金曜日の読書 Why Nations Fail 今週は5章です。収奪的な政治経済制度の下での成長の限界と、成長が終わる時に発生する悲劇について説明されています。最初の例はソ連です。本の説明を単純化すると下記です。
帝政ロシアの独裁→1917年ボリシェビキ革命による独裁の成立→経済を科学的に再整理し発展を計画(米国からの使節が「私は未来を見た、上手くいっている未来を I’ve seen the future. It works」とコメント)→1928年から1960年まで年6%のGDP成長→1970年代に停滞に陥る→1988年に崩壊→ロシア→・・・ です。
停滞の理由は、労働者に発想を実行する自由がないため発明・改良のインセンティブ(動機づけ)が働かず、イノベーション(技術革新)が欠如したため。例外は軍事・航空技術と武器(AK47)で、ここには大変な努力で優秀な人材と資源が投入されたためだとしています。
ソ連の指導者たちははじめは金銭的インセンティブが無くても働く「社会主義者の男女」を作ろうとしていましたが、1931年にはあきらめています。それから計画(5か年計画、ゴスプラン)の割り当てを達成した労働者にはボーナスが支払われるようになりましたが、5か年計画にはイノベーションが入っていないため、発明に対するインセンティブが働かずに停滞が起りました。次に利潤を動機とするために企業に一定の金銭的自由が与えられましたが、利潤の計算に使われた価格決定システムが市場と切り離されていたため、上手くいきませんでした。生産性を高めるため、逆に怠け者に罰を与える方向に進みましたが、イノベーションは生まれませんでした。
これは大きな教訓だと思います。計画しないイノベーションを生むには自由な市場で評価するのが上手くいく唯一の方法ではないかと思いました。企業でも詳細な予算計画を立てるところと、計画は立てずに都度稟議を出して支出を決めるところがありますが、成長が速いのは都度稟議の方のように見えます。我々研究者はイノベーションを起こすのが役割だとされています。「セレンディピティ(偶然の発見)は計画できる」と言っている学者もいましたが、自由を与えて報酬を適切に設計するのが一番早いと思います。
第5章は他にもコンゴの2つの部族(北斗の拳のような社会と中央集権社会)の比較、古代メソポタミアの気候温暖化と定住の始まり、マヤ文明など、中央集権社会の発生に伴う急速な成長と成長の限界による悲劇(中央集権による経済的発展→富の集中によるエリート層の争い→都市間の戦乱→社会の崩壊がマヤ文明の歴史です)がいろいろな例で一般化されています。中央集権による安定した社会は前提条件として必要だが、限界のない経済発展のためには政治的・経済的な自由がなければならない、というのが結論です。社会が自発的に政治的・経済的自由に向かう道筋は細く、「寡頭制の鉄則」という悪循環に陥る例が多いとのことです(4章)。
vet = evaluate 評価する
“History is full of examples of revolutions and radical movements replacing one tyranny with another, in a pattern that the German sociologist Robert Michels dubbed the iron law of oligarchy, a particularly pernicious form of the vicious circle.”
tyranny 暴君
dubbed 名付けた
oligarchy 寡頭制
pernicious パーニシャス 有害な、致命的な = exceedingly harmful
a vicious circle 悪循環 ヴァイシャス=immoral非道徳的な, deliberately cruel or violent 故意に残酷で暴力的な
”Moreover, as early as 1931 he(=Stalin) gave up on the idea of creating “socialist men and women” who would work without monetary incentives.”
monetary マネタリー 金銭的な
incentives インセンティブ
wage ウェイジ 賃金
bonus ボーナス
”The soviet union was able to generate raid growth even under extractive institutions because the Bolsheviks built a a powerful centralized state and used it to allocate resources toward industry.”
a powerful centralized state 強力な中央集権国家
allocate 「ア」ろケイト 配分する
”The Mayas were skilled builders who independently invented cement…. These researchers mapped the rise and fall of Copan city by examining the spread of the settlement in the Copan Valley over a period of 850 years, from AD400 to AD 1250, using a technique called obsidian hydration, which calculates the water content of obsidian on the date it was mined…. The overwhelming fact about the Maya collapse is that it coincides with the overthrow of the political model based on the k’uhul ajaw (=holy king)…. At around AD810 the royal palaces were abandoned.”
cement セメント
settlement 集落
obsidian 黒曜石
hydration 水和
be mined 掘り出された
Maya collapse マヤ文明の崩壊
overthrow 投げ捨てる