える動機はあっても減る仕組みはないので、増え続けています。ちょっと前に流行ったThomas Piketty「21世紀の資本」には、古い記録からさかのぼって調べて導いた”r>g”という経験式が載っています。rは資本収益率、gは経済成長率で、資本を持っていると経済成長率以上に増える、ということです。 https://www.bank-daiwa.co.jp/column/articles/2018/2018_115.html 「富めるものはますます富む」が事実であることを言っていますね。私の素人考えでは、この背後のメカニズムはお金の総…

マネーの総量の膨張

今週はIMF(国際通貨基金)から始めたので、お金の話をしましょう。私なりの理解なので、間違っているかもしれません。技術の話と違って誤っても大きな危険はなく、皆さんが自分の経験から間違いを見つけるのも楽しみだと思うので、恐れず進めます。 現在のお金は紙幣や硬貨以外の、帳簿にしかない、いわゆる「マネー」が圧倒的に多いです。 https://data.imf.org/?sk=B83F71E8-61E3-4CF1-8CF3-6D7FE04D0930 に国別、年次別 monetary stock の詳細があります。 お金(金融)の大きな役割として、「信用創造」があります。 「発明をしたので工場を作りたい…

世界の研究所 International Monetary Fund (IMF,国際通貨基金)

今週の世界の研究所は、International Monetary Fund(IMF,国際通貨基金)です。ここは米国ワシントンDCにある国際的な行政機関ですが、研究者を約160人(名簿と経歴・業績がwebにあります。日本人も数人います)かかえており、各種レポートを無料で出版しています。日本語のページもありますが、一部最新情報は訳されていません。 https://www.imf.org/ja/Home https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E9%80%9A%E8%B2%A8%E5%9F%BA%E9%87%91 によると、各国中央銀行のと…

墨子(2) 雲梯の発明者との駆け引き

今週の墨子は、巻13公輸 を紹介します。原文は下記です。 https://ctext.org/mozi/gong-shu/zh あらすじは https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AC%E8%BC%B8%E7%9B%A4#%E3%80%8E%E5%A2%A8%E5%AD%90%E3%80%8F%E5%85%AC%E8%BC%B8%E7%AF%87 落ちもあって、面白いと思います。 公輸盤(別名 魯班 BC507-444) は伝説化・神格化した技術者で、鉋(かんな)・錐(きり)・鋸(のこぎり)の発明、3日間飛び続けた飛行機(凧とも)(下記銅像)を作った伝説があり…

量子もつれを発生する方法

量子もつれを起こした2つの光子が昨日の量子暗号鍵配付には必要です。どうやってつくるかというと、非線形光学結晶(KTP, KTiOPO4等)にレーザーを当てます。そのときにspontaneous parametric down conversion (SPDC)という効果で絡み合った2つの光子が発生します。これは数式で書くと出てくるのが分かるのですが、イメージしにくいですね。 https://arxiv.org/pdf/2007.15364.pdf  (英語のpdfです) https://www.youtube.com/watch?v=5Iv6dJD4q4A 下記は、違う目的(光検出器の感度校正…

量子暗号 量子もつれを使う方式

昨日は「単一光子」と「偏光」により傍受の恐れのない信号伝達を可能とするBB84という方式を説明しました。傍受すると偏光が変わってしまうためにバレるはいいのですが、信号が減衰すると「単一光子」が検出できなくなってしまってこの方式は使えません。そこで衛星を介するような長距離で使われるのが「量子もつれ」の状態にある光子です。量子もつれは集団に対しても適用できるので(例:二次元NMR)、信号を強くしても使えるのだと思います。 典型的なE91方式について、一般向け解説は下記。 https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2009/29/news050_4.html…

量子暗号 単一光子と偏光を使うBB84

量子暗号というのは、送信者(Aliceということが多い)と受信者(Bob)の間であらかじめ複数の暗号表を共有しておいて、「これから何番の暗号表を使うから」という数字1つを安全に送れれば良しとしているようです。その数字の送り方に量子力学を使います。一番最初に提案されたのがBB84と呼ばれるもので、偏光の性質を使います。 偏光子は、単純化すると、電線が一方向に平行に密集して張ってある板で、偏光の電場が電線に平行だと電子が動いて光を吸収するが、垂直だと吸収しないという仕組みです。さて、一方向に偏光した光(直線偏光)を、それと45°の向きの偏光子に通したとしましょう。原理から、出てくる光は新たな偏光子…

世界の研究所 Institute of Quantum Optics and Quantum Information (IQOQI) – Vienna

今週の世界の研究所は、オーストリアの Institute of Quantum Optics and Quantum Information - Vienna (IQOQI-Vienna、ウィーン量子光学および量子情報研究所)です。ここはオーストリア科学アカデミーの下にあり、7つの研究室があります。先週末に紹介したQUESS (Mozi) 衛星を用いた実験などを行っています。Missionは、”theoretical and experimental research on the foundations of quantum physics, quantum information and …

墨子(1) 科学技術の先駆者

金曜日の読書はマキャベリも検討したのですが、「墨子」を先にやることにします。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A2%A8%E5%AD%90 によれば、BC470-BC390ころの戦国時代の人物で、日本語にも「墨守」など入っています。博愛と非攻(専守防衛)を唱えた思想家で、都市防衛の技術を各国に伝えて生業を立てた集団のリーダーのようです。現在では科学技術の先駆者(科祖)とされているそうです。下記wikipedia中国語版には、日本語版で「難解」と片付けられている部分が詳しく書いてあります(てこの原理、原子論、はじめてピンホールカメラを作った 等)。 https…