金曜日の読書 ”The Consciousness Instinct:…” は第8章です。第7章で量子力学の解説が出てきたので怪しい議論に行くのではないかと危惧しましたが、杞憂でした。John von Neumannによる量子力学の観測論とコンピュータのオートマトン(自動機械)と生命や進化を組み合わせた議論と、そのアイデアを発展させたHoward Pattee(1926年生まれで存命です)の考えに基づき解説しています。突っ込みどころはありそうですが本質をついている感じがします。論理の流れを追ってみます。
(1)量子力学には「シュレディンガーの猫」で例示されるような、量子力学の世界から人間の大きさの世界に移動するときの「観測問題」がある。(本書には書いてありませんが、ここに観測者の意識が絡んでいるという説(少数派)もあります)
(2)生命と非生命を分ける境界線はなにか、という問題もある。
(3)von Neumann(フォンノイマン)は進化について考察して、DNAのような情報を担う分子があることを推測しました。情報と物質がお互いにやり取りして揺らぎを含む自己複製をするところに生命の本質があると考えました。
(4)Patteeは(3)の考察を進めて、酵素やtRNAなどの分子のサイズが、量子力学的効果と人間の大きさの法則をつなぐ繋ぎ目(tie)になっていると主張しています。すなわち、複雑な生命のような秩序だった構造ができるためには設計図から家ができるようなきちんとした法則(物理で言うと古典力学)が成立することが必要だが、同時に量子力学的な確率的過程がないと設計図は変化できず進化も起こらないということです。
(5)情報が物質に作用し、その物質が情報を変える(←自己複製で次世代にいく過程で)という円環構造が生命の本質であり、細胞レベルでそれが働いている。記号と意味とコードの3つが記号論の構成要素だが、生命を持つものはこの3つを作っているcodemakerを内部に持っている。一方、生命を持たないコンピュータではcodemakerはプログラマであり、外部にある。このことを、生命は”Semionic closure”「記号論的に閉じている」と言っています。
(6)意識は細胞レベルには無いが、意識が多層構造のモジュールで頑強に壊れないのは細胞レベルで同じ働きがあるためである。自分の定義のなかで自己言及することが「自我 self」の本質であり、それは(5)と類似している。
特に(4)(5)は説得力があり、面白いです。読んでよかったと思いました。
Laws are inexorable 変えられない …and incorporeal 実体を持たない.
Pattee suggested that it is the very size of the molecules that ties the quantum and classical worlds together.
The surrender and the truce 降伏と休戦
“Which is not only a shame but a scientific travesty because, for a self-reproducing and evolvable form of life to exist, physical symbols must perform both roles.”
travesty トラヴェスティ 茶番 =something that fails to represent the values and qualities that it is intended to represent, in a way that is shocking or offensive.
Semiotics is the study of signs (a.k.a. symbols) and their meanings. 記号論は記号(別名 象徴)とその意味の学問である。
Thus, Barbieri notes, “a semiontic system is a triad of signs, meanings, and codes that are all produced by the same agent, i.e., by the same codemaker.”
die Schnitte (ドイツ語)サンドイッチ、転じて魅力的な女性。ここでは第7章の量子力学的変数の相補性、観測問題、生命と非生命の境界線などの2つに挟まれた構造のことを指しているように読めます。
delve 掘り下げる
epistemic エピス「ティー」ミック 認識論的な
“Von Neumann concluded that it need a symbolic self-description, a genotype, a physical structure independent of the structure it was describing, the phenotype.”
genotype = DNAなどの遺伝情報
phenotype = 生理的、解剖的、生物化学的、行動・ふるまい
“That paradox has had philosophers and scientists in a dualist hullabalo for more than a couple of thousand years.
hullabalo 大騒ぎ、興奮、騒動
“Inanimate matter abides by physical laws.”
abide = 耐える endure, bare; 待つ wait, expect, anticipate, look forward to
abide by ~に従う、~の下で存在する、約束やルールを遵守する(法律用語) https://tentan.jp/word/abide%20by?wid=206781