分子進化時計と「中立説」

DNAの変化を調べることにより、いつ種が分化したかを推測する手法があります。電気陰性度で有名なL.Pauling とE.Zuckerkandlが1962年に発見した「分子進化時計」を使っています。彼らはヘモグロビンのアミノ酸の変化の種による違いに系統性を見出しました。1980年代以降にDNAを直接調べることが可能になり、DNAのうち機能を持たない部分の変化速度が年あたりほぼ一定であることがわかりました。これを説明するのが1968年に遺伝研の木村資生博士から提出された「分子進化の中立説」です。 https://en.wikipedia.org/wiki/Neutral_theory_of_mol…

人間の遺伝的個性とSNPs

人間の持つ遺伝情報(human genome ヒトゲノム)は30億塩基対、750MBだそうです。USBメモリに余裕で入る量なので意外と少ないように思いますが、一つ一つ見ていくと気が遠くなりそうです。そのうち、タンパク質をコードしている部分は約30000種類と言われており、そのほかに、発現の制御プログラムの条件文(どのような条件のときどのくらいそのタンパク質を作るか,典型的な動作速度は20分と聞きました)なども書き込まれているというのが私の理解です。これを調べれば製薬に役立つのは間違いないので、多くの人が研究に従事しています。バイオインフォマティィックスは、最近のデータサイエンスの先駆けとなった…

世界の研究所 国立遺伝学研究所(日本)

今週の世界の研究所は、静岡県三島市の国立遺伝学研究所(National Institute of Genetics; NIG)です。 https://www.nig.ac.jp/nig/ja/ データーベースの整備や、遺伝資源の保存など地道な仕事の他に、遺伝学に関する研究を行っています。所員は500人。 人間の遺伝情報の概略はすでに得られており、個人による違い、その機能や病気(がんなど)のときにどこが変化するかが研究されています。 人間のゲノムの情報量は750MBと言われています。 https://en.wikipedia.org/wiki/Human_genome#Information_c…

Hoffmann 藍の染め方

金曜日は「今週のHoffmann」と称して、Woodward-Hoffmann則の理論家 Roald Hoffmannが著者の一人である Old Wine New Flaskから面白そうなところを引用しています。この本は、ユダヤの伝統と化学のエピソードを混ぜて解説した独特の本で、何か役に立つ文化的側面がないかと思って読んでいます(ここで取り上げるのは、単語が難しいので自分では面倒で読まないからです)。2000年以上の間、時代に合わせて議論を尽くしそれを記録する民族性について私の認識は深まりました。最近の「サピエンス全史」(Y.N. Harari著)の著者はイスラエルの人ですが、訳者による下記の…

歴史探偵のメッセージ

先日亡くなった歴史探偵・半藤一利氏の「昭和史(上下)」は歴史好きにはおすすめです。語りかける口調で、一部は読者代表のような形で編集者が質問して話が進んでいくので読みやすいです。昭和64年間の社会全体の動きが俯瞰できるので、未来を考えるのに役立つと思います。今はSNSで人が直接つながりすぎることの弊害が出てきていますが、ここ100年程、技術の進歩が激しく社会を揺すぶっている様子も読み方によっては分かると思います。 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210209/k10012858531000.html?utm_int=detail_contents_news-…

イギリス人の若い時の冒険

昔のイギリス人の冒険について。Winston Churchillは最近も映画になっています。ノーベル文学賞の対象になった「第二次世界大戦」は長いですが、活字が嫌いでなければ、若い時に一読をお勧めします。「方針を提示して皆をまとめる」「苦悩の中で決断する」というリーダーのだいじな責務について、参考になります。Churchillは貴族の家系ですが、早く父親が亡くなったため若い時にCuba, India, Sudan, South Africa等で軍人・従軍記者として戦闘の最前線で勤務したとのことです。現在の価値観では批判されるところもありますが、なかなかまねできない働きだと思います。Churchi…

Charles Darwinの仕事ぶり

進化論のダーウィン(Charles Darwin 1809-1882)の経歴と仕事ぶりは興味深いです。上流の医者の子供で食べるには困らなかったようですが、大学を2つ卒業していて、1831-1836(22才~27才)の間ビーグル号(HMS Beagle)の第二回の世界一周の探査に参加しています。(このころの?)イギリスの裕福な人は若い時に冒険をする文化のように見えます(いずれ取り上げます)。1859年に種の起源(On the Origin of Species)を出版しています。最晩年まで研究を続け、ミミズの研究(詳しい生態と土を作る役割の定量的研究、研究レポートの模範としてよく取り上げられます…

世界の研究所 Institute of Archeology (University Colledge London)

今週の世界の研究所は、University Collage London, Institute of Acrcheology (考古学研究所)です。 ざっと調べたところ、考古学研究所と銘打っているところはここだけのようです(博物館は他にたくさんあります) University College London (UCL)は、ロンドン大学の一部として位置づけられています。30名のノーベル賞(Ramsey, Braggなど)と3人のフィールズ賞を出しています。昔から留学生教育に熱心で、伊藤博文、小泉純一郎氏など日本の首相も留学しているそうです。Charles Darwinは裕福な無所属の学者でしたが、…

Hoffmann  キラリティが炭素四面体由来であることはファントホフが22才で指摘した

今週のHoffmanは第3章”You must not deviate to the right or the left”からです。分子のキラリティから始まって、権威と意見が対立した場合の振る舞いについて、Talmudとキラリティの研究史を使って説明しています。面白かったエピソードは、分子のキラリティが炭素の四面体からできているという論文をかいた若者たちを(van’t Hoffと Le Belが独立に提出)、権威(H.Kolbe、無機物から有機物を合成した業績および有機電解反応で有名)がけちょんけちょんに批判したことです。van’t Hoffは熱…

ブログ小説「火星の人」

火星と言えば、Andy Weirのブログ小説”The Matian”(2011年)が流行って映画(2015年)にもなりました。私の知り合いの先生が映画の化学的側面の助言をしたと言っていました。 https://www.andyweirauthor.com/books/the-martian-tr この話は、事故で一人で火星に取り残された人が工夫を凝らして生還する話で、技術的細部が面白いです。ネットで連載していて、終わるときには読者がたくさんついたということです(今は上記サイトで数ページしか公開されていません)。日本でいうと「100日ワニ」のような感じでしょうか。 上記サ…