金曜日の読書”Hillbilly Elegy”は第11章、海兵隊を満期除隊してオハイオ州立大学を1年11か月で卒業します。海兵隊では、最終的には駐屯地の広報担当を任されました。これは著者の「コミュ力」が高いことを意味していると思います。少年期の苦労で空気を読み適切な応対をする能力が身についていたのでしょう。
本章を読むと米国の公立大学の制度の理解が進みました。
・夏休みに講義を入れることで4年制の過程を2年未満で修了し、しかも「成績優秀」のお墨付きで卒業証書をもらっています。おそらく「優」や「秀」の数の基準をクリアしたのでしょう。日本では年間単位数の上限が決まっているため、学部の短期修了は不可能です(一部、大学院に行くことを前提に短縮できる大学もあるが、実際に短縮する人はきわめて例外的)。
・復員軍人補助制度をつかっても、学費は2万ドル必要だった。これは300万円弱に相当します。日本の大学の年間授業料は54万円程度で、いくつかの大学は10万円値上げしていますので64万円、4年間で220~260万円になります。それほど変わりません。復員軍人制度を使わないと米国の公立大学はもっと高いでしょう。
著者は2万ドルをねん出するために一日4時間睡眠でアルバイトをして(2008年ころ、時給10ドル~18ドル)、過労で感染症にかかって入院したりしています。その後、短期で卒業するために猛烈に授業をとってやはり3~4時間睡眠を続けています(「最も忙しかった2月に、その前に4時間眠った日を調べたら39日前だった」)。
速く卒業したくなった動機は、ゼミで19才の無精ひげのなよなよした男子学生が講義の発表でイラク戦争での軍人に対して言われのない批判をした(面白がって殺人をしている)ためだそうです。
その他、本章では故郷の白人労働者が「他責」傾向が強いために自分を批判的に見ることができず、オバマ大統領に象徴される成功した黒人への嫉妬とあきらめで転落していくことを周囲の実例をもって語っています。自分の人生をコントロールしている感覚を持てないところに問題があり、それはリーマンショック(2008年)後の不況で白人労働者の仕事がなくなり悪化しています。
対照的に、祖母の思い出で、第二次世界大戦の戦意高揚ポスターのキャラクター「リベット工員ロージー Rosie the Riveter」についての話が紹介されます。リベットは、金属板どうしを結合する鋲で、飛行機で多用されています。リベット打ちは単純労働者そのものです。
https://en.wikipedia.org/wiki/Rosie_the_Riveter
1940年代は単純労働は敬意をもって語られる職業でしたが、2008年には景気に振り回される不安定で恐ろしい状況になっているということです。
さて、AIによって現在の知的労働がどうなるか、他山の石、参考にすべきこともあるのではないでしょうか。
印象的な英語を拾ってみましょう。
”By the time I started at Ohio State, the Marine Corps had instilled in me an incredible sense of invincibility.”
by は時間を表す「~までに」
instill インス「ティ」る 涵養する cf. distill ディス「ティ」る 蒸留する なんとなくつながりがわかるでしょう。これは英語と日本語で共通な概念だと思います。
incredible 信じがたいほどの
invincible 無敵の invincible navy = Armada 無敵艦隊(armadaはスペイン・ポルトガル語で「海軍、艦隊」) sense of invincibility で無敵の感覚、ちょっと違いますが「全能感」が日本語ではよく使います。
”I’d go to classes, do my homework, study at the library, and make it home in time to drink well past midnight with my buddies, then wake up early to go running”
‘d = 習慣を表すwould
parent/guardian 親または保護者(入学願書に記載欄がある)
”My illness lasted another few weeks, which, happily, coincided with the break between Ohio State’s spring and summer terms”
last 継続する
coincide with たまたま合致する
the break 休暇
terms 学期
“With the hospital bill piling up, I got a third job as an SAT tutor at the Princeton Review)”
the hospital bill 病院の請求書
pile up 積みあがる
SAT 大学入試の共通学力テスト
tutor チュータ
“I’m a kind of patriot whom people on the Acela corridor laugh at.”
patriot 愛国者
Acela corridor アセラ路線 Boston-New York-Philadelphia-Washington DCを結ぶ高速鉄道、最高時速240km ※この地域には教育を受けたお金持ちが多いということでしょう。
“The Pew Economic Mobility Project studied how Americans evaluated their chances at economic betterment. There is no group of Americans more pessimistic than working-class whites”
betterment 改善
pessimistic 悲観的な
working-class whites 労働者階級の白人
※ 来週は「今日の英語」お休みします。10/14(祝)も休むかもしれません。