金曜日の読書 “The Consciousness Instinct:…” は今週から第III部に入り第7章です。次章以降での説明に使うのだと思いますが、ちりが光を散乱するチンダル現象のJohn Tyndallの「意識と脳の関係はわかっていない」という講演(1868年=明治元年)への言及から始まり、ボーアとアインシュタインの量子論に関する論争までの物理学の歴史をなぞっています。著者は統計力学や量子力学の必要なところはきちんと理解しているように見えます。日本の心理学者はどうでしょうか。Feynmannによる解説にも言及しています(おそらく https://www.amazon.co.jp/dp/4006001770 の議論。これは古い本ですが、スピントロニクスや量子コンピュータの理解にも役立つので、一読を勧めます)。
特に、Bohrの complementarity (相補性)という概念が章のタイトルにもなっていて重視しているようです。これは、運動量と位置、エネルギーと時間など不確定性関係にある値の間の関係を指しているようで、Bohrの説明にあるように波と粒子の二重性と対応させています。この辺はちょっと違和感のある記述がありました。
次章で量子論と意識の間に関係がある、というPenroseの説が出てくるのではないかと警戒しています(https://www.amazon.co.jp/dp/4622040964)。
この説は私が学生の時に流行りましたが、いろいろアラがあり、好きになれません。AIが発達した現在では否定される(意識というものの理解に量子力学を考える必要はない)と思います。著者の扱いはどうでしょうか。
英語はTyndall の講演の抜粋から:
The passage from the physics of the brain to the corresponding facts of consciousness is unthinkable. Granted that a definite thought, and a definite molecular action in the brain occur simultaneously; we do not possess the intellectual organ, nor apparently any rudiment of the organ, which would enable us to pass, by a process of reasoning, from the one to the other … “How are these physical processes connected with the facts of consciousness?” The chasm between the two classes of phenomena would still remain intellectually impassable.
passage 「パッ」セイジ 道筋
definite 「デ」フィニット 特定の (他「絶対の」の意味あり。 “Definitely!”で「絶対そうだね」「確かに!」「それな」)
granted that … = If it is granted that 過去分詞を先頭に出して仮定や条件を表す文法です。
possess ポ「ゼ」ス 所有する
rudiment 「ルー」ディメント 基礎、痕跡器官 ここでは後者でしょう。
organ 器官
reasoning 理詰めで考えること、思考
chasm 「キャ」ズム 裂け目、深淵