孫子 専門家の暴走はいけません

今週の孫子は、第10章 地形篇(terrain)からです。今日は孫子の主張に反対です。「自分の専門知識による結論と反していれば、上の命令を聞かなくてもよい」、と書いてあります。160年前の維新の志士たちは孫子を読んでいたはずで、この辺も参考にしていたのではないかと思います。しかし、90年前から15年続いた日本の大失敗の原因の一つもこれです。いくら動機が正しいと思っても、個人として潔くても、専門家の暴走はいけません。専門家は、自分が視野が狭いことを意識する必要があります。最近は「結果責任」という言葉をよく目にするようになりました。手順を踏んだ上で決定し、その決定者にも責任を課すならば、良いことだ…

オランダASMLと最近のリソグラフィ技術(3)

リソグラフィにEUV光源を使えば、高価なマスクの枚数をUV光源に比べて10分の1以下に減らせます。マスク交換・位置合わせの手間もその分減るので生産性も上がります。 EUV光源は波長13.5nm程度の極端紫外線(extreme ultraviolet)というより軟X線で、ArFレーザー(193nm)よりも1桁以上短いです。 https://en.wikipedia.org/wiki/Extreme_ultraviolet_lithography 通常の物質は、いくら励起しても化学結合のエネルギーよりもずっと高いエネルギーを持つEUVの光を出すことはできません(化学結合が切れて壊れてしまう)。原子…

オランダASMLと最近のリソグラフィ技術(2)

ArF液浸リソグラフィは、ArFレーザーを使った193nmの紫外線を使ってリソグラフィーします。ArFレーザーはエキシマーレーザーの一つです。エキシマーexcimerというのは、励起状態で安定な原子や分子の会合体です。ArFの場合は、ArとF2を混ぜて放電してできるArF*というエキシマーを使います。昔からあるHeNeレーザー(633nm)、HeCdレーザー(325nm)などはこれとは違い、Heは放電で励起されてNeやCdの原子にエネルギーを移す役割です。 希ガスが励起状態で化学結合を作って会合体になるのは面白いですね。 https://en.wikipedia.org/wiki/Excime…

オランダASMLと最近のリソグラフィ技術(1)

オランダといえば、半導体装置メーカーのASMLは極端紫外光(EUV)でのリソグラフィ装置(7nm以下)を作れる唯一のメーカーで、2000年代になってからのArF液浸リソグラフィ以降、日本のニコンとキヤノンが持っていたリソグラフィ装置のシェアをほとんど奪ってしまいました。とりあえずニコンは古い特許のライセンス料をもらえたようです。 https://news.mynavi.jp/article/20190403-801385/ https://www.nikon.co.jp/news/2019/0123_01.htm ASMLは2013年にははArFレーザー光源(波長193nm)のCymer社(米…

世界の研究所 オランダ TNO

今週の世界の研究所はオランダについて調べました。面白いことに、研究所連合(TNO)の支店が日本にあります。 https://japan.tno.nl/about-tno/ TNOはオランダの国立研究所や大学の研究をビジネスに結び付けて世界に売り込む、日本にはあまりないタイプの組織ですね。大学の教員も所属して、研究とともに方針を決めたりしています。日本でいうとNEDOに近いかもしれませんが、NEDOは大学の先生が長期のメンバーとして所属したり、技術を外国に売込んだりはしていないです。 https://www.tno.nl/en/about-tno/lead-scientists/ sell, p…

孫子 怒りの感情

今週の孫子は、第12章 火攻篇からです。怒りの感情に任せて戦うと取り返しがつかないことになる、と言っています。 怒りの制御法についてはセネカ(Lucius Annaeus Seneca;BC1-AD65)をはじめ多くの哲学者が取り上げています。 https://eigomeigen.com/anger.php 最近の本では「ヤクザ式 相手を制す最強の「怒り方」 (光文社新書) 」向谷匡史著 が面白いと思いました。怒りを抑えつけるのではなく、頭を使って溜飲を下げながら自分の利益に結び付ける方法が解説されています。親しい間でやると角がたちますが、ビジネスの交渉では有効かもしれません。 「主不可以怒…

反応探索ソフトと海賊版サイトへの注意

反応探索には、出版社Elsevier のReaxysという有料のデータベースがよく使われます。これは、分子構造その他条件を入れると、関連文献を教えてくれます。この中身・しくみについては堅く秘密にされているそうです。IBMのroboRXNとは競合すると思います(IBMが文献情報を使っているかどうか不明。純粋に第一原理計算+AIだとあまり賢くないでしょう)。価格設定がどう変わるか、興味深いです。Reaxysは平成30年の産総研の契約情報が公開されていて年間1700万円余です。高いですね。 イスラエルの歴史学者ハラリ(Yuval Noah Harari)の本のどれか、多分”Homo De…

SMILES

IBM roboRXNでは、分子の記述にSMILES(simplified molecular-input line-entry system)という記法を使っています。これは、分子中の原子のつながり方を1次元の文字列で記述する方法で、1980年代に開発されました。現在、大部分はオープンソースですが(”RDKit”で探してみてください)、SMILESの考案者 David Weiningerに関しては追悼文が専門誌にあり、web公開されています。それによると、同氏は大学の人ではなく、会社→大学院で博士→自治体で環境中の化学物質の毒性を調べる→毒性データベースのためにSMI…

受託合成サービス

ロボットを使わない委託合成サービス(人間が実験する)は、合成法の文献が分かっていれば1化合物100万円くらいからやってくれる会社があります。 https://www.ipros.jp/cg1/%E5%90%88%E6%88%90%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%93%E3%82%B9/ また、ペプチドなどは大学のバイオの研究室も外に委託することが多いと聞きます。 https://www.peptide.co.jp/custom/peptide_synthesis 一昨年の地震の停電で、せっかく購入したペプチドが全部だめになったと嘆いていた先生がいました。誰も補償してくれなかった…

世界の研究所 IBM AlmadenとIBM robo-RXN

今週の世界の研究所は、アメリカのシリコンバレー(San Jose サンノゼ市)にあるIBM Almaden研究所です。(画像が大きく、ネット接続が重いので注意) https://www.research.ibm.com/labs/almaden/ ここはFortran(プログラミング言語)、SQL(relational detabase言語)等の発祥地で、人工知能Watsonがある場所です。また、STMを使って原子を並べて文字を書くデモンストレーションで一世を風靡しました。インターネットから使える量子計算機IBM-Qがあるのもここかもしれません。 実際に存在するのはAlmadenではないかもし…